第4回 ポリオ不活化ワクチン検討会 傍聴記

投稿者: | 投稿日時: 2012年08月03日 04:50

前回の開催から約3カ月の昨日、第4回「ポリオ不活化ワクチンの円滑な導入に関する検討会」が開かれました。ちょっと長くなりますが、要所要所ご報告します。

厚労省が用意したメインテーマは、以下の2つ。

① DTP-IPVの4種混合ワクチンが11月導入となる見込みであること。それに際して9月導入の単独IPVとの兼ね合い(特に、OPVや個人輸入IPVを既に1回以上接種している場合の選択等)

② 野生株あるいは予防接種由来のポリオウイルスがアウトブレイク(爆発的流行)を起こした場合の対応について。OPVとIPV、どちらで対応するか、備蓄はどうするのか等。


特に①について、今回もやはり、「厚労省のシナリオを追認するための検討会」が待っていました。


今回の開催に先立つ7月27日、国内製薬メーカー2社が申請していたポリオ不活化ワクチン(IPV)とDPT(百日咳、ジフテリア、破傷風の三種混合)をあわせた4種混合ワクチンが製造・販売の承認を得たと発表がありました。前回の検討会では、9月にサノフィパスツール社製の単独IPVが導入になることが発表されましたが、その際、確かに4混(DPT-IPV)ワクチンについても11月導入を目指していると健康局長から話がありました。それでも、承認からわずか3カ月での定期接種導入とは、かなりのスピードです。十分な量が確保できるのか、安全性の確認は本当に十分か(治験は済んでいても、あくまで限られた数の被験者です)、などという疑問も出てきます。


それ以前に、単独IPVとDPT-IPVの定期接種化が具体的に見えてきた今、OPVによる麻痺は過去のものにされようとしているのではないか。「国の無作為によって、回避できたはずのOPVによる麻痺の被害が続いてきた」という事実までも、忘れ去ろうとしているのではないか。他人事ではない私自身、そんな焦りさえ覚えます。


いろいろな疑問と危惧を抱きつつ、傍聴に入りました。


まずは外山健康局長の挨拶ですが、要するに、単独IPVが9月、4混が11月、それぞれ円滑な導入にあたって「具体的な実施方法」を話し合ってほしい、というものでした。この挨拶だけ聞いていても、9月と11月の導入は確定的であって、供給量云々等の疑問もこの流れを止めるほどに取り上げられることはなさそうだ、ということが想像されました。検討会の全体の流れもだいたい分かったようなものです(ちなみに外山健康局長は、ちょうど検討会が半分を回った頃、1時間程でスーッと部屋を後にされました)。


次に事務局から4混ワクチン導入に当たっての方針の説明です。サノフィパスツール社の単独IPVもが4混も、初回接種は3週間以上空けて3回です。ただし追加接種については、単独IPVは今なお治験中で、その後の有効性・安全性が確立されていない状況。一方、4混ワクチンでは初回免疫から6カ月以上空けて行う追加接種も、定期接種に含まれるとのことです。その他、大体はDPTのやり方にならうようです。


ここでの議論の中心は、既にOPVや個人輸入のIPV、はたまたDPTをすでに1回以上打っている子供たちがいる中、単独IPVあるいは4混(DPT-IPV)をどう選択していくべきか、ケースごとの場合分けについての検討でした。参考人の入江伸氏(医療法人相生会理事長)と廣田良夫氏(大阪市立大大学院教授)によって、様々な組み合わせパターンの研究結果が報告されましたが、結論としては、4混or単独IPVの選択、接種歴(免疫がどれくらいついているか)、セービン株or野生株といった要素によらず、どのように組み合わせても3回の接種後には全例が十分な免疫をつけることができる、とのことでした。


