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【九州版】がん治療最前線③ 内藤誠二・九州大学大学院泌尿器科教授

QOLを大切に 低侵襲治療へ挑戦
九三1-1.JPG(この記事は、九州メディカル3号に掲載されたものです)
がん治療に取り組むリーダーたちをご紹介していきます。

九三1.1.JPG 本年9月30日から10月4日までの5日間、福岡市で国際泌尿器科学会(SIU)総会が開かれ、世界100カ国以上から約3500人の研究者や医師が集う予定です。同総会が日本で開催されるのは、1970年の東京大会以来2度目のことで、オーストラリアのメルボルンやブリスベン、日本の大阪や横浜という国内外の有力候補地を抑えての開催決定となりました。学会場となる福岡国際会議場、福岡サンパレス、展示会場となる福岡国際センター、会員懇親会(SIUナイト)会場となる川端商店街を中心に、福岡市内が国際色豊かな賑わいを見せるものと期待されます。
 その大会の会長を務めるのが、日本泌尿器科学会前理事長の内藤誠二・九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野教授です。内藤教授は一昨年、国際泌尿器科学会創立国であるフランスの泌尿器科学会から日本泌尿器科学会を代表し、アジア人として初めて『フェリックス・ギヨン・メダル』を受賞しました。また、米国泌尿器科学会から昨年名誉会員に推戴され、ことし米国泌尿器科学会Presidential Citation Awardも受賞しました。
 泌尿器科は、重要な内分泌臓器である副腎や腎臓・尿管・膀胱・尿道などの腎・尿路、さらには前立腺・精巣・陰茎などの男子生殖器を扱う外科系診療科の一つです。当然のことながら、手術の際には全身管理が必要となります。また、排尿や性機能という人間の尊厳に関わる疾患を扱う重要な診療科です。泌尿器科では早くから、患者の身体への負担を軽くしたり、機能を温存したりする低侵襲治療に積極的に取り組んできました。

ダビンチの草分け

 内藤教授は、抗がん剤の耐性の機序とその克服に関する研究を続け、数多くの基礎・臨床研究に携わってきました。その一方、腹腔鏡手術や尿路内視鏡手術を中心に、ずっと低侵襲治療の探求と普及にも尽力してきました。「1993年に腹腔鏡で初めて副腎摘除術を行った時には6時間近い長時間の手術となってくたびれましたが、患者さんは翌日から元気に歩行開始できました。それを見てこれからは腹腔鏡手術に積極的に取り組まなければいけないなと痛感しました」と語ります。
 低侵襲治療と言えば、ことし4月、前立腺がんに対する根治的前立腺摘除術に手術支援ロボットのダビンチSを使うことが保険で認められ、話題になっています。
 従来の下腹部を切開する手術は出血量がかなり多く、また外尿道括約筋を傷つけて術後尿失禁が残ることもありました。2000年頃から徐々に普及し始めた腹腔鏡手術は、開腹手術に比べて出血量が少なく術後の痛みも軽いものの、限られた術野の中で膀胱と尿道を吻合するのが極めて難しく、施設基準の縛りもあって、実施できる施設は限られていました。そんな課題を克服できるロボットとして、2000年7月に米国食品医薬品局(FDA)が薬事承認したダビンチスタンダードが、世界で急速に普及したのです。
 九州大学病院でも第2外科がダビンチスタンダードを2000年に慶應義塾大学と共に国内治験のために導入しました。しかし治験は終了しましたが、薬事承認を取れないまま経過しました。
 その後ようやく、ダビンチ補助下根治的前立腺摘除術が2008年10月に東京医科大学、2009年2月には九州大学と金沢大学でそれぞれ高度医療の第3項先進医療(薬事法上の未承認、または適応外使用である医薬品、または医療機器の使用を伴い、薬事法による申請などにつながる科学的評価可能なデータの収集の迅速化を図ることを目的とした先進的な医療技術)として承認され、混合診療としての道が開けました。九州大学病院泌尿器科は、通常の前立腺摘除術の保険診療に約35万円の消耗品の実費負担で、この手術を提供してきました。
 そして2009年11月、ダビンチスタンダードの改良型であるダビンチSが製造販売の承認を受け、そのロボット支援手術は高度医療の第2項先進医療(薬事法上の未承認、または適応外使用である医薬品、または医療機器の使用を伴わず、いまだ保険診療の対象に至らない先進的な医療技術)として承認されました。これが、2012年4月から保険適用されることになったわけです。九大病院でも、この7月に従来のダビンチスタンダードを改良型ダビンチSに入れ替えるべく、準備中です。
 スタンダードタイプにしろ、改良Sタイプにしろ、ダビンチを用いた手術では、3次元の視野のもと、鉗子を自由自在に動かせ、極めて安全で正確かつ迅速に手術を行うことが可能になりました。
「一定のトレーニングを受ければ腹腔鏡手術のように多くの症例経験を積まなくても、安全で精密な手術が短時間で行えるようになるので、患者さんには朗報ですし、術者の負担も軽減されます。しかしそのためにはトレーニング施設の充実と教育が重要です」と内藤教授。
 また、1台3億円、年間維持費2500万円、消耗品代1回約50万円という高額な費用に加えて、保険適用が現在のところ根治的前立腺摘除術に限られており、しかも54万2千円と低い加算額となったことから、ダビンチSを減価償却していくことは極めて困難な状況にあります。内藤教授は、「診療報酬を増額すると共に、他の手術への保険適用拡大も速やかに進めてほしい」と言います。

改めて九大でロボット開発

 内藤教授は今、九州大学先端医療イノベーションセンターの『低侵襲ロボット医療グループ』長も兼務しています。
「ダビンチSは、特許がいろんな部品に数多く絡んでいて、これに取って代わるロボットを作るのは、なかなか難しいですが、九大では遠隔医療用ロボット、MRIナビゲーションに連動可能なコンパクトなロボットや内視鏡に組み合わせたロボットなどが開発されており、近い将来臨床応用されることを期待しています」と語り、日本のロボット技術が低浸襲外科治療の分野で世界をリードできるよう、日々後進の指導に当たっています。

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