がん医療を拓く⑯ 血液で早期がん発見可能に?
国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野・落谷孝広分野長らのチームが、微量の血液から、大腸がんに特徴的(がん特異的)な成分を短時間で検出することに成功したものです。低侵襲な早期大腸がん診断法として、数年後には実用化されそうです。
現状は多くの課題
現在、大腸がん検診では、まず便潜血検査が行われています。侵襲はありませんが、日本で広く採用されている弁先決検査では一日法(検体採取は1回のみ)で見落としが4割、二日法(2日連続で検体採取)でも2割は見逃しがあるとされます。
また陽性反応が出たら大腸内視鏡を行い、異常があれば腸粘膜の組織を採取して調べることになりますので、若干の侵襲がありますし、入院が必要で費用もかかります。それなのに、実際にがんが見つかるのは、陽性となった人の3~5%という報告があります。
つまり、早期発見の方法としては課題も多いのです。
血液を調べる低侵襲な方法としては、CEAやCA19‐9といった腫瘍マーカーが使われています。しかしこれらは、多くの種類の腫瘍で発現していて原因臓器を特定しにくいだけでなく、正常な上皮細胞にも存在することが分かっていて、良性疾患やヘビースモカー、常用している薬、体質等によっても偽陽性となることがあります。さらに、早期がんでは陽性反応が出にくいため、主に術後、がんが切除しきれたかどうか、再発がないかといった確認に使用されています。要するに、大腸がんの早期発見には使えないのです。
検出能力が高い
今回、落谷分野長らが開発に成功した検出法は、必要な血液量がわずか5μℓで半日後には結果が出ます。既存の腫瘍マーカーを用いる方法より検出能力が上がった(コラム参照)うえに「ステージ1の大腸がんでも発見できます」(落谷分野長)。
この検査の能力検査法の診断能力を評価する指標としてAUCというものがあり、曲線の右下に入る面積が大きいほど優れた検査法と見なされます。国立がん研究センター病院の臨床情報と血液サンプルを組み合わせて調べたところ、従来の腫瘍マーカーを活用した場合のAUCはおよそ0.65程度なのに対して、今回の手法では0.82と、より高くなりました。また早期がんの感度が高いのも特徴です。