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【九州版】がん治療最前線② 赤司浩一・九州大学大学院第一内科教授

薬で根治をめざし 親玉「幹細胞」を追う
九二1-1.JPG(この記事は、九州メディカル2号に掲載されたものです)
がん治療に取り組むリーダーたちをご紹介していきます。

九二1.1.JPG がんは、遺伝子に異常の起きた細胞が、元の臓器を離れても無限に増殖し続ける病気です。
 20年ほど前から、がん細胞の集団の中に、こうしたがん特有の性質を持った細胞と、集団から切り離されると増殖を続けられない細胞の2種類あるのでないかという考え方が有力になってきました。ちょうど女王バチと働きバチのような親分子分の関係です。女王バチにあたる前者を「がん幹細胞」と呼びます。
 がん幹細胞は、がんとしての性質をすべて持っているだけでなく、抗がん剤や放射線に対する抵抗力も強く、なかなか死なないのでないかと考えられています。抗がん剤などが、ある程度までは効くのに、そのうち効かなくなってくるという現象も、がん細胞が薬剤耐性を獲得するだけでなく、子分は死んだけれど親分は残ったと理解するとうまく説明がつきます。

治療のターゲット

 がん幹細胞が存在するならば、がんの治療は幹細胞をターゲットにする必要があります。どれほど上手に治療しても、患部に幹細胞が1個でも残っていたり、治療の段階で原発巣から離れていれば、いずれ再発・転移します。逆に、薬剤などで幹細胞を殺したり幹細胞としての性質を失わせたりすることができたなら、根治が可能となります。
 このため近年、世界中で幹細胞に関する研究競争が非常に激しく行われています。
 まずは、がん幹細胞とそれ以外のがん細胞、そして正常な細胞を見分ける目印の発見が必要です。大抵はいくつかのものを組み合わせて見分けるのですが、中には1個だけで見分けることができるような明確な目印もあります。それを見つけたなら、次はそこだけに作用して細胞を殺したり封じたりする薬剤を開発していくことになります。
 この研究競争の血液がんの分野で世界最先端を走っているのが、赤司教授とその教室です。
 白血病治療が専門の血液内科医である赤司教授と教室員の菊繁吉兼助教は2年前に、急性骨髄性白血病の幹細胞表面だけに見られるTIM-3という目印を世界で初めて発見しました。固形がんには存在しないものの、多くの血液がんの薬のターゲットとして大変に有望と考えられています。TIM-3をターゲットとする薬の研究は既にサルで行われており、ヒトでの臨床研究のフェーズに入る日も近そうです。
 この実績が認められ、赤司教授は、固形癌まで含めたオールジャパンの研究『癌幹細胞を標的とする腫瘍根絶技術の新構築』の研究代表者を務めています。

研究臨床一体の強み

 赤司教授たちが、TIM-3の発見の過程でやったことは、幹細胞と正常細胞のすべての遺伝子の発現量と、それによって作られるタンパクの量を測定して比較することで、奇をてらうようなことは何もありませんでした。言葉を換えると、熾烈な競争の中、地力勝負で一番乗りしたわけです。
 この理由について赤司教授は「まず過去からのノウハウの蓄積がありました。そして世界では、臨床と研究を分業するのが一般的ですが、我々は両方やるので、患者さんに研究への協力をご了承いただいてから検体を取るまでタイムラグがほとんどありません。治療法を一日も早く開発して届けたいという相手の顔も浮かぶので、パワーも出ます」と話します。
 大勢の医師が仕事を分担しつつ切磋琢磨していてこそ可能なこととも言え、国内でも珍しくなった大講座制の強みを最大限に生かしています。
 さらに赤司教授の教室には、もう一つ強みがあります。
 少し話が戻りますが、がん幹細胞の存在は20世紀末に血液がんで証明され、今世紀に入ってから乳がんや脳腫瘍、胃がんや大腸がんでも、ほぼ間違いなく存在するであろうと考えられるようになってきました。
 「存在が証明されている」と「存在するであろう」と分けて表現したのには理由があります。
 ヒトのがん細胞の集団から、幹細胞と見られる特徴を持ったがん細胞と、その特徴を持たないがん細胞を完全に分けて、それぞれを免疫不全マウスに移植した場合に、前者だけにがんが発生すれば、幹細胞の存在を証明できたことになり、その分け方が治療法の開発にもつながります。
 しかし逆に、がんが発生しないからといって、幹細胞が存在しないとは限りません。種の異なる哺乳類どうしでは、細胞を移植しても根付かないのが普通です。どんな時でもヒトのがんが根付くマウスを使ったのでない限り、幹細胞でないからがんができなかったのか、種が異なるから根付くことができなかったのか、区別がつかないのです。
 固形癌に関して、ヒトのがんが確実に根付くマウスは、まだ開発されていません。このため幹細胞の証明に、なかなか至らないのです。
 幹細胞と証明できたものと、恐らく幹細胞だろうというものでは、社会が研究に投入する資源の量に大きな差ができます。
 固形癌に関しても幹細胞の研究と創薬を今まで以上に進めるためには、根付くマウスの開発や、根付く根付かないの差が一体何なのかの研究も必要になってきます。ひょっとすると、根付くと根付かないの差の中に治療法のヒントが隠れている可能性だってあります。
 実は、その免疫不全マウスの開発でも、赤司教授の教室は世界をリードしているのです。
「固形癌の治療法開発につなげるためには、幹細胞を効率よく採取する方法を見つける必要があり、マウスの改良にも力を入れたいと思っています」と赤司教授。
 うまく改良できたら、そのマウスを世界中に配るのだと言います。研究者として世界から尊敬されることになり、また治療法の開発が早くなることにつながります。それだけでなく、研究の仕様標準を握ることにもつながるのだそうです。
「追い付かれないように、配ったマウスで他のチームが研究を始めた時には、次の改良を進めておけばいいんです」

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