『遅れた日本の予防接種制度の現状とその対策』 医療構想・千葉シンポから
負の連鎖(悪循環)
これが不幸を呼ぶのです。真の原因は何であれ、救済された不幸なお子様のご家族は、ワクチンを恨みます。またマスコミはワクチンの副作用問題を大きく報道します。またえん罪を受けた医師は自分の不幸をのろい、予防接種を嫌っていきます。当然厚労省は積極的に動けません。それどころか、すべてのワクチンを止めたいとも見えるくらいです。たとえばけいれんのあるお子さんなど、紛れ込み事故であるけいれんを接種後に起こされてはいやですから、接種注意者にします。このような方こそ接種が必要と世界では考えますが、日本では全く逆です。最終的にVPDの被害が拡がり、不幸が続くのです。
このようなことから、20年前までは予防接種先進国日本が、先進国のみならず、中進国上位の国の間でも最悪の予防接種制度になってしまったのです。実際、世界で普通に使用されているワクチンを含めてワクチンの種類は増えず、定期接種の種類も実質的に減らされます。WHOで最重要ワクチンと認められたワクチンも導入も遅いし、定期接種になりません。総ての新規ワクチン(国産および輸入ワクチン)に認可にも大変時間とエネルギーがかかります。
また受けやすい制度作りも全くできておりません。任意接種のワクチンは有料なので接種率は上がりません。医師の裁量を認めず、少しでも下位の法律とずれた場合は定期接種と認めません。予防接種を地方に丸投げしたことで、ある町の無料券は隣町では使えません。そのほか多くの問題点があります。
免責の重要性
この負の連鎖を断ち切るのが免責制度です。国が認可したワクチンに関しては,接種後の有害事象(ワクチンとの因果関係を問わない悪い出来事:健康被害)に関して、ワクチン会社、厚労省関係者、医師を免責にすればよいのです。(極めて重大な過失や犯罪などは別です。)欧米では免責を行っております。小生以前からこの問題を重要視してきましたが、厚労省の前大臣政策室政策官・村重直子氏は、今年の9月に補償・免責制度の必要性を述べております。これは訴訟を前提とした枠組みではなく、何らかの健康被害が生じた場合に、国が補償するのではなく、それを社会全体で受け止め、補償するというのが「補償・免責」制度のようです。一長一短ありますが、国で補償するとなると色々と制約が多くなるので、村重氏は米国などと同様にしたいのだと思います。米国ではワクチン1本あたり75セントを集めて,それをプールして補償に当てるのです。このあたりは国か社会のどちらにしたらよいのか皆で検討することが大切です。
また、補償制度は、科学とは別に考える問題です。どこまで認定するかを、世界中が悩んでおります。認定があまりに緩いと問題ですし、また厳しいと裁判が増えて、ますますややこしくなります。但し、原因の如何に関わらず重大な有害事象(真とニセの健康被害を含む)の起こる割合は100万に1人程度です。そのために、米国式に、当然ある程度の条件をつけますが、見られた症状(病気)が重ければ認めると言うことになると思います。このあたり、副作用問題も正面からとらえて活発な科学的な論議をして、その上でどのような補償制度にするか英知を集めて決めて頂くしかないと思います。
官僚制度を含めた根本的解決
現在の厚労省は縦割りで、2年ごとに人も入れ替わります。米国同様に長期戦略を作るシステム作りが必要です。米国では、ACIP(エイシップ:予防接種実施に関する専門家による諮問勧告委員会)という長期戦略を立てたり、実行する委員会があります。ここには専門家(政府、小児科医、内科医、看護師、公衆衛生関係など多くの職種)が集まり、米国からのVPDの撲滅(予防接種制度の向上)を目指しております。ここで決定されたことには国が予算をつけることが、ケネディー大統領の時代から決まっております。日本でも内閣府などに設置するのがよいと思いますが、このあたりは超党派で決めて頂きたいところです。独裁者は困りますが、上に立つものが子ども(国民)に対する責任を自覚した上で決断して、超党派で応援すれば、日本ではそれ以後はきれいに流れていくと信じております。いずれにしましても予防接種制度の根本的見直しが必要です。
子どもの命を真剣に見直そう
子どもは日本の未来です。良いワクチンが使えないことを含めて総ての予防接種制度の遅れを取り戻すには、予防接種制度の根本的な改革が必要になります。尊い子どもの健康と命を守るためには、これらのことを小児科医だけに任せないで、皆で一緒に活動しましょう。以前、日本でポリオの大流行がおきて大きな被害が出たときに、ママたちが立ち上がったおかげで、マスコミも応援して、時の厚生大臣(古井大臣)が法律を曲げてすぐに良いワクチンを使用できるようにして、日本の子どもたちを救ったことを覚えておいてください。