『遅れた日本の予防接種制度の現状とその対策』 医療構想・千葉シンポから
任意接種ワクチンは皆定期接種ワクチンに
日本の定期接種ワクチンの種類選定の仕方も世界と大きくずれていて、大変少ないのです。以下に、WHO(世界保健機構)が最重要ワクチンと指定して、貧しい低開発国でも定期接種に入れなさいと勧告しているワクチンを記します。まず、日本でも定期接種になっているのは、はしか・風疹(MR)、3種混合(DPT),BCG,ポリオワクチンです。(日本脳炎ワクチンも定期ですが、これは流行地域の関係で決まったものです。)これ以外のB型肝炎、ヒブワクチンは任意接種です。また2010年には使用できそうな肺炎球菌による子どもの細菌性髄膜炎、菌血症、肺炎、重症中耳炎など防ぐ小児用肺炎球菌ワクチン(プレベナー)も任意接種になります。(ニューモバックスという肺炎球菌ワクチンは主として高齢者用です。)また、子どもに下痢・脱水症や脳炎などを起こすロタウイルスワクチンも、いつ発売になるかは不明です。以上太字のものが最重要ワクチンです。
次に、水痘とおたふくかぜワクチンも先進国ではこれに準じて定期接種にすることをWHOでは勧めております。これ以外ではインフルエンザワクチン、子宮頚癌予防のHPV(人パピローマウイルス)ワクチンも定期接種にするだけの被害が出ているのです。以上総てを至急に定期接種にすることが大切です。
米国の予防接種制度の素晴らしさ
実際問題、上に述べたワクチンの中で、日本脳炎、BCG以外のワクチンは、水ぼうそうやおたふくかぜの2回接種を含んで、米国では総て"定期接種"です。別紙の子どもの予防接種スケジュール(日本語版)をご覧ください。学校法により、接種していないと保育所や学校に入園、入学できない義務接種制度をとっております。例外規定もありますので、医学的理由などで受けられない方などはご心配なく。皆様もシートベルトを子どもにもつけてないと日本でも罰金がかかるのはご存じだと思います。そのおかげで米国ではVPDにかかる人の数が少なく、その重大な健康被害の発生率はきわめて少ないのです。また、たとえ、ある病気を防ぐためのワクチン代の方が、かかったときの総医療費よりも高くても(費用対効果が悪い)、子どもの命にはかえられないので定期接種にするというのが米国の予防接種政策の基本なのです。その上にオバマ大統領はこの不況でワクチンの接種率が落ちないようにと、いろいろな対策に予算をつけています。
VPDもいやだけど、副作用がもっと怖い?
予防接種問題の遅れの原因であり、皆様方が一番誤解されているのが副作用問題です。まず覚えて頂きたいことがあります。ワクチンを受けた後に"悪いこと"が起こる(見られる)と、総てワクチンが悪いと考えられますが、実はそうではないのです。この接種後に見られる"悪いこと"を正式には有害事象と呼びます。有害事象は、原因を問いませんので、ワクチンとの因果関係が認められたものが真の有害事象(真の副作用)で、ワクチンとは関係のないたまたま偶然に起こったものがニセの有害事象(ニセの副作用あるいは紛れ込み事故)で,この両方が含まれております。
また日本の厚労省は、有害事象という言葉は使用しないで、ワクチンの有害事象報告をわざわざ副作用報告と名付けております。すなわち、真の副作用とニセの副作用の報告を分類せずに、報告されたものを単純にまとめているのです。このことは全く報道されませんので、ほとんどの読者(国民)の方は、やはりワクチンは怖いものと信じるのです。良い例が最近出ました昨年のインフルエンザワクチンの"副作用報告"の記事で、インフルエンザワクチンで多くの方に重い副作用が見られたと報道されるのです。この副作用報告書の症例を最終的に判定委員会で判定すると、重い副作用症状に分類されたの方のほとんどはワクチンと関係がないのです。あくまでもたとえですが、3週間前にインフルエンザのワクチンを受けた90歳の方が,急性心筋梗塞で死亡したとの報告が厚労省にあがります。これは死亡の一カ月以内に受けた治療の薬や注射の一部として報告されたのです。接種医自身もこれが急性心筋梗塞の原因とは考えていないと思いますが、報告されるとシステムの関係で重い副作用に分類されるのです。