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「中医協の意見書」が密室で決裂、問われる国民代表

■ 「中医協として改定についての意見具申は行わない」 ─ 遠藤会長
 

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 それでは、定刻になりましたので、ただ今より第156回中央社会保険医療協議会・総会を開催いたします。まず、委員の選任についてご報告いたします。庄司洋子さん(立教大大学院教授)が退任されまして、新たに12月4日付で関原健夫委員(日本対がん協会常務理事)が発令されております。(中略)
 それでは、議事に移ります。まず、「平成22年度診療報酬改定について」を議題といたします。

 ▼ 同日予定していたのは、▽総会(9:00~9:30) ▽薬価専門部会(9:30~11:00) ▽保険医療材料専門部会(11:00~12:00) ▽基本問題小委員会(12:00~13:00)─で、このうち保険医療材料専門部と基本問題小委員会は約2時間の中断のため中止となった。

 本件については、前回(12月4日)の総会に公益委員案を提示しまして議論を頂いたところですが、2号(診療)側委員から修正の申し出がありましたため、改めてここで議論するということになったわけであります。

 2号(診療)側より修正意見が提出されていますので、2号側から説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。安達委員、どうぞ。

[安達秀樹委員(京都府医師会副会長)]
 公益の皆様方に我々の意見交換を基にしてこういう文案をつくっていただきながら、我々としては同意することができずに余分な時間を取ることになったということで大変申し訳なく思っておりますけれども、そのことを踏まえて今日、我々の修正案をご提示いたします。その理由を非常に簡略に申し上げます。(中略)

 ▼ 修正案を示す理由について安達委員はまず、「先進諸国と比べて低い医療費が続いてきた結果、医療提供体制の破綻の危機を迎えており、いったん医療提供体制が壊れてしまうとヒューマンリソースが元に戻らない」と指摘。その上で、「これを改善しなければ、次を担う若い医師たちの心が折れてしまう。医師の倫理観や義務感という意味での質を保障できるシステムにはならないのではないか。後世代に対して我々は責任を持たなければならない」などと述べた。

 そういう意識があって、この(公益委員作成の)意見書の案に対して我々の改訂案をお示しするわけでございます。

 ▼ 公益委員の意見書案(結論部分)は次の通り。

< 公益委員の意見書案(結論部分) >
○ 本協議会としては、厚生労働省が、平成22年度予算編成に当たって、平成22年度診療報酬改定に係る改定率の設定について、本意見の趣旨を十分に踏まえて対応することを求めるものである。
○ また、我が国の医療が抱える様々な課題を解決するためには、診療報酬のみならず、幅広い医療政策が講じられることが必要であり、この点についても十分な配慮が行われるよう望むものである。
 (改訂案は)この別紙に記載の通りでございます。要は、(意見書案)4の3つ目の丸(結論部分)をこう(別紙のように)変えるべきではないでしょうかというのが、私どものご提案でございます。(中略。以下、診療側の修正案について説明した)

 ▼ 診療側の修正案(結論部分)は次の通り。

< 診療側の修正案(結論部分) >
○ 本協議会としては、厚生労働省が平成22年度予算編成に当たって、平成22年度診療報酬改定に係る改定率の設定について、以下の点を踏まえて対応することを求めるものである。
 (1) 平成20年度改定においても、地域の医療体制の確保の取り組みとして、主に病院に対する支援を行う観点からの対応が取られたが、社会保障費の伸びの削減政策の下で策定された診療報酬上の対応は十分ではなく、結果として、主に公私を問わず病院の経営状態の悪化はより深刻となっており、医療提供体制の破綻が危惧される。
 (2) 現下の厳しい状況に対応するためには、「更なる取り組みが必要」という基本認識の一致に基づいて、薬価引き下げ分を含む診療報酬全体の引き上げが必要である。
 (3) 診療報酬引き上げによる各保険者の財政悪化に対しては、政策的財政支援が必要である。
 (4) 特定機能病院、自治体病院等の医療に対する費用については、医療費以外の公費で賄われている部分を明確化し、医療費で賄われるようにすべきである。
 ご質問があればまたお答えしますが、私どもがこの変更案をお出しする趣旨を簡略に言えば、今申し述べた通りでございます。以上でございます。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 はい、ありがとうございます。2号(診療)側からの修正案が出たわけでございますが、1号(支払)側のご意見を承りたいと思います。白川委員、どうぞ。

[白川修二委員(健保連常務理事)]
 中身の前に、前回も申し上げたんですけれども、11月25日付で「診療側の意見書」というものを公式の形で受け取っておりまして、それについて(12月4日に)議論させていただいたという認識でおります。

