『遅れた日本の予防接種制度の現状とその対策』 医療構想・千葉シンポから
25日に開かれた医療構想・千葉のシンポジウムで第一部のシンポジストとして登壇した薗部友良・日本赤十字社医療センター小児科顧問が、大変に力のこもった論文を配っていた。発表内容ともシンクロする部分が多く、以後の報告も分かりやすくなると思うので、許可を得て全文ここに転載させていただく。(川口恭)
遅れた日本の予防接種制度の現状とその対策VPD(ワクチンで防げる病気)を知って子どもを守ろうの会代表:薗部友良
2009年10月
予防接種問題は極めて重大な問題です。以下をお読み頂ければ緊急な対策が必要なことをご理解頂けると思います。日本の未来である子ども達の命と健康を皆で守っていきましょう。
子どもは家庭の宝、国や社会の宝
少子化問題が大きく取り上げられています。しかしそれ以前に大切なことが、生まれてきた子どもたちを病気で無駄に命や健康を損ねずに, 豊かな心を持った立派な社会人にすることです。
約40年前は小児ガンの治療は大変難しく、診断をつけても半年以内に多くの子どもが亡くなっていきました。しかし現在は70%の子どもが治る時代になったのです。これだけ医学が進歩したのに、もったいないことに、日本ではVPD(ワクチンで防げる病気)による死亡者や健康障害者が多いのです。小児がんや川崎病は防ぎようがないですが、VPDはワクチンでほぼ防げるか、軽症化が期待できるものです。
防げる重大なことを防がないのは、子どもたちを守らないネグレクトという虐待に近いものと私は思っております。
VPD(ワクチンで防げる病気)の被害の実情とその原因
それは、日本の予防接種制度がきわめて不備なのが主な理由です。日本にも予防接種法という立派な法律があります。(但しあまりにも古く、問題点も多くあります。)この法律を作った基本的な目的は、良いワクチンをそろえて、ワクチンを受けやすくして、ワクチン接種率を上げて、国民をVPDから守ることです。これが現実には良いワクチンがそろっておらず、子どもたちがワクチンを大変受けにくいので、接種率が低いのです。実際に2007年にVPDにかかった子どもたちのおよその数を日米で比較したを表1に示しますので、ご覧いただければ予防接種制度の不備が一目瞭然です。予防接種制度の大改革が必要なのです。日本の予防接種の常識は、世界の非常識であることは、専門家の間では常識です。この根本原因は、予防接種に対する日本の司法の方針であると思っています。このことは後述します。
具体的な障壁
まずワクチンを受けそびれたり、受けられずに健康を損ねたお子さん方を持ったご両親は、大変ご不幸です。日本に良いワクチンが存在しなければ当然受けられませんし、また受けそびれたご両親にも責任はないのです。それはそのワクチンで防ぐ病気(VPD)によって死亡したり、健康を損ねることが多いと言うことをご存じなかったからです。これはVPDの被害の恐ろしさや接種の必要性を伝えてこなかった政府や社会の責任なのです。医師会や小児科医もその責任は免れません。
特に任意接種で防ぐVPD情報に関しては大変少なく、水ぼうそうやおたふくかぜで死亡することがあるなどのことは多くの方がご存じないと思います。また別の問題があります。それはどんなに良いワクチンを作っても、受けない限り効きません。情報不足以外で最大のバリアー(障壁)は、任意接種を受けるためには接種費用がかかることです。現在ワクチン不足で問題になっている細菌性髄膜炎予防のヒブワクチンでは約3万円かかります。また来年発売予定の小児用肺炎球菌ワクチン(プレベナー)も4万以上かかると、現時点では思われます。このほかたくさんの障壁がありますが、これは別の機会に述べます。