予防接種法改正 格好つけても及び腰 透ける厚労省の姿勢
出現した「市町村」
何を慌てなければいけなかったのか、ここで、大澤教授の解析結果を見てみましょう。
上の図は、専門家たちの議論をまとめたもの(中間報告=上)と厚労省の案(事務局案=下)で、それぞれどういうことに力点が置かれているかです。比較して、まず気づくのが、中間報告では真ん中下の方にあった「区分」「公的」「関与」「義務」の三角形が、厚労省案では「区分」だけ残して消えていることです。
「区分」は、まさに一類と二類の分け方のことを指しており、中間報告では「区分」が異なれば、「公的」「関与」「義務」の度合いが異なることになるのでないかと指摘されているわけです。ところが、事務局案からは消えてしまっています。
また、右側の真ん中辺りを見てください。中間報告では結びついていなかった「定期」と「費用」が、事務局案では線で結ばれ、新たに出現した「市町村」との間も結ばれ三角形ができています。
この二つから透けて見えるのは、専門家たちが国の関与を求めているのに対して、定期接種化という格好だけつけて、どう扱うか費用について考えるのは市町村だ、と予防線を張る厚労省の姿です。大臣が費用について答えてしまったのには、さぞ驚いたことでしょう。
しかし「世界標準のワクチンを誰もが使えるようにする」との目標を最優先する「抜本改正」ならば、自治体の財政力格差が住民の健康格差につながらないよう、接種費用まで目配りする必要もあるはずです。
もっとも、それは大臣をはじめとする政治の役割なのかもしれません。民主党で今回の法改正について検討する予防接種小委員会の委員長を務める仁木博文代議士も「定期接種化と言うからには当然、接種費用も救済も今までの一類と同様の扱いにすべきで、そう与党の意見をまとめるべく努力します。将来的には、予防接種に健康保険の負担を求めていくこともあり得るでしょう」と話しています。
費用負担に関しては、別の視点もあります。著書『さらば厚労省』で予防接種法改正について詳しく書いた医師の村重直子・東京大学医科学研究所特任研究員は「小児医療費が無料の自治体の住民は、『有料のワクチンを打つより病気になってから無料で治療してもらえばいい』と考えがちのようですが、病気になってからでは遅いのです。治療法がないことも多く、治療しても命を落としたり、脳に障害が残ったりします。そうと知っていれば、小児医療費の無料化に使われている財源を、まずワクチンへ回してほしいと思うのではないでしょうか」と語ります。
最後にもう一度、大澤教授の分析に戻りますと、中間報告には影も形もなかった「基本」「ビジョン」「中長期」という三角形が事務局案の左上に出現しています。中長期的な基本のビジョンが必要なのは、多くの人が合意するところなのですが、誰がビジョンづくりを担当するのか明示されていません。放っておくと引き続き厚労省が担当することになるはずです。財源の面倒はみないけれど権限は手放さないぞ、との意識が語るに落ちたということでしょうか。