< 平成22年度診療報酬改定に対する診療側委員の意見 >
 政府による継続的な社会保障費の抑制策により、診療報酬は平成14年度から平成20年度まで4回連続でマイナス改定を強いられた。
 その中で、平成20年度改定は医師確保対策として病院勤務医の負担軽減策等を「緊急課題」と位置づけ重点評価されたが、2,200億円抑制する方針(「経済財政運営の基本方針」(骨太方針))が撤回されなかったために引き上げ財源はわずかなものとなり、その結果、診療所の財源から削った分を病院に移譲するという異例の事態となった。
 しかし、この対応は、緊急課題の解消には十分とは言えないものであり、また、勤務医対策もごく一部の急性期大病院にのみ資源配分がなされ、地域の救急医療・二次医療を担う地域中核病院、地方の医療の根幹を支える民間病院およびその勤務医に対しては、救済の手が差し伸べられず、病院はもちろん、地域医療を支える診療所、歯科診療所、薬局の経営もさらに厳しい状況にある。
 国民・患者が望む安心・安全で良質な医療を安定的に提供していくことは、医療提供者の重大な責務である。今日の医療崩壊の主たる原因が上記のマイナス改定にあることは、衆目の一致するところである。これを改善し、医療再生を図るためには、根拠に基づいた適切な技術評価を反映した診療報酬改定が必要である。
 国民の生命および健康を守るために、平成22年度診療報酬改定に当たっては、過去のマイナス改定を回復し、病院の入院基本料を初めとする診療報酬の大幅な引き上げによる医療費全体の底上げを強く求めるものである。
 従いまして、修文が必要であればその(提出した)意見書内でしていただくというのが本来の在り方ではないかと考えております。
 従いまして、本日新たな意見書が出てくるというような形になったのは誠に遺憾でございますので、そのことをまず冒頭で申し上げたいと思います。(中略)

 ▼ この後、互いに一歩も譲らず議論は平行線。約30分経過。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 それでは、両側から大体のご意見を承りましたので......。なかなか一致する所が難しいなと思いますけれども、ただ今のご意見なども反映させた形で公益委員として修正案を作成したいと思いますけれども、よろしゅうございますでしょうか? はい、渡辺委員、どうぞ。

[渡辺三雄委員(日本歯科医師会常務理事)]
 前回の時、平成20年度改定に向けた意見をまとめた時もそうでしたけれども、こうしたディスカッションを踏まえてまとめたものについての説明を、ここにもう一度......、1号(支払)と公益と2号(診療)という形での説明があって......、という段取りを取られたというふうに前回認識しているんですが、同じように今回もされますでしょうか。

 ▼ 前回改定の意見書を取りまとめた2007年11月28日の中医協総会の議事録はこちら。意見書(PDF)はこちら

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 つまり、公益側が今回作り上げるものを「最終案」とするのではなくて、もう一度ここで説明してご意見を聴くという感じ......。

[邉見公雄委員(全国公私病院連盟副会長)]
 前回もこういう状況になりまして、別室で公益の「たたき台」を1号(支払)側とまず......、2号(診療)側ともやって......。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 分かりました。プロセスの話ですね。「呼び込み」をするかどうかということですが......。どういたしましょうか。「呼び込みをする」というのは要するに、こちら(公益委員)が文言を作りまして、「良いかどうか」というのをやると、それぞれについて呼び込みをするというやり方......。
 私は実はあまり考えていなかったのですけれども、「一気にやろうかな」と思っていましたが、「呼び込みが良い」と言うならばそれでも構いませんが、どちらがよろしいですか?

 (診療側から「呼び込み形式で」との声あり)

 1号(支払)側はどうでしょうか? (白川委員が「私どもはどちらでも」と回答)

 そうですか。そうしたら(別室で公益委員の)案を作りましたら、1号(支払)側、2号(診療)側の順でそれぞれ「呼び込み」という形にさせていただきたいと思います。では、早速作業に移りますので、しばしお待ちいただければ......。(公益委員が別室に移動)

 ▼ ここで中断。約1時間50分経過。

 はい、それでは大変長らくお待たせしました。ただ今、1号(支払)側、2号(診療)側と個別に意見のすり合わせの作業をやってまいりましたけれども、結論から申しますと意見の集約ができませんでしたので、1号側、2号側の了解を得まして、中医協として診療報酬改定についての意見を具申することは行わないということに決めさせていただきました。以上でございます。(2時間待たされた傍聴席から、ため息混じりの声が漏れる)

 何か......、よろしゅうございますか? はい、ありがとうございます。それでは、これをもちまして本日の総会は閉会としたいと思います。(以下略。休憩を挟んで薬価専門部会へ)


【目次】
 P2 → 「中医協として改定についての意見具申は行わない」 ─ 遠藤会長
 P3 → 「公益委員は1号側の意見を採り入れた」 ─ 嘉山委員
 P4 → 「中医協はメッセージ1つ出せないのか」 ─ 邉見委員
 P5 → 「非常に悩んだ心の内を知っていただきたい」 ─ 西澤委員
 P6 → 「公益側が全部潰したということではない」 ─ 厚労省

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