社会状況の違い踏まえ国際比較の議論を-日本小児医療政策研究会
具体的に地域を見てみる。私が住んでいたロンドンの隣にあるサレー州。この州(面積1663キロ平方メートル、人口107万人、うち小児24万人)は香川県とほぼ同じぐらい。サレー州だと小児を扱うのは4病院。香川県だと小児科学会会員が勤務しているのは29病院ある。これも一つの鏡として、どっちが良いというものではない。日本はこういう形で医療が提供されているというのが見える。
医師の配置の話。どういう風に医師一人一人が流れていくのかという話。オーストラリアやイギリス、カナダも似たような制度なのでまとめた。どこの国でも医療体制は1~3次、プライマリケアと分けているが、日本ははっきりした区別はない。自治体病院とか公的病院とか経営母体での分け方が多く、他の国のように最初から公的に2次、3次というふうに決めているのとはちょっと違う。日本はグレーというか、役割分担をはっきり決めているのではない。
医師のキャリアパスは似たルートに見えるが、イギリスでは資格なしにポストには就けないというのが、実際に働いてみると全然違う。計画配置という言い方が良いか分からないが、自然にそうなっている。イギリスの小児科医のキャリアパスがどうなっているかというと、イギリスの医学校は5年間。イギリスは国家試験というものはなく、医学校のカリキュラムが厳しくレギュレーションされている。認められていない医学校もある。認められている医学校を卒業すると、学位そのものが医師の仮登録となる。ちょっと古い話になっているが、初期研修が終わったら、医師本登録となる。そこからSHO初期研修という形で勉強する。変わっていることに、小児科学会の専門医試験をまず受からないと専門医研修ができない。ペーパーで知識だけ蓄えて、そこから研修という考え方。受かったらMRCPCHという資格が取れる。受かってからも後期研修の枠が空くまで待たないといけない。競争で取って、こういうかたちで専門医に登録され、認定されたポストでCCSTとなる。そしてはじめてコンサルタントや普通の常勤医になれるが、これにもかなり厳しい就職試験がある。そしてコンサルタントになって5年間、しっかり普通に仕事ができてはじめてフェローが取れるという形。それぞれの資格試験を通らないと、それぞれの研究や病院、診療所のポストにアプライできないという形になっている。このポストがうまく配置されて競争になっていて、自然な配置になっている。日本は大学医局がしっかりと配置している。中には開業される方もいる。こういう形で配置されているというシステム。
日本は社会主義的と言われるが、いろんな側面があり、国民皆保険制度においてのみではないかと思う。小児医療の提供体制は先進諸外国に比べてカオスであると言われるが、カオスというのは良い悪い色々ある。施設や医師の役割分担が非常にグレーで、政策的に役割分担を決めるのが難しく、動かすことはできない。基礎社会基盤という考え方ではなく、市場主義で運営されているという感じがする。多くの国でニューパブリックマネジメント(公共事業)という考え方で医療制度改革がされている。日本もそうといえるのかどうかは分からないが、世界中で医療制度改革がされていて、イギリスも実感として感じた。医療提供体制という時、施設だけでも人員配置だけでも話ができないので、両方組み合わせて考えないといけないと思う。