医学部長病院長会議、新政権向け要望まとめる
--3項目目に臨床研修の「今回の見直しでは医療崩壊の改善にはつながらず」と書いてあるが、見直しされたばかりで、まだその結果は出てないのでは?
嘉山
「見直しといってもコンセプトは何も変わってない。4月からの見直しを我々も呑んだ形にはなっているが80大学の医学部長は実際には全員反対だ。すべての問題は、卒後のすべての医師にプライマリケアの研修を義務付けたこと。1年に期間は短くなったとしても、全員に強制するというコンセプトは同じままだ」
吉村博邦顧問(=北里大名誉教授)
「最近の医師不足や医療崩壊に関して医学部定員を増やしたり地域枠を設けたりすればよいかのようなことが言われている。それももちろん必要だけれど、その医師が実際に働けるようになるには10年かかる。それより、どういう医師を育てるのかのグランドデザインが重要。総合医さえ育てれば全部解決するような誤解もあるけれど、米国だって家庭医は全体の10~11%しかいなくて、その先は専門医が担当しているのだから、今のように全員がプライマリケアだけやっていれば全部カバーできるなんてことはない」
小川
「臨床研修を推進している方々や国民の方々には誤解があると思う。卒後2年の研修を終えたら生涯の技量が担保されるような誤解が。実際には我々が常々医師は生涯教育が必要と言っているように、特に最近は進歩が早くて5年10年経つと今の常識が非常識になっていることもある。2年研修したくらいで生涯が担保されるものでない。あくまでも医師の生涯教育全体の中で研修も考えないといけない」
嘉山
「たとえ話をする。国民が知っている医療のレベルというのは、ホテルの接遇にあたる部分。難しい手術とか診断とかそういうものは評価できない。国民が今要求しているのは例えるならばコンビニだ。いつでもどこでも誰でもそれなり。クオリティは問わない。臨床研修制度というのは全国8000人の卒業生全員にコンビニへ行くことを強制してしまったようなもの。コンビニももちろんあってよいけれど、専門店だって基礎だって必要なのに全員にコンビニ。卒後研修を残してもよい、それぞれの病院で工夫するのは構わないのだけれど全員に強制したのが問題。コンビニではクオリティに限界がある。国民が求めているのは専門店のクオリティだから満たせなくて医療崩壊になってしまった」
小川
「日本の医療を世界一と評価したWHOのヘルスリポートは02年データ。臨床研修が始まる前。OECDのデータは07年版で05年データだが例えば脳卒中の30日後の死亡率は欧米の3分の1で世界トップ。大腸がんも世界一。どちらも臨床研修が始まる前のこと。それが臨床研修で壊れてきた。抜本的な改革が必要だ」