搬送時間の長短より、救急隊の処置内容の検証を―消防庁の受入実態調査
総務省消防庁は12日、昨年12月に国内で救急搬送された心肺停止状態の患者に関する実態調査を公表した。救急隊の現場滞在時間と搬送一カ月後の生存率、社会復帰率の相関図を示し、「処置時間が短ければよいというものでもなく、どのような処置を傷病者に行ったのかの検証」が必要とした。「搬送時間が短ければよい」という一部の見方に一石を投じるデータになりそうだ。(熊田梨恵)
消防庁は同日、救急搬送業務に関する有識者会議を開催。昨年12月に国内で搬送された心肺停止状態の患者1万2863人の搬送受け入れ調査について、先月公表した速報値に残りのデータを加えて報告した。
救急隊の現場滞在時間と搬送一カ月後の生存率、社会復帰率について、事務局が提出した報告書案は「16分から32分までの間の1カ月生存率や社会復帰率に大きな変化がない」とした。さらに、「現場滞在時間が長すぎることが傷病者の予後によくないことは言うまでもないが、処置時間が短ければよいというものでもなく、どのような処置を傷病者に行ったのかの検証」や分析が必要としており、医療界で言われる「救急救命士の医療行為がなければもっと早く搬送でき、患者も助かる」という"エピソード"に反論するデータが出されたという見方もできる。消防庁が実施している救急搬送の受け入れ実態調査では、搬送時間が短い都道府県ほど"成績"がよいという見方もあるが、こうした患者の経過も考慮していく必要が出てきそうだ。
石井正三委員(日本医師会常任理事)は相関図について、現場滞在時間が長くなるほど生存率と社会復帰率が低下する傾向があるとした上で、生存率は30分、社会復帰率は32分をそれぞれ頂点にグラフが一部で山型を描いていることを指摘。「高度化や連携のメリットでは」と述べ、救急隊が現場で実施している処置内容を詳しく検証するよう求めた。
同庁救急企画室の溝口達弘救急医療専門官はこれに対し、「40分を超えるとほぼ生存は難しいというデータがありつつ、16分から32分は何か踏みとどまっている感があると眺めていた。まだどうこう言えるところまでは行きついていないので検証を続けたい」と述べた。事務局は処置内容など詳細な分析は可能としており、来年度の作業部会で検討していくこともあり得るという。