次に問題となったのが、4混ワクチンの供給量です。厚労省からは、「最初に打った方を、2回目以降、最後まで打ち続けてほしい」という要望であり方針が示されました。つまり、ポリオもDPTも未接種の子供は4混を3+1回、すでに1回でもポリオあるいはDPTを受けた子供は、単独IPVとDPTをそれぞれ合計4回になるまで打つ、というものです。お上に忠実なのが日本人であり、日本医師会ですから、現場ではおそらくその方針が実質的に強制的に(つまり、お母さんたちには「そうすべきもの」とだけ説明されて、「その他の選択はありえないもの」と自然に思い込むようなかたちで)推し進められることになるのでしょう。しかし、形式上は強制ではないので、実際どうなるかは分かりません。お母さんたちが希望して、医師がそうしましょう、と言えば、皆が皆、4混を選択することも可能ではあるのです。


4混も余裕を持って多めに製造する予定のようですが、もし殺到したときに足りるのか? 川崎市健康福祉局医務監の坂元昇氏も、「4混のワクチン供給が追いつかなくなった時、2回目以降の接種対象者は、特例で接種間隔の延長を認めるのか、単独IPVとDPTのセットを勧めるのか。(先の説明から医学的にはどちらでもいいのは分かるが)自治体としては、現場や市民から“判断”を求められる。ある程度方針を示してほしい」と要望が出ました。日本医師会常任理事の小森貴氏も、「母親としては、ポリオとDPTが1度にすむ4混を受けさせたくなるのではないか。きちんと、それでは足りなくなる事情を国から早い段階で説明して、国民に協力を“お願い”すべきでは?」と指摘。さらに川崎医科大学教授の中野貴司氏からは、「そもそも、4混の導入を待ってDPT接種が遅れるのは、百日咳の流行等を考えても危険。打てる時期がきたら、積極的に単独IPVとDPT、それぞれ接種するよう勧めるべき」との意見が出ました。


ちなみに、小森氏は、「単独IPVは将来的には、企業として製造するつもりはない」との旨、ワクチンメーカーの有力者から聞いたそうです。そもそも単独IPVは、すでにポリオやDPTを1回以上接種した人向けとして日本向けに製造されることになったものであると、検討会終了後に記者たちに囲まれた厚労省側が説明していました。要するに移行措置の一環ですから、先は見えている、と言うことですね。なるほど、それで企業もコスト回収のために、高い値段を設定しているのか・・・。前回ブログで触れた話題ですが、改めてそんなお金の使い方にギモンを感じたのでした。


さて、事務局が説明しただけで大きな議論にはならなかったのですが、個人的に引っかからずにいられなかったのが、今年春のOPV接種率のサンプル調査結果です。前回検討会の坂元氏の提案を受けて厚労省が全国15都市に調査を依頼し、6月末時点の接種率集計を行ったものです。想像していたこととはいえ、びっくりしました。15都市全体の平均では62.2%。これだけでも十分低い(以前は90%台でずっと推移していた。流行させないためには最低8-9割は必要)のですが、水戸市、川崎市、下関市に至っては、それぞれ48.9%、46.4%、44.7%と、50%にも満たないのです。もし本当に流行してしまったら、国はこのような事態を招いたそもそもの責任を、どう取るのでしょうか?


なお、これに関連して、ポリオの会会長の小山万里子氏が「全国の自治体ではまだこの期に及んで、『まだ間に合うから、OPVを受けるように』と呼びかけているところもあります。とても危険です」という発言をしたのですが、いつものごとく岡部信彦座長(川崎市衛生研究所所長)が「はい、ありがとうございます。でも大体の自治体ではOPV接種は6~7月で終わっていますね」と手際よく引き取って話を広げさせません。小山氏も「いくつかの自治体では呼びかけ文書も出ています。手元にありますので興味ある方は後ほどご覧になってみてください」と言うのが精一杯でした。そして間をおかずに岡部氏が「その話は既に前回にも出ていたかと思います。時間も迫ってきましたし、4混導入の進め方についてはおおむね事務局の示した案でよいでしょうか。次の大きな議題のアウトブレイクの話に移ります」と、あっさりまとめた形になりました。


