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膵がん 発見が難しい理由~~大人も知りたい新保健理科⑪

吉田のりまき 薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
 2015年に日本膵臓学会が『患者さんのための膵がん診療ガイドラインの解説』を出版しました。それによると、膵がんの年間死亡数は3万人を超え、死亡順位は肝がんを抜いて第4位になったとのことです。治せるがんが増えた現在でも、早期発見が困難で、5年生存率も極めて低くなっているのが現状です。

 なぜ膵がんは早期発見が難しいのでしょうか。

胃の裏にある

 消化について、小学理科、中学理科、そして高校生物で学習します。口、食道、胃、(十二指腸を含む)小腸、大腸、肛門といった一連の消化管の図は、多くの方がしっかり記憶しています。また、膵臓から出された膵液が十二指腸に流れ込む、ということは皆さん大抵ご存じです。

 しかしなぜか、膵臓がどこにあって、どういう形をしているのかを記憶している方は、多くないのです。

 実は膵臓は胃の裏にあり、洋ナシのような形をしています。その膨らんだ方が十二指腸に接していて、ちょうど湾曲した所にはまりこんでいます。

 そう言われてみれば分かるはずなのに、なぜ皆さん記憶していないのだろうと不思議に思って教科書を見てみると、小学校や中学校では胃と膵臓とが一緒に示された図が少ないように思われます。一緒に描かれていたとしても模式図になっていて、両者の位置が少々ずらされていることがありました。これは致し方ないですね。平面的に示しづらいですよね。詳しく描けば描くほど臓器同士が重なって分かりづらくなり、かえって子どもたちの理解を妨げてしまう恐れがあります。高校で生物を選択すれば詳細を学習できますが、学習する機会がなかった大人たちは、自分の記憶図に膵臓をぜひ加えておいてください。

 さて、膵臓には、管がたくさんあります。

 まずは膵管という管が挙げられます。膵液(消化を助けます)は膵管を通って十二指腸に分泌(外分泌)されます。また、インスリンやグルカゴンといった血糖を調整するホルモンが膵臓内のランゲルハンス島で産生され、血液中に分泌(内分泌)されます。このように、膵臓には外分泌と内分泌の両方の働きがあり、血管もたくさん存在します。

 さらに肝臓で排出された胆汁が通る管もあります。主膵管と呼ばれる膵管と総胆管とが合流し、十二指腸に胆汁が排出されるのです。

手遅れになりがち

 膵がんは、治療が困難で、転移・再発しやすいがんです。先ほど膵臓は管が多いと書きましたが、これはがんがその場に留まらず移動しやすいことにも関係してきます。膵管と胆管がつながっていることから、肝臓にも容易に転移します。そもそも膵臓の周りには多くの消化器があって密に接していますから、転移リスクも高くなるのです。また、胃の裏の奥まった所にあるため、画像検査でも見づらいのです。がんがある程度大きくなるまで自覚症状が現れず、膵がん特有の症状が少ないため、どうしても発見が遅れがちになり、発見された時には手の施しようがなく、治療効果を出すことができず、生存率が低くなってしまうのです。

 できるだけ早期に発見するためには、少しでも体の変調があれば見逃さないようにすることです。

 がんで膵管が詰まってくると消化液の出が悪くなって消化不良になり、腹痛や体重減少が見られるようになります。またホルモンの産生が悪くなると、糖尿病を発症したり、食べ過ぎなどの原因もないのに急に糖尿病がコントロール不良になったりします。胆汁の通り道が圧迫されて狭くなると、黄疸を生じることがあります。症状だけ見ると、がんとは思えないことと思いますが、膵臓の構造を理解していれば辻褄の合う症状ですよね。絶対に不調を放置せず、早めに受診をしていただきたいです。

高校生の大発明

 今回取り上げた『ぼくは科学の力で世界を変えることに決めた』は、科学少年ジャックが執筆した本です。

 当時彼は高校1年生。親しい人を膵がんで亡くしたことから、得意の科学の力を使って早期発見を可能にしようと研究に取り組みました。まずは膵臓そのもののことを、そして膵がんのことを調べ始め、誰でもが自由にアクセスできるサイトから必要な論文を収集しました。なんと8000種類の中から、早期がんの段階で増え膵がんの指標となり得るタンパクを探し出したのです。そのタンパクを抗体反応で捉えて検出するために、カーボンナノチューブと抗体の技術を組み合わせるという画期的な方法を考えました。この方法を使えば、電気抵抗の変化量から指標となるタンパク量を測定でき、早期の段階で膵がんを発見することが可能になります。しかも、ほんの1滴の血液からたったの5分で検出することができるのです。
 
 2012年、この研究で彼はインテル国際学生科学技術フェアのゴードン・ムーア賞を受け、世界的に有名になりました。現在実用化に向けて開発中です。ウェブで検索すれば、彼の受賞シーンや研究内容の発表が見られます。

 この方法で早期発見が可能になれば、多くの命が救われるでしょう。しかし、残念ながら今はまだ実用化されていません。膵がんのリスクとなる肥満や喫煙を避け、不調サインを見逃さず、早めに検査するよう心掛けていただきたいです。

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