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救急医療の"エピソード"を"データ"化へ-消防庁

 「心肺停止の祖父母を救命センターに運ぶことが最近の家族の"儀式"なので、センターは看取りの場。ベッドが埋まって新患を受け入れられない」「救急隊の搬送時間が長いのは現場で救命処置を行っているから」など、救急医療の搬送・受け入れには様々なエピソードが飛び交っている。来月から消防庁が全国で実施する心肺停止状態の患者の搬送・受け入れ実態調査は、こうしたエピソードの数値化につながり得るため、医療政策の決定プロセスを変える可能性と、医療現場が"言い逃れ"できなくなる可能性の両方を秘めている。(熊田梨恵)

 厚労省や消防庁には救急医療について議論する国の検討会がいくつも設置されており、委員からはさまざまな現場のエピソードが聞かれる。「都会の3次救急には、野宿者や精神疾患を持つ患者など"社会的弱者"が多く搬送され、治療後に行き場がなくてベッドを埋めてしまい、新しい患者を受け入れられない」「家族関係が希薄になってきたので、もう駄目だと分かっていても救命センターに搬送して延命を行うことが家族の"儀式"。特に普段つながりのない親戚などが出てくるとうるさい。今の日本人は死生観が欠けており、教育の問題もある」「都会で搬送に時間がかかっているのは、救急救命士が行う医療行為に時間を取られている。これは救命士が存在意義を主張しているから」など、挙げれば切りが無い。
 
 多くは医療現場の疲弊や混乱の例として挙げられるものだが、こうした救急医療のエピソードを現場に聞いてみると「その通り」と答える医療者もいれば、「違う」と反論する人もいる。そもそも検討会の委員には都会の大学病院などの教授クラスが多く、救急医療は地域や時々の状況によって全く異なるため、皆が同じ答えになることなどないのが当たり前だろう。山間部などの医療に詳しい委員からは「地方はそもそも病院がないから、ベッドが空いてなくても受け入れて疲弊している。患者を受け入れないのは都市部特有の問題」とも言う。だがこれも意見の一つだ。
 
 委員は医療現場が疲弊しているという惨状を示しながら、「こんなに大変なんだ。だから手当をくれ」と補助金もしくは診療報酬というインセンティブを求めている。しかし、大体は事務局が、「それは中医協の議論になるので......」などと言って議論は終わりにされ、委員も半ば諦め顔をしている。これらの発言は大体が医療側委員のガス抜きになっているだけだ。
 
 しかし、こうした医療者からの意見を聞きながら、「お金が要ると言うなら、根拠が要る。医療界は『これが大変、あれが苦しい』といつも言っているが、事実としてそれを示すだけの覚悟はあるのか」と話す官僚もいる。データとして客観的に事実をあぶり出し、疲弊している現状とともに、厚労省と医療界の慣れ合い構造の中で隠されてきた「適正」ではない部分も出した上で、国民に納得いく形で予算を求められるか、ということだ。

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