雨と温暖化と感染症。

投稿者: | 投稿日時: 2009年06月22日 06:55

昨日は東京はすごい雨でした。一昨日は晴天だったので、朝起きて、突然の雨に驚いてしまいました(出かける用事があったので、自分の雨女疑惑がますます強まりました・・・)。


そういえば近年、「豪雨」と表現される雨の降り方が増えていますよね。その理由として地球温暖化が言われています。

環境省は先月、「温暖化対策なければ21世紀末の日本は豪雨増加」との予測を出し、温暖化の影響と経済損失について発表しています。また、これは世界的な傾向らしく(つい先日、アメリカでもそんな報告書が出されたと報道がありました)。


もちろん豪雨やそれによる洪水等も非常に困るのですが、私がそれと同等かあるいはそれ以上に怖いなと思う温暖化の影響は、感染症についてです。

温暖化のしくみと、それによる感染症の増加の懸念について詳しく書かれたパンフレットが、環境省から出ています。

地球温暖化と感染症 いま、何がわかっているのか?
(地球温暖化の感染症に係る影響に関する懇談会)


要するに、温暖化(気温の上昇)や、それに伴う降水量の変化、日射量の変化等により、感染症を媒介する生物の生態系が変化し、生息地域が広がることが大きな原因の一つということです。つまり、日本も気温等が上昇することで、東南アジアなど熱帯地方のものと考えられてきた感染症が北上してくることになるのです。


具体的には、世界的に、日本脳炎、マラリア、デング熱、ウエストナイル熱、リフトバレー熱ダニ媒介性脳炎、ハンタウイルス肺症候群など、蚊やねずみ、ダニなど様々な生物が媒介する感染症や、海水中のプランクトンと共生して生存しているコレラなどの下痢症の広がりが懸念されています。


日本では、昔から日本脳炎は恐れられてきました。そして意外ですが、マラリアも、戦前から日本にあった感染症だそうです。両者は共に蚊が媒介します。いまでこそ忘れられつつある病気ですが、完全になくなったわけではないのです。それがこの温暖化によって、勢いを復活させる可能性も高まっているといいます。コレラも感染力が強く、死亡率はさほど強くないようですが、海に囲まれて生活している私たちにはまったくもって他人事ではありません(海水温が上昇すると、プランクトンが増え、それにともなってコレラ菌も増えるとのこと)。


そして私が知人の経験を聞いてすごく恐ろしいと思ったのがデング熱です。これも蚊が媒介し、東南アジアで最近も流行が伝えられましたが、実はこれも戦中の日本でも大流行したことがあるとのこと。温暖化でこの病気を媒介する蚊の生息地域も東北地方を北上中だといいます。私の知人は国連の仕事で東南アジアをもう10年近く渡り歩いていますが、その中でデング熱にかかり、「今までで最もつらい経験だった。本当に死ぬかと思った」と言っているのです。高熱が出て体中に激痛が走り、寝ていることもやっとのこと。光の刺激により、目にも激痛が生じるために、一日中真っ暗に締め切った部屋の中でひとり、何日も悶々と耐え続けるしかなかったそうです。聞いているだけでこちらも怖くなるような病気ですが、このデング熱も特効薬やワクチンがないというのです。とにかく蚊にさされないようにするしかないとのこと。

今年は自分も既に何箇所か蚊にやられました。虫除けを塗っても手足や顔まで蚊に刺されまくりの我が子を見ると、ちょっと気が遠くなります。(ところで「パクチーを食べると、その成分が汗とともに発散されて蚊が嫌がって寄ってこない」と聞いたことがありますが、本当でしょうか?ただし、いずれにしてもパクチーは苦手なんですが・・・。)


さらに、今回の新型インフルエンザ騒動でも分かるように、交通手段の発達により、感染症は自然の広がりを超えて、世界中で蔓延するようになっています。これまで人への感染が報告されていなかったウイルス等であっても、媒介者と人との接触の機会が多ければ変異を起こして人への感染をおこすようになることも十分考えられます。ですから雨量の増加によってアメリカでの流行が懸念されるハンタウイルス肺症候群(ねずみが媒介)や、アフリカに見られるリフトバレー熱(蚊⇒牛や羊⇒人と感染)、世界に広くみられるウエストナイル熱(蚊⇒鳥⇒人)等も、他人事ではありません。


