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新薬の来る道。治験を探索してみよう。

13-2-1.JPG海外で使えるのに日本で使えない薬がある、なんて話を聞いたことがあると思います。
なぜそんなことが起きるのか、そもそも新薬はどうやって生まれるのか。
今回は、そのカギを握る「治験」ということのお話です。

監修/矢崎義雄 国立病院機構理事長
    江口研二 東海大学教授

まずルールありき
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 皆さん、闘病にあたって薬や医療器具の恩恵に浴していると思います。当然ながら、そういった薬や器具が天から降ってくるわけではなく、最初に自然界から見つけ出した人、考えついた人がいて、その有効性と安全性を確かめた人がいて、さらに現在進行形で製造・販売している人たちがいるわけです。
 このうち「有効性と安全性を確かめる」の部分にどうしても欠かせないのが、今回のテーマである「治験」です。簡単に言うと、ある物質や治験の効果を人の体で実際に確かめる「臨床試験」のうち、国の「日本国内で販売していいですよ」という承認を得るための成績を集めるもののこと。
 人体は非常に複雑にできているので、試験管レベルや動物実験レベルで効果があったり安全だったからといって、人体で同じ効果が出るとは限らず、思いも寄らぬ副作用が出ることもあります。広く使われるようになる前に、どうしても人体で試して確かめる必要があるのです。試す、確かめる、が治験の大切な役割です。
 効果や安全性が未知数のものを試すわけですから、当然、評価の定まった薬や治療に比べてリスクは大きくなります。このため、試される人(被験者)が極力不利益を被らないよう、治験に関しては様々なルールが定められています。
 まず、治験を行う医療施設は、表のような一定の基準を満たす必要があります。参加する医療施設、製薬会社、医師は次項で説明するGCP(Good Clinical Practiceの頭文字)という規則を守ることにもなっています。
 また、確かめる、と言うからには、誰が見ても納得のいくような客観的・科学的なものでなければいけません。
 健康食品などで「効いた人がいる。だから、効くに違いない」と言う人が時々います。しかし、プラセボ(偽薬)効果といって、薬だと信じて飲めば、たとえ小麦粉でさえも効いてしまう例が、一定の割合であります。つまり、効いた人がいるだけでは、まったく根拠にならないのです。
 科学的に確かめるという場合、何人に使って何人に効果があったかということを数値で示す必要があります。また、新しい薬や治療の効果を確かめるには、プラセボや今ある薬・治療などと治療成績を比較して、有効性が優れているか、劣っていないといえるか、何らかの意義ある特徴があるか、などを分析する必要があります。悪影響(副作用)についても同様です。
 この際、単純に数値を比べるのでなく、統計という数学を使って比較する(次項コラム参照)必要があります。
 科学的な検討をするためには、試験に適した被験者の最低数を超えなければなりません。たとえば、新しい薬・治療の有効性がプラセボや既存のものに比べて僅かの場合、その差が「ある」と分かるために、大きな人数が必要になります。一方、劇的に有効な場合、人数が少なくて済みます。つまり、試験に必要な被験者数は、薬・治療の持つ特徴や、どの有効性を検討したいかによって変わるのです。
 国内で「承認」されるには、このように科学的なデータが必要なのです。

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