後期臨床研修 班会議1(4)

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年09月25日 07:06

沈黙を守っていた山田班員が口を開く。


「最初の出発点に戻ると、このビジョン検討会の進め方は非常によく整理されており、実効性を期待できると思っている。問題は医師不足であり偏在である。数は増やすと大枠が決まった。偏在解消にどのように明確な方法を描くことができるか。偏在として、今まで診療科の偏在、地域の偏在が挙げられていた。もう一つ設置形態による偏在もある。この3つの根源的な問題に対して実効性ある方策が立てられるか。制度を直すとして、どこを見て修正するのか、難しい問題ではあるがそこに挑まなければならない。ただし目的としているもののことを考えると、適切な指標探しばかりに終始していてもいけない。ある程度のところで、これが適切であろうと取りまとめる必要があると思う。その目的を達するため、積極的に関与し発言していきたい」


川越
「私も検討会はいい方向に進んでいるなというのが実感。後期研修や専門医の話をするうえで、各専門の学会は自分たちの会員が増えた減ったは知っていると思うのだが、自分たちの領域に何人必要かという計算をしているのか。それがないと話にならないはず。何度も同じことで恐縮だが、産科はたぶん計算しやすい。もちろん運用にもよるだろうけど。麻酔医も同様に計算できるんじゃないかと思う。がんの在宅医だって現在がんで亡くなっている30万人のうち6%が在宅死しているのを20%に持っていこうとするなら、在宅がん医を何人育てればよいか計算できる。各学会は、どう必要数を見ているのか。計算する根拠があるなら、できるところは計算してもらいたい」


海野
「産科は実はまだ出せていない。小児科は何年か前に毎年700人という数字を出していた。産科の場合、現在の人数から減らないようにするには年500人必要という数字だけ出していて、でも未だかつて500人入局したことがない」


川越
「小児科学会に尋ねるべきんなんだろうが、700人がどういうところから上がってきたのか教えてほしい」


有賀
「開催要項の中に『我が国の土壌に合った』という文言が入っている。これが実は極めてキーワードで
、我々救急医も救命救急センターの数からとか、研修医受け入れの数からとか、いくつか弾くことはできるのだが、しかし実際にはなかなかそうならない。私のもともとの専門である脳外科でいえば、地域では医師が普通に神経内科の領域も神経放射線の領域もリハビリもやっている。これだけカバーする範囲が多様だと、手術だけやってればいいという勘定の仕方では、地域地域で実情が違い、そうは問屋が卸さない。土壌に合ったと言っている限り現状追認にならざるを得ないので、あるべき姿を土屋先生のリーダーシップでかなり強引に持ち込んで、そのプロセスの中で理解を求めていく作業が必要になるだろう。たたき台のたたき台のようなものを作らないと国全体では進まない。これから作り会えていく分野はともかく、エスタブリッシュされた分野は多かれ少なかれ土壌の中で領域を広げている。単純に外国と同じにするのではなく、我が国の実情に合った形でなおかつある程度示す。面白いけれど難しい」


土屋
「ぜひ支えていただきたい。嘉山先生がいないから言うわけではないが、嘉山先生が言っていることは脳外科医の土壌であって、国民にとっての土壌は何か考える必要がある」


有賀
「嘉山先生が勝手に言っているということではなく、たしかに神経内科の仕事もやっている現実がある。そうなると見えてくる景色もそうならざるを得ない」


嘉山、嘉山と繰り返されるので、傍聴席から笑いが起きる。


土屋
「ウチでも化学療法を画像で見られる肺なんかは内科医がやっていたけれど、画像で評価できない消化器外科や整形外科では外科が当たり前のようにやっていた。それを内科医が嫌がるのを無理やりやれ、と言ってやらせたら、今度はそれによっていかに手術に専念できるか分かるようになって、今度は逆に内科に全部押しつけるようになった。そんなことするなら定員を1人削って内科に回すぞという話になっても、そちらの方がいいという。そんなものだ。握っている限り変わらない。自分たちがオールラウンドで偉いんだというんではなく、専門家が分担したらもっといいんだと、最初は無理やりにでも分からせないといけない」