日本が感染症に対していかに無防備かについては、先日も輸血血液の不安という観点から少し触れました(「新型インフルの陰で」)。このままでは温暖化により、そうした2次的感染の危険性も、ますます高まっていくことになります。新型インフルエンザ騒動を通じて、水際作戦の問題点(少なくともインフルエンザについては非効率的)や医療機関の患者受け入れ態勢の不備も、明らかになりました。


感染症の種類によって、とるべき対策は違ってきます。必要以上に怖がることはないのは分かっていますが、だからといって今のまま、無防備なままでは安心できません。やはりきちんとした対策を国を挙げておこない、“感染症後進国”からの脱却を一刻も早く目指すべきではないのでしょうか。


以上、温暖化の問題は、ただ単に「熱くて困る」(熱中症は確かに困りますが)というだけでないのはもちろん、よくいわれる豪雨や洪水、干ばつなどの自然災害の増加に加え、二次的に私たちの健康を脅かすことになるのですね。“地球”温暖化、などというと規模が大きすぎて、私たち一人ひとりの意識を高め、維持することはなかなか難しいものです。でも、感染症の脅威とつなげて考えてみると、良くも悪くも、自分たち自身のことなんだな、と思わざるを得ない気がしてくるから不思議です。

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コメント

堀米さま

力のこもった記事をありがとうございます。
それだけに言葉の使い方や、記事の狙いが気になってしまいます。

ヒトヒト感染
少し使い方に違和感を感じます。通常昆虫などを含めて媒介動物が必要な感染はヒトヒト感染に含めません。従って血液を介するような疾病がヒトヒト感染に変異することはありません。

熱帯地方の感染症
熱帯地方の感染症が日本で広まる可能性は温暖化によって確かに高くなると思われます。しかしだからと言ってどのような対策をご希望なのでしょうか。検疫を強化して海外からの帰国者入国者をすべて日本の沖合で拘留しますか?ワクチンを備蓄するのですか?米軍がやったようにDDTをそこいら中に撒きまわるのですか?どれも非常にナンセンスな話だということはお分かりになりますよね。
できることは感染症の知識(診断、治療、予防)を多くの医師と看護師に広めておくことだけでしょう。

堀米様、ふじたん様

いや、まさに、一般人を含む国民全員が、感染症に対する知識をつけることが重要ですね。日本では「感染症は過去の病気」と考えられており、医師もマラリアについての知識はほとんどない人が多いでしょう。

知識の啓蒙だけでなく

輸血の病原体不活化技術導入
ワクチン開発の推進
ワクチン副作用は専門機関が判断し、民事訴訟を減らす
適正な薬価つけ(日本は薬価が安すぎて Japan passing が起きている)

などの施策をとるべきではないでしょうか?

ちなみにデング熱ワクチンは開発中で、第Ⅱ相臨床試験まで終わっているはずです。

ご指摘等ありがとうございます。

ふじたんさんにご指摘いただいた前者の点、上記のとおり訂正いたしました。後者ですが、医療という点では異型技官さんのご指摘くださったようなことが必要と私も思います(そのうち輸血血液の不活化は文中でも言及しました。ほかにも別のエントリーでちょこちょこ過去にお話させていただいているものもあります)。

さらに私が伝えたかったことは、「地球温暖化防止のための対策は、私たちや将来の世代の健康のためでもある。その一つとして、感染症についてもこんなことが関係してくるんですよ」ということでした。温暖化についての試算を環境省等が出していますが、健康への影響に関しては熱中症が前面に出されていますし、何より経済的な損失が強調されています。健康被害ももちろん経済損失にはなりえますが、やはりお金にはかえられないものという感覚は皆さんお持ちのことと思います。むしろ、国家規模での経済損失を示されるより、もっと自分の身に置き換えて考えやすいのではないでしょうか。つまり、感染症の広がり・増加の可能性にまできちんと言及することで、もっと地球温暖化への問題意識が喚起されるのではと思ったのです。

