メガバンクがあるなら、メガホスピタルがあっても?

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年10月26日 22:24

22日に
医療クラスター研究会というところのシンポジウムに行って
話を聴いてきた。
その日のうちは、分かったような分からないような半信半疑の感じだったのだが
墨東病院問題を見ているうちに
言っていることは正しいかもしれないと思うようになった。


要は、都道府県ぐらいの単位で
急性期病院を全部1ヵ所にまとめてしまって
全科365日24時間稼働の医療地区を作り
重病人はヘリなどを使って全部そこへ運ぶ。
慢性期の患者は地域の診療所で診るという構想で
現状の病院配置を前提に考え始めると突拍子もないのだけれど
ゼロベースで考えるならば
現在起きている問題をかなり解決できそうだ。


それで、そのシンポジウムの中で
伊藤滋・早稲田大特命教授
国松孝次・元警察庁長官
土屋了介・国立がんセンター中央病院院長の3人による鼎談があり
医療クラスターへの賛否は別にしても
中身がブッ飛んでいて面白かった。ご紹介する。


土屋
「まつづくりの中で、病院とか診療所とかの医療機関というのは、どのように位置づけられているものなのか」


伊藤
「知事さんとか市長さんとか、表向きは病院が大事と言うのだが、具体的にどこに新しくつくるかという話になると、我々が街全体を考えて、ここに欲しいと示しても、全然違う所につくられる。大体は田んぼの中の土地が安いところになってしまう。街の中で頑張ってみようとなったのは、僕が関与した中では鶴岡の庄内病院くらい。僕たちとは関係ない感じがしている」


土屋
「ハコモノ行政で、あっちが作ったから、ウチもみたいな感じになってないか」


伊藤
「地方に行けば行くほどそうで、それは病院に限らず、ホールでも図書館でも何でもそう。それは市長が悪いんじゃなくて、皆よそを羨むというか妬みが行動原理になっている。で、その構図に農林水産省が実によくお付き合いして、色々と補助金を出している。そういうのにまた建築屋が乗っかって、自分の好き勝手に建物を作って、業績集に載せたりしている」


土屋
「設立主体がJAの場合もある、長野みたいに、あれはだいぶ公立病院とは趣が違うのだろうか」


伊藤
「あれは一番うまく行っている例で勉強になる。長野のJAは特別。他のJAは全然違う」


土屋
「若月先生のお蔭だろうか」


伊藤
「本当にそう思う。私はよく知らなかったんだけれど、若月先生が活動を始めたのは昭和25、6年ごろのことで、それが未だに影響力を持っている」


土屋
「東大を追われて、仕方なく地域に入っていって、しかし医療機関がないから、住民の行動に直接働きかけるしかないということで、無床診療所から始めたのが、気づけば大病院になっていたらしい」


伊藤
「東大にいるのは、保身には長けているかもしれないが、僕も含めて、思い切ったことはしない。工学部もド真ん中にいるのは、あまり大したことをしていない。工学部から面白いのがたくさん出たのは、定員が倍になって教員を一気に増やした時に潜り込んだインフレ教師たちが思い切ったことを随分やった」


土屋
「私は慶應だが、先生が立ち上げに携わった湘南藤沢キャンパスも、大学としてはユニークだったと思う」


伊藤
「私は後から行ったクチだが、行ってみたら、教師と学生のアクセスが実に近かった。早稲田からは専門学校と揶揄されたけれど、いい意味でアメリカの良さを身に染みて分かっていたから、ああいうシステムになったんだと思う。僕がいたころは三田から独立して別の大学になろうかという話すらあった」


土屋
「必要な機能からキャンパスが設計されていると思った」


伊藤
「あれは槙文彦が最初からそういう風に設計した。彼は慶應ボーイで、使いやすいように心を配っていた。ただ私が思うにキャンパスの設計よりも教師の選択がよかった。村井さんとか。三田じゃ納まらないような人を大勢連れてきた」


土屋
「あそこで活躍された方々は、石井先生にしても齋藤先生にしても、皆さん東大出身だった」


伊藤
「半端者が集まって、いい意味で本郷や三田に対抗心を持ってやっていた。6年から7年は本当によかった。新しい組織、東大の先端研にも携わったが、ぶっちゃけて言うと7年まではいいのが続く。ところが、それが急速に悪化する。官僚病というかが出てきて。日本では、どこでもその組織寿命7年説が当てはまる」


