「中医協の意見書」が密室で決裂、問われる国民代表
診療報酬の引き上げを求める声は、国民を代表する立場の公益委員には届かなかった。約2時間の密室協議の末、公益委員は「中医協として診療報酬改定についての意見を(厚生労働大臣に)具申することは行わない」との決定を下したが、診療側からは「1号(支払)側の意見を公益委員が採り入れた」など不満の声が上がっている。(新井裕充)
中央社会保険医療協議会(中医協)は12月9日、来年度の診療報酬改定について厚労大臣に提出する意見書について議論した。
2号(診療)側は「医療費全体の底上げ」を意見書の結論に加筆することを要望したが、1号(支払)側が断固として拒否。このため、審議を約2時間中断して別室で公益委員と両側がそれぞれ協議したが決裂、今回は中医協としての意見を提出しないことに決定した。
会議終了後、診療側委員は緊急会見を開き、「医療崩壊がさらに進行することを危惧する」などの声明文を発表。嘉山孝正委員(山形大学医学部長)は「1号(支払)側の意見を公益委員は採り入れた」とした上で、次のように述べた。
「問題は、公益委員が2つの意見をまとめて、あるいは調停して、結論として何を出すか。ところが、公益委員が出してきた意見では我々の意見がすべて退けられて、『結局、(医療費を)上げないよ』という従来の政策の中身を採り上げたということ。公益委員は国民の目線であるべきだから、我々としては『非常に遺憾である』と考えている」
鈴木邦彦委員(茨城県医師会理事)も「我々としては(意見書の)文章の結論部分に『診療報酬全体を引き上げる』ということを入れてほしいと要望したが、『それは認められない。結論の所に診療報酬上の引き上げは入れられない』ということだった。『結論部分に入れていただきたい』というのが我々の譲れない要望なので、それで『不成立』ということにされた」と不満を表した。
邉見公雄委員(全国公私病院連盟副会長)は「やはり全体の医療費の底上げがなければ、また同じことが続くんじゃないか」と状況悪化を懸念。西澤寛俊委員(全日本病院協会会長)は、「(意見書は)非常に影響が大きい。もし、ここで診療報酬全体での引き上げを書き込んでいただければ、内閣府で決める改定率にかなり良い影響を与えることができたんじゃないか」と悔やんだ。
公益委員が示した意見書案では、「我が国の医療は厳しい状況に置かれている」、「更なる取組を進めていくことが必要であること、という基本認識については意見の一致を見た」と指摘している。とすれば、現状を改善すべく医療費全体の底上げを求める意見書をまとめることもできたのではないか。
厚労省の担当者は会議終了後のブリーフィング会見で、「公益側が全部潰したということではない」と述べているが、密室協議のため事実関係は闇の中。国民の目が届かないところで決まる構造は今までと何ら変わりがない。
なお、診療側の意見など詳しくは2ページ以下を参照。
【目次】
P2 → 「中医協として改定についての意見具申は行わない」 ─ 遠藤会長
P3 → 「公益委員は1号側の意見を採り入れた」 ─ 嘉山委員
P4 → 「中医協はメッセージ1つ出せないのか」 ─ 邉見委員
P5 → 「非常に悩んだ心の内を知っていただきたい」 ─ 西澤委員
P6 → 「公益側が全部潰したということではない」 ─ 厚労省