ポリオワクチン 世界の問題意識は別のところに・・・

投稿者: 堀米香奈子 | 投稿日時: 2012年02月22日 15:51


2月18・19日、国債文化会館で第5回インターナショナルワクチンワークショップが開催されました。2日目午前の「ポリオワクチン」セッションとお昼のインタビューに参加し、“インターナショナル”な土俵ではポリオワクチンといっても日本とは違うところに関心が向けられていることを実感しました。


日本からは国立感染研の清水博之氏と川崎医科大学小児科教授の中野貴司氏が、日本でのポリオの歴史、不活化ワクチン(IPV)開発の経緯や、このところの接種控え、またIPVへの切り替え方の選択肢(手順や時期)について海外へ向けて発信しました。お名前に見覚えのある方もいらっしゃるでしょうか、清水氏も中野氏も「不活化ポリオワクチン検討会」の構成員です。ですから基本的にお二方のお話については、これまで傍聴してきた検討会でも触れられていたことが大半でした。ただ、私にとっては非常に身近な打ち控えの問題も、傍聴席の大方を占める海外からの関係者の間に身をおいて聞いていると、なんだか印象が違って聞こえるから不思議です。


私たち母親や国内での取り上げ方では、経口生ワクチン(OPV)由来の麻痺への懸念やIPVの導入時期、「OPVから感染するかもしれないけれど何も打たなくても感染する危険が高まる、どうすべきか」といったように、無意識のうちにも当事者として、自分たちがどう行動すべきか、という視点から問題を捉えています。一方、このワークショップ会場では、まず頭に世界地図が浮かぶのです。その中の日本という国で打ち控えが起きている。これでいいのか、という問題は、要は「そこで流行が起きて広がらないか、飛び火しないか」という懸念から生じているように思えます。一方で、IPVへの切り替えは決定事項である以上、OPVによる麻痺患者が出ることについては一過性もしくは先が見えている問題とも言え、国内ほど大きな関心事でないように感じました。会場からも「(全国的な)下水道の調査は行っているのか」「打ち控えが起きるということは、流行への懸念はないのか」といった質問が聞かれ、【OPVによる麻痺<アウトブレイクの懸念】というのが共通の問題意識である様子。さらに言えば、世界ではポリオフリーの国や地域が増加し、根絶にかなり近づいた状態であるのが現状であって、それに向けた動きや障壁に関心が移っている、と認識したのでした。


確かに、流行地以外では、途上国でさえすでにIPVが一般化してきているわけですから、今更OPVによる麻痺はインターナショナルなレベルでは問題にする必要がありません。日本だけが、前時代的な問題で必要悪とはいえない被害者を出し続けている。先は見えているとは言っても、まだそこから抜け出せていない“当事者”の私たちとしては、やはり関心を向けないわけにはいかないし、先進国と言われながら国民をそんな状態に置き去りにして放っておいた日本ってなんなんだろう、とまたまた結局はそう思ってしまうのでした。


さて、文字通り“インターナショナル”な今回のワークショップで、今までさらりと受け流していた点をきちんと把握することもできました。セービン株IPVとソーク株IPV、何が違って、特にセービン株IPVはなぜ後から開発されることになったのか。ご存知でしょうか?


現在、海外から個人輸入で接種されているIPVは、ソーク株とよばれる野生株を不活化したものから作られ、野生(wild)株のwをとってwIPVとも呼ばれます。一方、今日本で開発中のIPVは、セービン株という別のウイルス株を不活化したもの(ちなみに「ウイルス株」というのは、流行の型を調べたりワクチンを作る目的で、患者などからウイルスを採り出して人工的に培養したもの。ポリオでいう「ソーク」や「セービン」は、研究者の名前から取った名称)で、セービンの頭文字Sを取ってsIPVとも呼ばれます。要するに、今世界中ではwIPVが使用されているのに、わざわざsIPVも開発されて多くは治験段階にある。その開発を行っている筆頭が日本(4社、2002年~DPT-IPV)ということ。すでに承認申請も始まっています。


