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ニュース〜医療の今がわかる

がん医療と介護シンポジウム


最後に、会場からの質問に演者が答える形でのディスカッション。
司会は児玉氏。
「宮崎県でお父様を亡くされた方が、東京と地域差を感じたとお書きだ。片木さんも患者さんから色々と質問を受けていると思うが、どう対応したらよいのだろうか」

片木
「地域差は本当にある。事例を一つ挙げると、奈良にお母様がお住まいで、卵巣がんでこういう治療を受けていますというご相談が来た。で、その抗がん剤は卵巣がんのガイドラインにも載ってないし、調べても卵巣がんに使っているという情報がないという相談だった。ハルモリビシンという肝臓がんとかに使う薬だったが、スマイリーのアドバイザーをしてくださっている先生たちにメールで投げたら、それは30年前くらいの卵巣がんの治療薬だよと答えが返ってきた。その先生の年齢を聴いてくれと。で聴いたら70歳以上のご高齢で、手術もその先生がしたらしい。お母様は院長先生が直々にやってくれたからと感謝していたそうだが、その先生の知識がある程度のところで止まっていたんだと思う。その時にどうするか、お母様はありがたやと言っているが、家族は標準治療を受けさせたい。その中でしたことが、家族で話し合って、自分たちの住んでいる大阪の病院へ転院させた。今もご健在なのでよかったと思うが、引き取るといっても、やはり家族や配偶者の理解が必要だったり、引き受ける側も難しいところがあったりする。このケースでは理由があったので大阪の病院でも気持よく引き受けてくれた。ただ、どうしても引き受けられないという事情があるとか、親ががんになった時に東京に引き取るかと言ったらとても難しい選択。その時に助ける人を実家のそばでも作っておきたいし、自分たちの周りにも作っておきたい。相談できる一つの窓口は患者会。何でもまずは一緒に考えようということで構わないので、抱え込まずに聴いてほしい」

児玉
「私も実家は医療過疎。両親にどうするかという話をすると、ここで受けられる医療でよいとよく言う。私は東京にいて最先端医療を知っているけど、本人たちは住み慣れた場所でそこで受けられる医療でよいというのも、それはその人たちの価値観次第なので、私の価値観を押し付けるのではなくて、調整してあげるのが私のこれからの課題かなと思う。医療者も不勉強なことが多くて治療格差があって、セカンドオピニオンを求めて患者さんが回られることも多いが、ある調査ではそういう人の中に非常にがん難民になっている人が多いということなので、身近なかかりつけ医だったりにまずは相談することではないか。ゲートキーパーにはなってくれると思うので、がんになる前からコネクションを持っておくのが手段かなと思う。

小松先生、国民皆保険はベース部分に重点を置くのか、高額医療費の部分に重点を置くのかという質問が来ている」

小松
「むしろ、皆さんにどうしたいか問いたい。先ほどお金の計算を示したけれど、どの程度どういう風に分配するかによって考え方が変わってくると思う。従来のように出来高で青天井というのも一つの考え方だし、逆に包括にしてこの病気と診断がついたらいくらまで出すから、その中でやりくりしてほしいというのも一つのやり方。恐らく意見は人それぞれで多種多様だと思う。ここでこうするべきだと言うほどの材料を私は持ち合わせていない。一つの解決策として、たとえば保険診療ではある程度認定された範囲に留めて、超えた部分は混合診療を解禁するとかいう話もあるとは思うが、それには強い反対もあるだろう。皆さんどうしたいのかを聴きたい。しかしそれを考えるのは、病気になってからでは遅い。元気な時に、どれだけの費用でどれだけの成果を求めるのか、研究者というよりも医者として聴きたい。患者さんの側で、私はこの位のお金で、これ位だと言っていただけると、注文主に対してプロフェッショナルとして応えられるようなのがあっていいのかなと思う。医者の側から、こうだからこうしなさいと言うよりは、逆に患者さんの側から、私はこの程度の金額でこの程度の効果なら許容できるというようなことを言っていただいたうえで、じゃあそうしましょうというのを実現できるような柔軟な制度があるといいのかなと思う。そうするためには、まずは皆さん一人ひとりがどうしたいのか、たくさん意見を聴きたいというのが率直なところ」

会場1
「今の金額の話は、もう医療費がないという前提だと思うが、そもそも対GNP比で見れば日本の医療費は多くない。33兆円のうち3分の1ほどを個人が窓口や保険料で負担していて限界だというのだが、一方で保険の本によれば日本人は年間50兆円も自発的に保険料を払っているという。それなのに医療費の10兆円が高すぎる、もう払えないというのは、全体として本末転倒でないか。保険が危ないというような話を聞くけれど、実際には国保の徴収がうまく行ってないだけとか、政府がそれをきちんと言わないから不安感だけ高まる。日本人が不安に苛まれてプライベートに50兆円の支払いをしているのであれば、せめて10分の1の5兆円でも医療費に回せば、今のような問題はすべてあっという間に吹っ飛ぶと思う。医療関係者も一般国民も、ないぞないぞ我が国には未来がないぞお金がないぞという前に、何にいくら使っているのか現実を見た方がよい」


小松
「大変に貴重なお話。十分な情報が与えられていないのと、制度が複雑すぎて実際のところどうなっているのか誰も分からない。みんな何となく金がない不安だという雰囲気だけでものが語られているから、どういう風にお金が流れていて、どういう医療制度なのかが分からな過ぎる。私が思うのは、もっと制度をシンプルにできないかということ。もっと色々な情報をオープンにしていただいて、分かりやすく語りあえる場がないことが日本の大きな問題なのかなと思う。お金はきっと出せる人は出せるし、ある所にはあるのかもしれない。それを自分が溜めている貯金を出していいかどうかの判断がつかなくて縮こまっているのが実像だと思う。シンプルで分かりやすい制度と、理解できるような情報をちゃんと出してくださいという二つを言いたい」

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