江口
「自分たちで全部見ようという思想ではなく、やらざるを得なかった。欧米では分化が進み過ぎて、呼吸器外科医が画像を読まないような弊害も出ている。その意味では、個人個人は大変だったかもしれないが患者さんには質の高い医療を提供してきたと言えるかもしれない。ただ言うとおり、本当に自分がやらなければいけないことでないことは何とかならないかということはあり、コメディカルとの連携をどう組んでいくのかも考慮しないといけない。現状は非常に限られた連携になっている。介護ともそう。多職種との連携を考えて適正な人数を出す必要がある」


土屋
「米国の専門バカはたしかに反面教師にしていかなければならない。日本のように入口から出口まで全部主治医というのも患者からすると心強い面もあるだろうから、しかしそこはバランスの取り方が難しい」


海野
「それぞれの専門家に数を言わせるべきだ。オーバーラップしながら分担できることも見えてくるだろう。それは領域の特性にもよるので専門家でないと判断できない。コメディカルに関しても、診療科ごとに違うはず。分野ごとに色々な方がいるので専門の立場で一番よいのは何か言ってもらったらいい。余りにも先鋭的すぎて誰にも受け入れてもらえない案になってしまっては、これでやっていこうというコンセンサスを得られない」


土屋
「各科の調整をする際には十分に意見を聴くと同時にコンティニアスに見直して、それが毎年還元されていく制度にする必要がある。見直しを制度化することがキモだ。一度決めたらこれに従え何年かこのままというのでは、話がまとまらなくなる」


外山
「専門バカの話が出たので一言言いたいのは両極端は決してやったらいかんということ。わたしも帰国したばかりの時にはいろいろカルチャーショックがあった。今の病院ではない別の病院での話だが、腹部動脈りゅうの患者が運ばれてきて、外科的疾患なんだが内科医が呼ばれて診断はついたアシドーシスもひどい、情報が外科にも流れてきたので、すぐ手術になるだろうと段どりしていたら、その内科医が『こんなにアシドーシスがひどいのに手術できるのか』と尋ねた。米国の内科医は自分の領域の外科のことは非常によく知っている。専門バカが現状かと思う。むしろ日本の内科と外科の方が、互いに相手のことを知らないのでないか。良いところは残せばいいが悪いところは変えないといけない。

その視点で進めていったうえで、外科医の立場からすると切ることに専念させてくれ、いい手術をさせてくれれば患者さんのためになると言える。手術の後に肺炎になったとき、今の病院は呼吸器内科や感染症課がバックアップしてくれるけれど、昔はあなたが切ったんだから最期まで見ろというのが普通だった。そんなことを含めて一応述べておく」


土屋
「教育と診療との関係について述べておきたい。(自分の字なのに読めず)この病院ではどこ足りないところはどこでと連携すべき。学会中心に育成すると経験が何例かとかどこの所属かばかりが問題になる。ある程度の指針は示さないといかんだろう」


有賀
「この研究班は対象を後期研修にしているわけだが、初期研修の2年のプロセスの中で理想的な医師ができあがってくるという前提に立つのか。前段の初期研修が医学部教育をきちんとやれば必要ないといった議論をされているところだろう。この研究班としても、前に対してそれなりのメッセージを出しておかないとまずいんじゃないか」


土屋
「1階の議論は文部科学省と合同の検討会でやられている。再来年の4月には変わる可能性があるので、それを横目でにらむ必要はあるだろう。現段階で言えるのは家庭医として働けるほどの充実はない、つまり満足いくプライマリケアを学ぶには2年では足りないことがハッキリしている。極論すると米国のメディカルスクールを出たところぐらいで考えないといけないんじゃないか。あまり初期研修のことを買い被って制度設計すると先で破たんする。厳しい目でやっていって、初期へ譲れるところは譲るというスタンスでよいのでないか」