ただ、私もよく知らなかったのですが、わざわざsIPVを作っているのは日本だけではないのです。清水氏もすこし触れましたが、オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)から来日して壇上に立ったヴィルフリード・バッカー氏によると、同研究所でもsIPVの製造工程を開発し、現在はポーランドで第Ⅰ層試験中とのこと。この研究所は、もともと1960年代からwIPV生産を行ってきた歴史を持ち、開発したsIPV製造工程もwIPVの生産技術をベースにしているとのこと。


というわけで、sIPV開発は世界の潮流であって、その中で日本はあわよくばsIPV生産で世界をリードせんという意味でも治験を急いできた、ということになります。しかし、一度日本は2005年にsIPV生産を断念(日本ポリオ研究所が承認申請するところまで行ったのですが、同研究所の規模からしても治験の基準を満たすのは難しかったのではなどと言われています・・・)しているはず。なぜまたここへ来て、と思いますよね。


その大きな理由が、「途上国への技術移転」だと言います。つまり、ポリオフリーの国が増えて世界的にOPVでなくIPVが求められているが、現在行われているwIPV生産にはOPV生産よりもコストがかかる上、何より野生株を培養したソーク株は強毒であることがネックとなっている。というのは、途上国での生産には設備や管理体制に不安があり、万一ウイルスが漏れ出した場合に大流行につながってしまう危険がある。そこで、もともと弱毒化されているセービン株からIPVを生産できれば、途上国に技術移転しても不安が軽減される、という考えなのです。


こうした考えに基づいて、RIVMは各国企業への技術移転を前提にsIPVの製造工程の開発を決め、2008年にはWHOも世界保健総会でこの「手ごろな価格のsIPVの十分量の供給」に合意、ビル・ゲーツ財団からも助成が出されることになりました。さらに2009年にはWHOによるポリオ撲滅プログラムの一環としてこの生産を支援していくことが示されました。現在ではRIVMは生産技術や品質管理の技術を、ヨーロッパのほかインドや中国、韓国にも移転すべく現地の計4社と提携を結び、着々と計画が進められているようです。


こうしてみると、確かに治験や申請に関しては日本のsIPVのほうが一歩リードしているように見えますが、国内4社はそれぞれに開発を行っていて足並みが揃っているわけでもなさそうですし、どうもRIVMのほうが規模といい立ち位置といい、一枚上手に見えてなりません。杞憂であればもちろんいいのですが・・・。


ただ、そもそもwIPVがすでに世界的に普及している中で、あえてsIPVを開発・生産し始めることに対しては、専門家の中でも意見が分かれているようです。弱毒株とはいえ、途上国での生産管理が広がることに不安を感じる、という率直な意見も会場から出されました。ポリオセッションの後にランチョンインタビューの機会を得たのですが、ペンシルバニア大学の名誉教授でポリオワクチンの開発・導入に尽力してきたスタンレー・プロトキン氏もウイルス漏出への懸念を隠さず、「欧米のワクチン産業がwIPVからsIPVにわざわざ切り替える理由はない」との意見を表明しました。


確かにそう言われれば気にはなります。実際、これまでに漏出なんて事があったのかと少し調べてみると、ちょうど今回の演者でもある清水氏が翻訳した「野生株ポリオウイルスの実験室封じ込めに関するWHO世界的行動計画 第2版」に、気になる事例が挙げられていました。ちょっと長くなりますが、その前後もあわせて引用します。


