無認可保育園と乳幼児突然死症候群について改めて。

投稿者: | 投稿日時: 2009年12月08日 16:45

こんな報道がありました。

●保育所での死亡、6年間で52人 昼寝中の事例目立つ
(2009年12月8日 朝日新聞)

自分も息子を保育園に預けており、しかも来年には、うまくいけば(何しろ激戦なので)生まれてくる下の子供もお世話になろうかという身です。そう思ってみても、また乳幼児突然死症候群(SIDS)そのものについても、この記事はいくつか見過ごせない要素を含んでいました。

まず、気になったのはやはり以下の箇所です。

【死亡した52人のうち、認可保育所が19人で、無認可保育所が33人だった。無認可園の入所児童数は認可園の約9分の1の約23万人で、認可園と比べて無認可園の死亡事故の発生率が高かった。 厚労省保育課は「無認可園の事例には保育体制の不備や観察不足があったと考えられるものがある」としている。 】


全国で認可園に通園している乳幼児は約200万人強。一方、無認可園は上記記事のとおり23万人です。どちらの園にしても、全児童数からみた死亡事故発生率としてはそう大きい数字とはいえないのかもしれません。が、単純計算でいったら無認可園では15倍近くも事故が発生しやすいことになります。「保育体制の不備や観察不足」という記述が気になって調べてみると、

●正式名称は「認可外保育施設」。
●設置には「児童福祉法第59条の2」による届出が必要。
●平成13年10月より「認可外保育施設指導監督基準」が適用されるようになった。
⇒定員6名以上の施設につき、認可外保育施設指導監督の指針に基づく届出が義務化。立ち入り検査を含む行政機関の検査・指導強化が図られた。
●ただし、5名以下の施設では設備、保育内容の公的基準はない。

というのが公的に定められたところ。これだけだと一見、 児童福祉法に基いて定められた「児童福祉施設最低基準」を満たしている認可園と比べても、設備、職員、保育内容にも不備なく、行政による監督が行き届きそうにも見えます。


しかし、厚生労働省の今年3月の報告では、平成20年度の立ち入り検査の実施割合は7~8割にとどまっているようです。また、平成19年の調査では、実際に指導監督基準を満たしていない施設も、過半数にも上ったということ。しかも、その最終指導状況は、4分の1が口頭指導、残り4分の3が文書指導ということです。これではどれだけ迅速かつ的確な改善につながるのか、疑問を抱かずにいられません。


待機児童数は5年ぶりに増加して2万人近く。行政による保育園設置が多くの自治体で進められていますが、追いついていないのが現状です。となると、実質的に認可外保育園はまだまだ大きな役割を担い続けることになりそうです。実際、さまざまな法令や通知等で規定された事業所内保育所や病院内保育所なども増えてきている様子。それらのなかにはなかなか評判のよい施設も多い一方で、設備や人員が不十分な市中の無認可園の状況改善が強く望まれます。


ちなみにこのところ文科省と厚労省が連携して、「認定こども園」なる施設を増やそうと力を入れているようです。我が家のすぐ近くにも再来年開設が決定し、建物の建設問題とあいまってちょっとした物議をかもしています。そもそもこの「認定こども園」は保育園と幼稚園の機能を併せ持った施設なのですが、保育園としての側面としては認可保育所と同じ性質にもかかわらず、懸念材料が2つあります。ひとつは、施設ごとに保育料を設定することになっている点。そうなると保育料については不安が残ります。もうひとつは、入所選考も施設ごとにおこなわれること。優先度の高いこどもを入所させるような仕組みがきちんと取り入れられるのか、それにしても十分に機能するのか、難しそうに思います。そのあたりを行政指導で解決してもらえないなら、むしろ通常の保育園を増やしてほしいですし、さらに病児保育の整備に予算を投入してもらいたいと思ってしまうのです。


さて、今回の報道でもうひとつ、あわせて気にかかった内容があります。SIDSについてです。

【年齢別では、0歳児の死亡数が23人と最も多く、次いで1歳児13人だった。】
【乳幼児突然死症候群(SIDS)とみられる事例を含め、昼寝中の死亡が目立つという。 】


たしかにSIDSか否かの診断は、もともと難しいものがあるものだろうとは思います。厚労省研究班による診断の手引き(平成19年)にもあるように、最終的にSIDSと診断するには解剖が必須となっていますが、それでも、日本SIDS学会によれば、そもそもSIDSとは「それまでの健康状態および既往歴から,その死が予測できず,しかも死亡状況調査および解剖検によってもその原因が同定されない,原則として1歳未満の児に死をもたらした症候群」とあります。さらに詳しく同学会の診断の手引きをを読んでみても、解明されていないことが非常に多いようです。つまり、解剖では原因不明な死こそがSIDSであって、実際のところよくわからないというほかないのです。


そうなると気になるのは、早く異変に気づけば助かるのか、ということ。SIDSについてしばしば耳にしますが、「きづいたときにはもう・・・」という話が圧倒的で、そういう性質のものではないように思ってきましたが、実際のところどうなのでしょうか。就寝中に死亡するために、どうしてもみな、発見が遅れるということでしょうか。


というのも、今回の記事では、認可園と無認可園で、乳児死亡の数にどれだけ差があるのかは明確にはなっていませんが、もし全年齢を通じての死亡数と同じように明らかな差があれば、それはどう説明されるのか。早期の異常発見がSIDSの回避に大きく貢献するのであれば、保育体制の不備や観察不足が原因ということになるのでしょう。ただ、そういうものでなければ、おおいに不思議ですし、ひっかかるところではあります・・・。


