「医療崩壊は基本法成立へのエネルギーになる」 ─ 医療基本法シンポ
■ 「医療は医療従事者の人間性によって支えられる」 ─ 小西氏
[マキ氏(愛知県医師会)]
愛知県医師会で医療計画を担当しているマキと申します。私はほかに「愛知県医師会総合政策研究機構」という所も担当しています。お話をずっとお聞きしまして、大変な"善意"の固まりだと......。(会場から笑い声)
どんな制度も善意で始まるんですよ、大体。ぼくは非常に......、ものすごい熱意は分かる。(医療基本法の)必要性はよく分かるんですが......。
じゃあ、基本法があれば何でも解決できる。「農業基本法」が果たしてどれだけ機能しとるのか。今の日本の農業はものすごい危機ですよ。(語気を強めて)「農業基本法」があるがために危機なんですよ。じゃ、「教育基本法」があって、教育の世界はどうなんですか、今!? ものすごいことでしょ? (埴岡氏、困惑した表情)
だから、「法律をつくりさえすればいい」ということは、ぼくはものすごくね......、善意はよく分かるんです。一生懸命やらなければいけない。それから、もう1つ危機を覚えるのは、一般国民が果たしてどれだけのことを分かっているのかな。
患者さんは切実ですから、非常に深刻な問題をいろいろ訴えられて、それが世の中を動かす1つの契機にはなる。それは思います。そういうことをもうちょっと慎重に考えていただきたいということと......。(ここで、埴岡氏が発言をさえぎる)
[埴岡氏(日本医療政策機構)]
はい、分かりました。かなりチャレンジングなご意見ですが......。(ここで、マキ氏が発言をさえぎる)
[マキ氏(愛知県医師会)]
(強い口調で)もう1つは、医師の派遣機能。「公的にやれ」と。愛知県は、実は有識者会議ということで4つあるんですが、そこでやっております。
ですけどねぇー......、現実、裏はいろいろです。ある大学は、ある公的病院に「院長のポストを寄こせ」と言う。断ったら、ほかの関連病院から医者を抜いてくるんですよ。そういう世界が現実にありますから、決してその、理想主義に収まっていると、とんでもないことになる。そのことを十分にわきまえて......。
ぼくは今、お聞きした中では、伊藤先生のお話が一番よく......、親和性を持つと思っております。以上です。
▼ 「医療基本法」に全面的に反対する意見ではなかったため、埴岡氏は安心した様子。
[埴岡氏(日本医療政策機構)]
(笑顔で)ありがとうございます。こういうふうに、いろいろ叩いていただくことで、信憑性が増していくものだと思いますけれども、今のご意見に関して、前の(パネリストの)方でコメントある方、お願いします。
[小西洋之氏(総務省)]
貴重なご意見、ありがとうございました。私も実は、地元の医学部に3年間いたことがあります。私たちのグループにも、あそこ(受付)に座っていますけれども、救急医です。
我々の「医療基本法」の想いというのは、全くおっしゃる通りで、「農業基本法」も機能していないし、「教育基本法」も果たしてどうかという問題はあります。
ただ、現状のあまりにも痛ましい問題を少しでも良くするためにはどうすればいいのかということ。結局、私は医者にはなりませんでしたけども、医療というのはどんな制度をつくっても、最終的には現場の医療従事者の人間性によって支えられる。
ところが、今の問題は、そうした人間性すら薄れてしまっている。なので、「医療基本法」では、イメージ的なことで恐縮ですが、今の医療従事者の現場の創意工夫が少しでもできやすくなるような環境をつくる。そういうことにつながればいい。(以下略)
▼ 「医療基本法」が成立するまでのプロセスとして予想されるのは、▽政治主導で「医療の在り方を考える国民会議」を設置する ▽同会議の委員に埴岡一派を送り込む ▽医政局に非公開で設置する「医療の効率化に関する検討会」で、医療費の将来シミュレーションを再検討する ▽その際の下書きとして、「社会保障国民会議」の最終報告(08年11月4日)を使う ▽医政局の非公開会議での報告書を、新たに設置する国民会議で承認する ▽医療系雑誌や週刊誌などで長妻昭厚労相が「医療崩壊」の現状を語り、その打開策としての「医療基本法」の必要性を訴える ▽「医療の在り方を考える国民会議」で医療基本法の原案を了承する─といったところか。
まさに、「政治主導」ではないか。「医療基本法」の成立を目指す活動が、医療を壊す"時限爆弾"にならないことを祈る。
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【目次】
P2 → 「全国民対策より、少数の熱い想いの人をつくる」 ─ 埴岡健一氏(日本医療政策機構)
P3 → 「医療は医療従事者の人間性によって支えられる」 ─ 小西洋之氏(総務省)