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ニュース〜医療の今がわかる

苛酷な勤務 最大の原因は医療界自身に

第64回日本消化器外科学会学術総会の特別企画『消化器外科医の勤務環境改善のために何をなすべきか』(18日開催)で日本臨床外科学会会長の出月康夫・東大名誉教授が大変に踏み込んだ特別発言を行ったので、ご紹介する。(川口恭)

私が、医療の社会的な問題や経済的な問題に関わり始めたのは20年ほど前から。外科系学会社会保険委員会連合(外保連)という、元々は外科系の手術の診療報酬をいかに上げるか、どれ位が適切かということを学術的に研究しようという会の委員を数年やって、いろいろな矛盾があると気づいたのでいろいろと言い始めた。

4年前に『日本の医療を崩壊させないために』という本を出したのだけれど、それ以来、日本の医療崩壊が止まるどころか益々悪くなってきているのが現状と思う。最近になって、ようやく政治家も動き始めたし、マスコミもキャンペーンを張ってくれるようになったので、国民も状況をやっと理解し始めている。

今日の話の中心である勤務環境の改善は、医療崩壊を防ぐ一番大切なことだが、どうしてこんなことになったかは今日の話からも明らか。

ひとつの元凶は医療費の抑制。現在の診療報酬では病院の収支がマイナスになるというのは、皆が言い始めていることで、補助金とか助成金をもらっている病院は何とかやっていけるかもしれないが、それがないと確実に赤字になる。

病院は何をやろうと思っても結局はそこがネックになって何もできない。何が足りないかというと、診療報酬に対する原価計算がない。外保連で、それを20年やってきて、やっと少し理解してもらえるようになったけれど、行政の人に言っても『私たちもそれは分かるんですけれど財源がないから上げられない』というのが決まり文句。

もうひとつは、これも今日話の出ていた医療訴訟・医事紛争の増加がある。患者さんと医者の信頼関係が随分と変わってきてしまったことが原因だが、これにはやはり行政・法律家・マスコミのポピュリズム・大衆迎合主義のために人々が喜ぶことを行う、それが本当に本質を分かって喜んでもらっているのならよいのだが、そうでなくて感情論で動いてしまう、そういうものをどんどん後押ししてしまう傾向が今までは少なくともあったという風に考えている。

そして、もうひとつ最大の原因は、医療界自体にあったと思う。特に日本医師会に大変大きな責任がある。病院の崩壊に対して、日本医師会が今まで何も手を打ってこなかった。加えて勤務医や私たち学会も何も言ってこなかった。私たち自身に責任のあることだと思う。

ようやく診療報酬を何とかしよう、医事紛争を何とかしようという機運が出てきたが、でも学会の中だけでやっている限りマスターベーションに過ぎない。やはり外に向かってこういうことを分かってもらう、国民に現在の医療の状況を理解していただく、それを医師1人1人が、あるいは学会がもっと積極的にやらなければならない。

今のような状況で、私たちが卒業したての頃だったら、医師のストライキが確実に起こっていたと思う。そういうこともある程度考えないといけない時期に来ているのだろう。診療を拒否しろと言っているのではなく、やはり私たちの状況を社会に対してアピールする時には、その前提として医師が何らかの行動を起こしている必要があるということだ。

そうでなければマスコミにも分かってもらえない。『先生方そういうことを言うけれど何もしてないじゃない』と言われてしまうのがオチ。昔、学生の時代にストを打って宮城前を駆け回ったのと同じように何らかの行動を医師はきちんと示さなければいけない。それが国民に現状を理解していただく最大の手段だろうと思う。

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