いずれにしても、何の前触れもなく子供を失ってしまうSIDSは、その精神的なダメージも計り知れません。自宅で自分の管理下でおき、なんの過失もなかったとしても、自分を責めたり、原因に悩んでしまったり、立ち直るのは容易ではないことでしょう。まして、保育園に預けている間のこととなれば、ついついその管理体制や過失を疑いたくなるに違いありません。もしも不運にSIDSで子供を失った場合にも、状況に疑問があれば、さらに保育園との間にトラブルが生じ、何年も争うようなことにもなりかねません。そうなれば、さらにつらい思いをしなければならなくなります。そうならないためにも、信頼できる保育体制を整えた、信頼できる保育園にわが子を預けたいものです。そういう体制が1日も早く行き渡るといいな、と思わずにいられません。

<<前の記事:漢方署名 期間を延長    NC看護師 モチベーションも処遇も低い コメント欄:次の記事>>

コメント

病理医のslummyです。

>SIDSか否かの診断は、もともと難しい

いえいえ、難しくありません。
解剖しても原因が不明な0歳児の死「だけ」がSIDSです。
全身の解剖なしでSIDSとは診断できません。

0歳児における不慮の死亡例は全て、解剖すべきと考えています。(一病理医としては、既に抱えきれない仕事を抱えてて、これ以上仕事が増えるのは困るので、あんまりこういうことは言いたくないんですけど…そういう個人的事情は抜きにして。)
解剖されない症例を残すとそれだけSIDSの病態解明、対策は遅れていくのだと考えています。今の医学ではSIDSであれば防ぎようがなかった死、ということになりますが、本当にSIDSだったのか、というのを解剖して明らかにしないと、防げた死なのか防げなかった死なのかどうかもわかりません。外因死の隠れ蓑としてSIDSのレッテルが利用されることもありえますし、それは恐ろしいことです。

> …そういう個人的事情は抜きにして。

 この際、こういう時は必ず「病理医を全国○○人増やせばできる話ですけれども…」と枕を入れていただければと思います。

 現場が無理を被るのは既に限界なのですから。

>病理医を全国○○人増やせば

中村先生、ありがとうございます。現場の人数、費用負担などの現実的な話抜きで理想論、あるべき論を先行させないのは大事なことです。

SIDSの診断を難しくしているのは社会的要因です。
日本の死因究明制度は非常に貧しく、そのため医学的には決して難しくないはずのSIDSの診断確定が難しくなってしまっています。

ついでといっては何ですが、話が複雑になるので先のコメントでは触れなかったAiについて、書かせてください。
0歳児全例解剖、というのは現状の病理医数、法医解剖担当者数からいくと非現実的な話(非現実的とする数値的根拠はありません、あくまでも印象)なので、0歳児不慮の死亡は全例Aiとする方がまだ現実的に思えます。たとえばAiで頭蓋内出血の所見が発見できればSIDSではないことが明らかになり、解剖は不要です(外因死、内因死の鑑別は必要となりますが)。SIDSの診断確定のためにAiで所見がない症例のみを解剖対象とするのは合理的ですし、解剖対象症例数が確実に減ります。減った後なら現状の解剖医数で対応できるのかもしれません。その代わりにAiを読影する放射線診断医のマンパワーが必要となります。解剖費用は現在でも不足していますが、Aiの実施にも費用は必要(解剖よりは安い、と海堂先生が試算していたように記憶しています)ですし、放射線科医の診断にも費用が発生します。

0歳児の不慮の死亡例はすべて税金を投入して死因を確定する価値があると思うのですけれど、そういう使い道のお金はこの国には残念ながら、ないようです。

 国家公安委員長の音頭で、解剖率の向上が謳われています。基準の作成がなされることになります。

 病理と放射線のみなさんで、0歳児は全例Aiとする提案をすると、今なら受け入れられる可能性はあるだろうと思います。

 ただし、予算は警察の予算です。

 予算だけは別途、診療報酬の中で処理するとしたら、警察の法改正に合わせて、厚労省所管の法令を発出する必要があります。

堀米様

ご指摘の通り、死を予見できないからSIDSなのであって、保育施設の設備とか配置されている人員とかは関係ありません。それなのに無認可に多いのはどうして?というところを取材していただけませんか。

無認可と認可とはどこが違うのか
親はなぜ無認可を選ぶのか
施設はなぜ無認可での営業を選ぶのか

これらの疑問に答えてくだされば、SIDSがなぜ無認可に多いか推測できるようになると思います。ちなみに「無認可」というとまるでモグリのように悪い印象を与えると思いますが、公立の「無認可」もあります。「無認可」は社会が求める形であり、むしろ「無認可」が少ないことが問題であることを取材で明らかにしていただければうれしいのです。この記事のニュースソースとなった人たちの無知あるいは無知ゆえの悪意に嫌悪感を覚えますし、それを表面的にしか理解しない人たちがさらに悪意を増殖させないか心配です。

堀米様のご投稿を拝見いたし初めて昨年の朝日新聞記事を知りました。この統計は「保育施設における死亡事例について」(厚生労働省)で公開されておりました(下記HP)。
ttp://www-bm.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000002yx5.html

これまで日本スポーツ振興センターが認可保育園の10年間の突然死の統計をまとめておられますが、認可外保育施設が含まれた統計は、
初めて拝見いたしました。私自身、SIDS予防活動をさせて頂いておりますので、堀米様のご投稿とても参考になりました。有り難うございます。

コメントを投稿


上の画像に表示されているセキュリティコード(6桁の半角数字)を入力してください。