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がん医療を拓く⑫ がんの分裂を妨害 新たな薬の可能性

101-2-1.png 抗がん剤の中に微小管阻害剤というグループがありますが、副作用や薬剤耐性の問題がありました。このほど、新たな仕組みで抗がん効果を発揮する薬剤が開発され、副作用の少ない抗がん剤として期待されています。

101-2.1.png ご存じの通り、細胞は分裂して増えます。分裂時には遺伝子が複製されて染色体を形成、それと同時に中心体というものが細胞の両極に一つずつ配置されます。それぞれの中心体に向かって染色体がきちんと分配されれば、母細胞の遺伝情報をそっくり受け継ぐ娘細胞が二つ出来上がります。

 中心体へ染色体を引っ張ってくるのは、紡錘糸という繊維状のものです。微小管という構造物が連なってできています。中心体から紡錘糸が染色体の数だけ伸びてきて、各染色体の半身ずつを両極へ運んでいきます(図上の流れ参照)。

 がんが無秩序に無限に増殖していくのは、細胞分裂が正常細胞よりも活発に際限なく行われる結果ですから、がん細胞では通常細胞よりずっと頻繁に紡錘糸がお目見えすることになります。そこで紡錘体を形成する微小管は、以前から抗がん剤のターゲットとされてきました。
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副作用と薬剤耐性

 微小管を狙って細胞分裂を失敗させる細胞毒系の抗がん剤として、パクリタキセルやビンブラスチンがあります。細かい仕組みは異なるものの、どちらも微小管に直接取り付いて紡錘体の働きを妨げ、細胞分裂を止めます。

 問題は、これらの微小管阻害剤は分裂時のみでなく静止期(分裂もその準備もしていない状態)の細胞にも取り付いてしまう点です。体のほとんどの細胞は静止期にあると考えられていて、阻害剤に取り付かれて微小管機能が損なわれると、末梢神経障害など重篤な副作用を生じます。多くはしびれに始まり、重くなると刺すような痛みや焼けるような痛みを感じたり、細かい作業がしづらくなったり、歩きにくくなったりします。また、がん細胞が薬剤耐性を獲得しやすいことも知られています。

 この課題を克服するため、微小管の周辺で分裂期のみに現れるような標的はないものか。がん研究会がん研究所細胞生物部の八尾良司主任研究員らは、微小管や紡錘体そのものではなく、その制御因子の方に狙いを定め、TACC3という遺伝子に着目しました。

 「TACC3は分裂期にのみ発現して、紡錘体の形成を司る遺伝子です。コウボ菌やカエルなどにも見られ、進化の過程で種を超えて保存されています。ヒトでも働いているのかは明らかにはなっていませんでしたが、がん細胞で発現が高まっていることは知られていました」

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