消防庁が医療界に豪速球
■厚労省と業界内権力者で決められてきた医療政策
医療政策を担う厚労省では、審議会や検討会を立ち上げて予算要求や法改正を行っているが、これらの会議は最初から事務局を担う官僚が落とし所を決めていることがほとんどだ。「官僚にとっての最大の関心事は人事なので、いかに予算を多く取れるか」(厚労省のキャリア官僚)。予算要求につなげやすい旬なテーマ、厚労省として規制をかけたい分野や、医療費や介護給付費を抑えたい分野の検討会ができやすい。
呼ばれる委員は、有識者としていわゆる"御用学者"が多く、現場系委員も日医や日看協については言うまでもなく、国立病院の医師や官僚・団体OBなど、厚労省に盾つかない者ばかり。事務局からは委員に事前レクが行われて発言も刷り込まれ、当日はその通りに議事が進む。たまに否定的な意見を述べる委員が"ガス抜き役"や"調整役"として入っていることもあるが、意見は大体無視される。検討会が中盤に差し掛かると事務局が作成した「論点メモ」などがこっそり資料に紛れ込んでいて、その方向に議論は誘導されて報告書がまとめられる。
補助金、通知で現場を縛る「通知行政」も時々の情勢に左右されることが多く、現場の実態にそぐわない支配構造の一つだ。
医療業界内の一部の権力者と行政が寄生し合い、医療界自体もそれを許してきた。こうした構造の中でブラックボックスになってきた医療界は、国民からは見えにくく、理解されにくい。医療界の中には、医療崩壊するほどの疲弊している現場がある一方で、甘い汁を吸っている人々もいる。
「こんなに疲弊していて大変な医療現場の惨状がある。だから手当を」--。声の大きい人たちからの医療現場のエピソード、もしくは歪曲したデータが示され、厚労省は自分たちの利益にもつなげながら、こうした意見とうまく付き合い共存してきた。しかし、その政策プロセスが限界に来ているのは今の"医療崩壊"を見れば明らかだ。さらに、政権交代によって、このしがらみを断ち切ることが可能になるかもしれない。
データとして客観的に事実をあぶり出していく作業の中では、疲弊している現状とともに、厚労省と医療界の慣れ合い構造の中で隠されてきた「適正」ではない部分も出ざるを得ない。そうしたものも明るみに出した上で、国民に納得いく形で予算を求められるか。これは国に任せるなどということではなく、医療界自体が示していかねばならないことだ。
一部の声の大きい人たちの意見が政治家や厚労省とともに医療政策を変えていくのではなく、地域医療の現場が実態をデータとして出し、地域の実情に合った形で運用面から変えていく。消防庁の投げ込んだボールを打ち返すことができるか否か、今後の医療界の取り組み次第だ。
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