有賀
「安心した。私は臨床研修の第三者評価の委員長を仰せつかっているので、内情を知っている。頑張っているところとそうでないところとの格差が相当ある。そもそも医学部教育をちゃんとやるところから差がある」


土屋
「ローカルな話で恐縮だが、がんセンターでは後期研修しか取らない。従来は3年目でも、まあ各診療科に入れて大丈夫だったのだが、今はできれば初期を終えた後で1年か2年後期研修も受けてきた方が望ましいと募集要項に書いている。外科の場合でいえば、手術するのに良性なんかないから、最初からがんセンターに来ると外科の専門医資格も取れなくなっちゃう。そういうのを見ていての実感は、アメリカならメディカルスクールを出た程度でしかないということ。基準を置く場合は最低のところに合わせないといかんという認識だ」


川越
「検討会でも突っ込んだ議論が行われて2年では長すぎるとか学部段階でやればいいとか踏み込んだ意見が出ていたかと思う。もし向こうで話が進んでいるのであれば、こちらにも同時並行的に情報がほしい」


土屋
「一回目を傍聴してきたけれど特に進展はなかった。制度をつくった人たちはいい制度だと言い、そうでない人は変えろと言っていた」


阪井
「専門バカにはなっていかんという件だが、私自身、北米で卒後研修を受けた身として言えるのは、向こうでは感染症でも呼吸器でも必要に応じて専門家を呼び集めてやっていた。そういう風にうまくいっているのは、全体のことが分かって旗を振っている人がいたからだった。専門医も元々は総合内科などやってから移行しているので、それぞれに素養はある。卒後研修の中でも、まず総合教育をみっちりやってから専門科へというのが必要だと思う」


外山
「初期研修について、もう一言。今の初期研修の期間が1年がいいのか2年、3年がいいのかは別にして、制度が悪者という発言をしている方がいたらぜひその真意を伺いたいし、私も意見を述べたい。これは少なくともここ数年では唯一の医療のヒット商品だと認識している。たしかに総合臨床医になるには2年は短いかもしれないが、逆にたとえば胸部外科の基本的なところをマスターするのだって2年ではとても足らない。むしろ一度切って別のものと考えた方がよいのでないか。初期と後期のつながりで考えても、施設によって違う制度が入れられているので難しい。本当につなぐのなら初期の在り方も含めてもっと議論すべきだろう」


土屋
「たしかにビジョン具体化検討会でも、医師増員が必要と言う事を表面化させただけで諸悪の根源ではなかろうということになっている。むしろ何年も定員を放ったらかしていたのに一番の問題がある。初期研修をやめようということではなくて、もっといい制度になりうるはずだし、そのためには後期の方も考えないといけないということだ」


岡井
「初期のことは学部教育とのつながりが悪いという意見はあった。5年で実習、6年でも実習、これが国家試験で切れて、初期研修と効率が悪い。じゃあということで厚生労働省と文部科学省の合同検討会になっているわけだが、思想として悪いとは誰も言っていない。ただ2年かけただけの成果が上がっているかという点が問題になっている」


渡辺
「どういう医療をめざすかが直接教育とリンクしてくる。どういう専門医を育てたいのか、現場の医師も明らかにする必要があるだろう。どういう素養が必要で、そのためにはどういう過程を経てくるとよいのか。そういうものが見えてくれば、現存するヒューマンリソースを有効に使って効率的に進めることも可能になる。一番最初のスタートとして現場の専門医の姿が浮かび上がらないと議論も進まないのかなと思った」


土屋
「胸部外科学会で専門医を育ててみると、心臓血管外科的な素養もあった方がいいと分かってきて3カ月はやらせようかというような話になっている。このように各学会でも努力はしている。