私は個人的に小山氏の言っていた「文書」が気になったので、検討会終了後に小山氏に愛知県塩尻市や東海市のホームページをプリントアウトしたものを見せていただきました。小山氏によれば、「どうやら愛知県、特に名鉄病院とその影響下にある医療機関でOPVが盛んに奨励されているようだ」とのこと。改めて15都市サンプル調査の結果を見てみると、確かに、名古屋市はこの春のOPV接種率が76.8%と、全国平均と比べてもかなりの高水準です。どうしてそのような動きになるのか、とても不思議としか言いようがありません。


さらに小山氏によれば、また東京で1人、1歳の子供にOPVによるワクチン麻痺が出ているようです。昨年秋の接種によるものとのこと。もともと片足に先天性の障害があったため気づくのが遅れたようですが、ある日お母さんが、その子がなぜか障害のある足を使って、健康だったはずの脚を引きずって歩いていることに気づいて分かったそうです。今となってはいくら調べても、ポリオウイルスは検出できません。今は、他の可能性をつぶす検査を続けているそうです。去年の秋と言えば、すでにOPVによる麻痺が話題になっていました。それなのにあくまでOPVの継続にこだわった国が、また被害者を出してしまったということです。


さて、厚労省の用意したもう一つの大きな議題は、アウトブレイク時の対応についてでした。その際、OPVで対処するのか、IPVで抑え込めるのか、単独IPVが入手できず4混で対処する場合、DPT過剰接種は大丈夫か(結論としてはさほどではないらしい)、備蓄量は足りるのか(単独IPVの備蓄量は現時点で未定)、といったことが問題になりました。参考人の宮村達男氏(元国立感染症研究所長)も、接種率の現状からみて、「アウトブレイクがいつ起こっても不思議ではない」としていますが、これに対して事務局案では「H26年秋までは、流行の可能性が大きければOPV対応で、小さければIPV対応。それ以降は、ワクチン接種率が以前のように高水準に開腹することを前提に、IPVで対応。ただし、接種率が向上しなかったら迅速なOPV供給体制を確保する」とのことです。


ちなみに新潟大学教授の齋藤昭彦氏の「世界ではIPVで流行を抑え込んだ事例はあるのか?」という質問に対しては、清水博之氏(国立感染研)が「このところ発生が確認されているのは流行地なのでOPVによる対応であり、IPVによって抑え込んだ事例は見当たらない」旨、説明しました。ようするにまだ未知の領域、ということです。それでももはや、OPVを子供に接種させる気にはならない、というのがお母さんたちの本音ですよね。事務局が説明したアメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、と言った先進国ではいずれもIPV対応を予定しているとのこと。彼らは接種率が日本のような恐ろしい事態に陥っていないので、まあ当然かなと思います。


議論にはならなかったものの、私が引っかかった点は、事務局が示した「ポリオ発生早期~終息期の対応」として、「麻痺患者が発生した場合には、直ちに患者の検体を確保し、検査依頼する」というところです。麻痺が出てからすぐに調べても、もうウイルスが検出できないことも多いのです。特に現状の接種率では、そうしている間にも、どんどん不顕性感染が人から人へと広がっていくのではないでしょうか。


検討会もいよいよ残りあと5分。ここで座長がまとめに入ります。まずは事務局に「この検討会は、これで終わりですか?」と確認。事務局によれば、まだ続く、ということではあるようです。さらに最後の最後、取ってつけたように、座長がポリオの会の丸橋達也氏に発言を促しました。それもいつものことです。そして、振っておきながら、いつもどおりほとんど取り合うことなく、いつもどおり「基本的には事務局案を採用して、最終案をまとめていただく」とまとめ、第4回検討会は終了しました。事務局から新しく「不活化ポリオワクチン予防接種後副反応検討会」が開催されることが報告され、お開きとなりました。


その報告を聞きながら、「OPV予防接種後副反応検討会」はどうしてないんだろう、と思わずにいられませんでした。IPVの導入の話がどんどん進められていく中で、いまだ置き去りにされた問題があります。しかし、それを取り上げる場が、IPVの導入によって、かえって失われそうな予感と言うか、不安と言うか、懸念というか・・・。この検討会を傍聴するごとに、そんな複雑な気持ちが強くなる一方なるのです。

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