土屋
「リニュアールする仕組みを内蔵した形でシステム設計しないといけない」


伊藤
「その通り」


土屋
「国松先生も先ほど官僚組織がケシカランという話をされていた。官僚のトップまで行った方がケシカランというのだから、よほどケシカランのだろうと思うのだが」


国松
「実際に何が起きているか。地方に行くと全部縦割りになっていて、大学も病院も全部そう。横の連携が取りづらいのを感じている。それが小さな県ほどヒドイ。インテグレーションが実に下手だ。私はスイスの大使もやって、あそこの国はセクショナリズムは強いのだけれど、しかし横にスーっとつなぐ。外国とでもヘッチャラ。日本では縦の系列ばかりがあってやっている印象がある。そこの部分、それこそ脳外科の先生にお願いして、頭の中を少し変えてもらうぐらいやらないと日本では何もできない。一番抵抗があるのはそこで、それがあるので何をするにも実現が難しい」


土屋
「太平洋ベルト地帯で言うと静岡県が一番かわいそう。浜松医大ができるまで医大がなくて、東京からも名古屋からも京都からも距離が近いからと医師が派遣されていて、でもその色分けがハッキリしていて連携してやろうという話に全くならない。たとえば脳外科をどこかの病院が作ると、他の所でも全部つくる。そんなの県で1ヵ所にまとめた方がいいに決まっているのに、そうならない。それが今でも続いている。頭の中を変えないとダメという話は非常によく分かる」


伊藤
「限界集落の研究をする一方で都心対策もやっている。築地に医療クラスターを持ってくるとして絵を描いてみた時には容積率700%で、高さ制限、航空機の進入路にあたっているのでとか、緑地を取って建蔽率がどうのとか、随分と苦心した。本当は地上200メートルに容積率2000%のものを作れれば、土地価格の問題はかなり解決する。まだ、そこを丸の内で1300%というような感じでやっている。六本木ヒルズの入っている森ビル群、あそこに2000%でつくれば、1フロアにメイヨーくらいのものは入れちゃえる。輪切りというかフロア毎に各大学病院が入っているようなものを作れば、結果的に混ざっちゃうのかなと思う。カギは2000%作れるかどうか。都知事にはそういう決断をお願いしたい。そうすれば日本ならではの医療クラスターができる。

浜松は高さ制限がある。都内の国有地で言うと調布、府中の辺りにはまだ残っているし高さ制限もない。一番よかったのは墨田のテレビ塔のところで、あれは500メートルだから、あそこなら便もいいし色々考えられたと思うだけれど、これはもう仕方ない。テキサスあたりだと土地が安いから13階建てでクラスターが設計されるけど、日本だと2000%で一発ポンとやる必要がある。そうすれば土地が安くつく」


土屋
「上下につなぐというのは効率がいい。横につながれると端から端まで行かなければならないので、タテがありがたい。トロントに行くと議事堂前の一等地に医療施設が集まっていて、しかも冬は寒いのだけれど、全部地下でつながっている」


伊藤
「僕らがチャレンジしているのは地下。地下100メートルくらいまで掘ると土炭層というのに当たって、これは非常に強い地層なので、構造設計的にコンクリートの投入量を抑えられる。だから掘って地下でネットワークしてれば、コストの面でも効率が良くなる」


土屋
「メイヨーでは全部窓がマジックミラーになっていて、日本ではカーテンをつけているけれど、地下ならそもそも窓が要らない。機械によっては地下にある方が望ましいものもある。ところで国松先生はリハビリはどこで?」


国松
「日本医大で。一般病棟に14日目に移って、各科の医師がそれぞれメニューを作ってくれたのを看護師と一緒にやった」


土屋
「退院してからは?」


国松
「やれと言われたのだが、ズボラなたちで仕事が始まっちゃってからはできず、そのせいで少し後遺症が残った。きちんとやれば後遺症は残らないはずだったのだが」


土屋
「それはサボらざるを得なかったんだと思う。シームレスで家に帰ってもリハビリを受けられるようになってないのだから。クラスターのことばかり強調していると思われちゃうかもしれないが、やはり地域のかかりつけ機能を持った診療所と両極とも必要だと思う」


国松
「自分がズボラなので言えた義理じゃないのだけれど、ホームドクターはいなかった。だから全部日本医大に行っていたのだけれど、大学病院だと気軽に行けるわけではないので、どうしても敷居が高くなってしまう」
(了)