しかしながら現状の専門医資格というのは、必要症例数が米国より1ケタ少ない、信じられないくらい少ない。なぜそんなことになっているかと言えば、各大学で毎年3人くらい取って、その人たちに6年か7年で専門医資格を取らせようとすると、その位の数にならざるを得ない。身内の恥をさらすようだが、現在の専門医資格というのは提供側の論理が勝ってできたもので、国民にとって必要な能力を備えた人という考え方はされていない。だから学会から実情は聴くが、しかし懐疑的に聴かざるを得ないと思う。ちなみに私どもの施設では1科で年に500~700例あるが、それでも年に1人育てるのがやっと。その代わり、わが施設の卒業生であれば私は自分ががんになったとしても安心して身を委ねられる。

そういう医師を育てないといけないと思うので、私の認識では学会に聴いても意味ないんじゃないかなという気はする。こういうことを言うと学会で袋叩きに遭うのだろうけれど、しかしながら国民に袋叩きにされないような議論をする方が大事であろう」


葛西
「現在、非常にエポックメーキングな議論が行われていると思う。諸外国では当たり前に行われていて、しかし日本では行われていなかった、専門のトレーニングをしたうえで専門医になっていくという仕組みが作られつつあるのだろう。中間では、後期研修の途上でどう評価してレベルを上げていくかも考える必要がある」


土屋
「山田先生が指摘した3つの偏在、それについての実態を分析し解釈する作業が今後必要になる。次回からそれを行うと同時に、まず日本医師会、専認協から話を聴いて、その後に各学会の意見を謙虚に伺いたい。先程悪口を言ったけれど、最初から聴く耳持たないということではなく、あくまでも謙虚に伺う。それぞれに努力はされているのだと思う。そういったことを伺ったうえで、目的に合った必要数をどう育成するか検討をして、さらに専門外の方からも意見を伺い議論して進めていきたい。

本日は先週末になっての急な召集にも関わらず全員にご参加いただきありがとうございました。私はもともと外科医なのでおっちょこちょいで失言をすることもあるが、多少の失言は恐れずに本質的な議論を進めていきたい。国民の皆さんにもホームページを立ち上げた後は、どんどんご提言いただきたい。批判を恐れずにやっていくつもりだ。専門家の責務をまずこの委員会が果たしたい。それを一般の方に伝えていただくのはメディアの役割。ぜひ班員の一員くらいの気持ちでご協力をお願いしたい」

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コメント

良くも悪くも、この会議に集まったお偉い先生は医師という職人なのだと思った。

専門分野の必要人数を積算するのに、労働基準法を守ろうとか、休憩・休暇を十分に取れるようにしようとかいうような発想は全くない。

産科・小児科などの不規則労働を強いられる分野では、これまでの違法な就労状態を追認した人数だけではやっていけるはずもなかろうに、全く意識が及んでいないのはお寒い限りであり、この手の人達が寡頭会議で決めている限りでは、産科・小児科の勤務医の絶滅は必至だろうと思う。

勤務医を守る立場の人の発言が全くないというのが私の最後の感想。
203高地で突撃命じて恥じないような

>Med_Law様

コメントありがとうございます。
この班会議の前提となっているビジョン具体化検討会の1回目の段階で

http://lohasmedical.jp/blog/2008/07/post_1288.php#more

土屋班長は
「外科医も労働基準法に則って仕事をしないといけないと思うのだが、胸部外科学会で調査をしたら、労働基準法を守れているという所が10%、まあまあ守れているという所が28%だった。一般病院だと守れているが14%、まあまあが36%で半分は守れている。でも大学病院だと守れている3%、まあまあ16%と2割しかない。医師にはタイムレコーダーなどないけれど実態はこういうことで、実際問題疲弊している。このような疲弊した医師の手術を受けるのは国民にとって大変不幸なことであり(以下略)」
と発言しておりますので
ご指摘のような労働基準法遵守が念頭にないのではなく
既に全員の共通認識になっているのだと思います。

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