【ワクチンが導入されて以降,実験室感染の報告が少ないという事実は,ワクチンの有効性および実験施設,技術および手技が大幅に改善されたことを示している.しかし,最近の事例は実験室からのポリオウイルス伝播の可能性が依然として残されていることを示している.1992 年,IPV 製造に用いられた1 型野生株ワクチンが,製造施設の従業員から,彼の幼い息子へ伝播したことが確認された.他の事例では,ある小児が,研究やIPV 製造に一般的に用いられている3 型標準株に感染していたことが報告されている.この事例の感染源は不明である.
IPV は,疾患を予防することに関しては,きわめて有効であるが,実験室作業者の潜伏感染を防ぐことはできないと考えられている.OPV は効果的なバリアーであるが,それでも潜伏感染が起きる可能性がある.実験室作業者におけるポリオウイルスの不顕性感染の頻度は明らかではない.
腸管感染そして糞便へのウイルス排泄を完全に抑えるワクチンが存在しない以上,実験室作業者のポリオ感染および伝播の予防のため,適切なバイオセーフティ対策が重要となる.完璧な封じ込めを想定することはできない.故意であるか否かに関わらず対策が遵守されない懸念は残る.しかし,効果的な封じ込め,すなわち,一般社会への不用意なポリオウイルス再侵入のリスクを減らすことは現実的な目標である】


これを読む前は、ワクチン工場からのウイルス流出でアウトブレイクが起きる、なんていう懸念はちょっと大げさでは?と思っていた部分も正直ありました。あるいは、wIPVを製造・供給している欧州メーカー=サノフィ・パスツール社の抵抗でしょ?といった勘ぐりがまだ拭い去ることができずにいるのも本当のところです(ちなみに先のプロトキン氏はサノフィ・パスツール社のExecutive advisor=顧問も兼任しているそうですし)。それでも、途上国でのワクチン生産の広がりにリスクがあるのも事実なのですね。


工場からの漏出ということ以外にも、既存のwIPVを使って行けばよいのでは、と思える材料は確かにあります。清水氏のスライドでも、セービン株IPVについては、臨床経験が少ないことも指摘されていました。一般にワクチンによる重大な副作用は数万分の一以下の可能性とされますから、治験程度では安全性の検証としては本来は十分でない気がします。だったら、世界で広く使われているサノフィ・パスツール社のwIPVのほうが、安全性についても実証済みとも言えるはずです。


そもそも来年、国産DPT-IPVの導入から“近い時期を目指し”ている単抗原IPVは、サノフィ・パスツール社製になる予定だそうです(国産単抗原IPVも出てくる??)。要するに、今、個人輸入している医療機関で自費で接種をしている未承認ワクチンが、1年ちょっと待てば定期接種として、費用負担なしに接種できるようになるだろう、ということ。確かに国内の治験等で有効性や安全性を改めて確かめることは大切なんですが・・・。「どうせ同じものなら未承認段階でも、費用を払ってでも、そのワクチンを信用して打つ」という選択ならいいのですが、「ちょっと待てばただで打てるようになるなら、OPVも未承認のIPVも打たずに待とう」という選択(=打ち控え)をしてしまうお母さんが現実には多いから問題になっているのですよね。だったらwIPVをもっと早く、DPT-IPVに先んじても承認する手立てはないのものか、そこに多少のリスクが伴うとしても、打ち控えが広がり長引いた際の危険性と天秤にかければ、どちらが本当に危険なのかはそれほど難しい問題ではないと思うのです。


ちなみに、DPT-IPVの導入スケジュールについて中野氏から細かい説明がありましたが、問題はワクチンの供給量。現行のDPTでいうと、年間450万本が必要になります。本当に足りるのか。これについて中野氏は、「アメリカではしばらくIPVとOPVが併用されていました。合計4回の接種のうちIPVを2回先に打っておけば、あと2回はIPVでもワクチンによる麻痺性ポリオのリスクは大幅に低下することが分かっています」と報告しました。またサノフィ・パスツール社の担当者も、「wIPVは十分に供給できる」とのことでした。


さて次回は、このワークショップのメインテーマではありませんが、一部言及された同時接種のことを書いてみたいと思います。

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