骨抜き条項。

投稿者: | 投稿日時: 2009年03月27日 12:54

ここ数日、その動向に注目が集まっていた愛育病院の総合周産期母子医療センター指定返上打診の問題ですが、一応、厚労省もあわてて人を送り込み、最終的になんとか東京都がとりなしたようですね。

とりあえずは“法令違反にならないためのウラワザ”を伝授したということらしく、お役所的な解決の仕方というものを目の当たりにした私としては、なんだかちょっと狐につままれたようでもあります。

↓が昨日の記事。

愛育病院、一転して総合周産期センター継続を検討へ
朝日新聞 2009年3月26日20時23分配信


●厚生労働省の担当者が25日、労働基準法に関する告示で定められた時間外勤務時間の上限(年360時間)について、「労使協定に特別条項を作れば、基準を超えて勤務させることができる」と説明。

●都の担当者が26日に同院を訪れ、継続を要請。都側は非常勤の医師だけの当直を認める姿勢を示した。

●中林正雄院長:「非常勤医2人の当直日があってもいいのか。特別条項で基準以上の時間外労働をさせても法違反にならないのか。都や厚労省に文書で保証してもらいたい」。「非常勤医だけで当直をすることの是非について、周産期医療の関係機関でつくる協議会に検討を求めた」


うーん。結局、いかに法違反でない状態をカタチ上作り出すか、という話になっていて、労働基準法の理念とかそういうものは、もうどこかへ置き去りにされてきてしまったようです。こんな本末転倒なやり取りに収束してしまって、実際の現場の医師の先生方(とくに愛育病院スタッフ)は、この一部始終をどういう気持ち、どんなスタンスで受け止めているのでしょうか。とても気になります。


それにしても、法律を骨抜きにするような条項や方策って、必ずあるものなんですね。しかもその“抜け道”を、法律に則り、具体化していくはずの行政府が、直々に指導し、それが全国に報道されている・・・思わず苦笑です。

確かに個人的な趣味としては、お役所の対応が柔軟というか、弾力に富んだものであるのは嫌いではないのです。(イタリアみたいになあなあになって、コネがないと微動だにしない、みたいになってしまっては困りますが。)司法には法律を厳格に適用してもらって、一方、行政にはある程度柔軟に対応してもらうのが理想、と思っているので。でも、柔軟さを単なるその場しのぎの辻褄合わせのために使ってるのが今の行政、ということですよね?この件に限らず。


いずれにしても、今回の対応は、実際問題、致し方なかったのかもしれません。だからこそ、問われるのはその後です。このままうやむやにしてしまうのでしょうか。そして本当にうやむやになってしまうのでしょうか。だとしたら、日本の医師の先生方はものすごい我慢強い上に、とてもお人好しです。そして私たち国民も、たぶん厚労省と同じくらい暢気なんですね。

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コメント

> それにしても、法律を骨抜きにするような条項や方策って、必ずあるものなんですね。

 いや、労務の専門家の中にはこれではダメだと言っている方もいらっしゃいます。まずは本当に東京都と厚労省(労働基準局)が文書を作成して病院に交付するのかどうか、また最終的には行政が作成した文書が適法がどうかを裁判所が判断するまでわからないとしか言いようがありません。

 少なくとも行政が文書を交付するまで、看板は下ろした方が良さそうに思います。

 刑事罰を喰うのは病院の責任者であって、行政ではないからです。

過労死問題を扱っている松丸弁護士は、36協定の特別条項として、月180時間の時間外労働を規定している病院があると報告しています
いわゆる過労死ラインが80時間であって、それの2倍を超える協定をむすんでいるところもあるのです
東京都はこれと同じような協定を狙っているのかもしれません

愛育病院の過半数代表がこんな長時間の協定を結ぶのでしょうか
少なくとも自分はそんな協定を結んでいるところでは働く気はありません

>中林正雄院長談:都や厚労省に文書で保証してもらいたい

この院長談話ですが、東京都には労基法について言及する権限がありません。東京都福祉保健局が労基法に関して文書で保証することはあり得ない。

では厚労省ですが、厚生労働省医政局に「文書で保証してもらいたい」と申し入れても、医政局が労基法解釈について何らかの文書回答をすることは、これもあり得ない。労基法を所管しているのは厚生労働省労働基準局ですから、医政局がテリトリーを越えて労基法について回答文書を出すことは霞ヶ関のルール違反です。もし仮に何か医政局が文書を出したとしても、労基法の管轄権の無い医政局が出す労基法解釈の文書に何の価値もありません。

中林院長が厚労省の医政局に申し入れたのか、それとも厚労省の労基局に申し入れたのか、少なくともそこがハッキリするまでは確たるコメントをすべきでないと思います。

特別条項付き36協定ですが、実際に運用するにはかなり制限があるようです。下記を見る限り、180時間の時間外労働など、論外ですね。

http://web.thn.jp/roukann/tokubetujoukou.html

>中村利仁先生

>刑事罰を喰うのは病院の責任者であって、行政ではないからです。

確かにそうですね。そして結局、割を喰うのは患者たる国民であって、ここでも行政ではないのですね。

>秋は夕暮れさん

>いわゆる過労死ラインが80時間であって、それの2倍を超える協定をむすんでいるところもあるのです
東京都はこれと同じような協定を狙っているのかもしれません 
愛育病院の過半数代表がこんな長時間の協定を結ぶのでしょうか
少なくとも自分はそんな協定を結んでいるところでは働く気はありません

エントリーにも書きましたが、本当に現場の先生方の声が全然聞こえてきません(当然、この状況で声を上げるとは思えませんが)。まして愛育病院の先生方がそんな条件を飲むとは想像もつきません。そんな対応しか出てこないのでは、ますますがっかりされることでしょうね。

>法務業の末席さん

詳しい解説をありがとうございました。なるほど、「霞ヶ関のルール違反」なんですね。縦割りで細分化された上に、霞ヶ関のルールで縛られている・・・一般国民はもちろん、当事者である医療者の方々にも、きちんと把握できている方がどれだけいるのでしょうか。そうやって実質的に排他的な運営をしている以上、本当に国民の期待を裏切らない行政であってほしいなあと願うばかりです。

>さん、

情報提供をありがとうございます。
ちょっとのぞいてみました。文言がくどくどしていて読みづらいですが、要するに協定が認められるには
労基署の窓口で「特別の事情」について厳しくチェックされるということですね。

--以下サイト引用

「特別の事情」は、「臨時的なもの」に限られ、一時的又は突発的な事由であることが必要です。

(臨時的と認められるもの)
1 予算、決算業務
2 ボーナス商戦に伴う業務の繁忙
3 納期のひっ迫
4 大規模なクレームへの対応
5 機械のトラブルへの対応

(臨時的と認められないもの)
1(特に事由を限定せず)業務の都合上必要なとき
2(特に事由を限定せず)業務上やむを得ないとき
3(特に事由を限定せず)業務繁忙なとき
4 使用者が必要と認めるとき
5 年間を通じて適用されることが明らかな事由

--引用終わり

こうしてみると、確かになかなか難しそうです。それでも結んでいるところがあるというのは、どういう「特別の事情」なのでしょうね。とても不思議です。

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