ちなみに先日、麻生総理は、CO2削減目標達成のため、省エネ家電への買い替えなどで国民に7万円以上の経済負担や失業率の上昇をお願いすることになる旨、記者会見で述べていました。国民としては、今回取り上げた感染症ほか将来への影響の大きさをきちんと理解していれば、今少しの我慢をすることもやぶさかではないでしょう。だとしても、「~であるべき」といった目標や理想だけ掲げてあとは現場任せ、というやりかたは、いかにもお役所的です(今回の新型インフル騒動やNICUの増設の話を彷彿とさせます)。それでは国民の支持は得られないだろうなあ、と会見を見て思いました。インセンティブが働くような具体策をもっと示すべきで、例えばETC設置車に高速料金を優遇したように、ソーラー発電や省エネ家電の使用者に、通常の省エネ効果でトクするよりもさらに上のせしたメリットを提案するなど(前者からは今より高く電気を買うなど)、そういう点でリーダーシップを発揮してもらえればと思うのです。なにより、霞ヶ関が夜どおし明るいのは、かなり照明と冷暖房、エネルギーを消費していると思うと、あまり説得力がないなあ、と思うのです(代わりに、せめて始発で来て終電で帰れるくらいの業務の組み立てにならないのか、なんて素人考えで思ってしまいます・・・)。

話が医療からそれました。でも医療問題もそうですが、それ以上に環境問題は国民の関心から外れていることが気になると同時に、行政の姿勢も中途半端で、施策も浅いなあと思ってしまったのです・・・。

堀米様

重要なことは、本質は何か、掛け声に騙されていないか、本当に効果を与えることは何か、です。

一人一人の努力は大切ですが、霞が関の影響はどれぐらいですか?
エコ対策と自家用車のETC割引は整合性がとれていますか?
エコカーを使うべき人は誰?
輸血感染症を減らす最も良い方法は何?
新薬とジェネリック、どちらが多くの国民を救う?
国民の健康を守りつつ医療費の爆発的増加を抑える一番よい方法は何?

どの問いに対しても、皆さん答えはわかっていますよね。

ふじたんさま

指摘の点、肝に銘じながら今後もニュース等に触れ、考えて生きたいと思います。

ひとつだけ、「本当に効果が与えるのは何か」については、私も以前から地球温暖化対策について大いに疑問をもっていたことがたくさんあります。「エコロジー」「地球にやさしい」等の言葉の多くが、モノを売るための宣伝に使われてしまっていて、実際にはまったく地球に優しくない、といったことが横行しています。例えば最終製品は環境に優しかったにしても、その生産工程で出る二酸化炭素は、売れれば売れるほど、作られるほどに増えていきます。製品が長期にわたって使われたとしても、生産によって出る二酸化炭素、消費される資源・エネルギーといったものは、今あるモノを使い続けるより環境に優しくない結果をもたらすかもしれません。

医療についても、そうした本質に目を向ける努力をしなければいけないですね。

ちなみに、ETCを引き合いに出してしまいましたが、ETCの優遇策については私は基本的に疑問です。そもそも自家用車の使用を減らすことが温暖化ガスの排出削減には重要ですので・・・。ETCを推奨するくらいなら、ほかにやることがあるだろう、と思うのでした。

堀米様

そうです。JRを割り引くなら、話はまだわかるのですが。
あるいはもっとちゃんとやるなら、Discover 地元 キャンペーンでしょうが。

とにかく最近の某自動車メーカーのやり口とそれを応援している政府の態度には目に余るものがあります。私は国産主義ですが、「もう乗りたくない」という感じです。

医療も最近おかしなニュースが多いと思います。
看護大学で看護師と保健師を分離するのは、ほとんど史上最悪の改悪でしょう。

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