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コメント

>要は、都道府県ぐらいの単位で
>急性期病院を全部1ヵ所にまとめてしまって
>全科365日24時間稼働の医療地区を作り
>重病人はヘリなどを使って全部そこへ運ぶ。

この場合、患者の家族はどうするのでしょうか?手術などへの説明・同意や入退院手続き、本人の見舞いや医師との連絡など、家族も頻繁に病院に通う必要がでてきます。車で1時間位の範囲なら良いですが、もし遠くの場合には、仕事を休んでホテルに宿泊して、更に小さな子供や家に寝たきりの老人がいる場合などには、結構、こなさなければならないアレンジが大変になってきたりはしませんでしょうか。

また、ヘリコプターはVFR(有視界飛行方式)で飛ぶので、IFR(計器飛行方式:管制官の指示に従って飛行する方式)で飛んでいるラインジェットが飛べるような気象条件下で必ずしも飛べるとは限りません。これは法律の問題だけではなく、実際にヘリコプターが安全に飛べる条件は思われているよりは案外狭いということに起因していると思います。

国松さんの言っている地方での縦割りの弊害や、慶応大学の湘南藤沢キャンパスの話など、どちらも、いかなる大学も自校の卒業生を採用しないという運用を日本の大学(特に有名どころ)が徹底すればかなり改善すると思います。一度「医育機関名簿」(羊土社)をご覧いただければ私の申し上げている意味や事実もお分かりいただけるかと思います。

>要は、都道府県ぐらいの単位で
急性期病院を全部1ヵ所にまとめてしまって
全科365日24時間稼働の医療地区を作り
重病人はヘリなどを使って全部そこへ運ぶ。
慢性期の患者は地域の診療所で診るという構想で

 臨床の現場での入院患者さんは、軽い肺炎から食べられなくなった高齢者や眩暈がひどくて(ただし、重篤な原因疾患はなし)動けなくなった女性といった、高次施設に入院するのはちょっと、というような患者さんの方がむしろ多数だと思います。
 引用文の最後の2行に示された、重病人と慢性期の患者の間には、多様で数の多い患者さん達がいるわけで、これらの方々を医療クラスターに全て集めるのは、かえって医療供給の低下を引き起こすような気がします。マネジメントの巨人と評された故ピータードラッガー氏も、巨大病院の効率の悪さを指摘していました。
 確かに、墨東病院事件の患者さんのような最重症患者さんには、24時間365日万全の態勢で受け入れ可能な施設が不可欠ですが、医療を全体としてみた場合、医療クラスターという解は、アメリカ型の医療提供体制の破たんを導いてくる可能性が高いと思います。
 ただ、現場の医師としては、過度の安全追及の潮流の中では、医療クラスターというものを、安全な職場を提供するシステムとして肯定的に捉える見方も可能です。

おとなり台湾の国立台湾大学病院は、台北市のど真ん中にある3000床のメガホスピタルです。医者の数も、コーメディカルの数もやたら多い。
運営はトップダウンで行われているようですね。

日本でなら、国立大学病院42校に各自治体内の病院から医者も、ナースも、薬剤師も、他のコーメディカルも全部集中させて、3000床のメガホスピタルを作るようなもの。
それだけ、人とベッドがあれば、コストもかかるから、診療報酬を大幅アップして、公費も思い切って投資していただかないとね。

診療報酬は削るは、国からの公費も削るはじゃ、国立大学病院といえども、立ち行かなくなります。
福祉国家の欧州連合各国が、国立大学に多くの公費をつぎ込んで(医療費のコストをまかなうだけでなく、教育コストも国が責任をもって投資しており国立大学の授業料無料が13か国、他の多くの国がきわめて低額の国立大学授業料。財源は高い付加価値税=消費税と所得税)、かつまともな運営ができるようにリーズナブルな診療報酬に変えてきて、大学病院をメディカルセンター化しているのとは、まったく逆のコースを歩んでいる日本です。

政治がしっかりしなきゃだめです。政権政党と国会議員がね。

>KHPN先生
非常に興味深いご指摘ありがとうございます。
特に後段はメディアの仕事ですね。
>岡山の内科医先生
医療クラスター論は
医療を産業と捉えることで供給を増やすことも可能になるという考え方ででているようです。
ご指摘のように最終形ではないのでしょうが、途中経過として必要かもしれません。
>hot cardiologist 先生
公費を増やしても、それ以上の税収増が見込める
そんな絵を描ければ反対する人はいなくなるでしょうね。
ただ、そのためには逐次投入してもダメで
ドカーンという必要はありそうな気がします。

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