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孤立社会の悲劇減らすため 迷える家族に「お節介」を~ハート・リング通信㊱

ハート・リング運動専務理事 早田雅美
 今年5月、神奈川県の有料老人ホームで、83歳の夫が自らの健康状態の不安から「認知症の妻を残して周囲に迷惑をかけるなら心中したほうがよい」と考え妻を殺害するという事件がありました。10月、夫に懲役3年の実刑の判決が出ました。
 「死んでお詫びをしたい」という夫に裁判官と裁判員からのメッセージとして、「あなたが死んでお詫びをするというのは間違っている。子どもや他人をもっと頼って、天寿を全うして亡くなった妻を供養してもらいたい」と説諭があったそうです。

 認知症の方が増える中で、このような悲しい事件は後を絶ちません。

 2006年2月に京都市伏見区の河川敷で起きた、献身的に介護をしていた54歳の息子による認知症の母(当時86歳)殺害事件は、あまりにも有名です。

 2015年には埼玉県深谷市で、認知症の母を介護する夫と娘家族3人の心中事件が起こりました。利根川に車で入水を図りましたが、娘が生き残り、加害者として懲役4年の判決が下りました。羨ましがられるくらい密度の濃い親子関係だった......。献身的な介護は真似できない......という証言もありましたが、主に生計を支えていた父の体調が悪化し、心中はその父が言い出したことだったそうです。

 認知症を巡るこうした悲しい事件には、実は多くの共通点があります。人が亡くなる事件でありながら、憎しみから起こった事件とは言えず、むしろ献身的な介護をしてきて力尽き、残る子どもや周囲に迷惑をかけたくないとの心理が働いているという所です。

 実は筆者自身も、10数年前の重度認知症の父の在宅介護時代、介護と仕事の両立に行き詰まり、ある期間同じような衝動に苦悶した経験があります。

 家族としての情や、様々な想い出が走馬灯のように思い巡るなかで、日々次第に変わり衰え行く家族の姿や行動言動に、とてつもない寂しさや孤独が膨らみ続けて、先の見えない不安に苛(さいな)まれます。

 識者や評論家の多くは、充実している福祉サービスをなぜ利用しないのか、ケアマネジャーに相談すれば......などと言うわけですが、現実には介護経験のない若い職員や、個人の生活への介入に極力慎重な姿勢や発言を繰り返す、よく言えば立場をわきまえた相談員、同様のテレホン相談に一層落胆が深まり、正直「もう後がない」と感じた経験は少なくありませんでした。

 今やどのご家庭にも関係があるテーマとなってきた認知症は、制度やインフラがあれば解決する問題ではありません。

 もしお近くにそのような方を見かけた場合、一人ひとりの方が自身の問題と考えて、たとえそれが「お節介」に過ぎたとしても、恐れることなく混迷に身を置く家族たちに温かい気持ちを持ってアプローチしていただきたいと心から願っています。

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