国立がん研究センター 患者・家族との意見交換会 傍聴記 その2

投稿者: | 投稿日時: 2013年06月03日 07:59

引き続き、5月30日に国立がん研究センターが開いた、厚労省「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議 報告書(素案)」についての「患者・家族との意見交換会」についてのご報告です。当初はごくごく概略だけ、と思っていたのですが、患者・家族側の声がこれだけまとまって出されることはなかなかないので、できるだけ漏らさず書き留めていくことにしました・・・。

それでは前回の続きです。


真島:
確かに日本国内で開発されたものが届かない「死の谷」があるということでTR(トランスレーショナル・リサーチ)が推進されるのだと思うが、かたや海外で開発された薬が日本で患者さんの手に届かないという、もう一つの「死の谷」がある。いわゆるドラッグラグだが、それについては現状どうなっているのか、そして今後はどうなっていくのか。どういう形で我々は国立がん研究センターに期待したらいいのか。

⇒中釜:
私は臨床研究にタッチしていないのでよく分からないが、まずはフェーズ1に積極的に参加していく、そのための体制を整備する必要はある。そしてグローバルな視点からも、今は一番最初の段階からまだ海外にまだ遅れを取っているので同時にスタートできるように、また海外の成果がそのまま日本で使えるわけではないので、既にあるものは使えるようにしながら、速やかに臨床試験に入れるような体制づくりが必要と考えている。国立がん研究センターでもそうだし、拠点病院との連携も進める必要がある。

⇒堀田:
Allがんセンター体制で既にfirst in human試験を9本動かしつつある。うちだけでなくグループで、あくまでグローバル治験に参加することが大事。既にある薬が日本では適応外で使えない問題についても、コンパッショネート・ユース(生命に関わる疾患や身体障害を引き起こすおそれのある疾患を有する患者に対し、代替療法がない等の限定的状況において未承認薬の使用を認める制度。アメリカ、ヨーロッパ(EU)などではすでに導入)の動きが既にある。

⇒藤原:
厚労省が今度、コンパッショネート・ユースの第1弾として公示しているのが、海外で承認されていたり、あるいは日本では未承認でも世界的にフェーズ3の段階に入っている有望な薬については、体調が少し悪くてその治験に入れない患者さんについては、医師主導治験と言う枠組みの中で治療を提供しましょうということになる。国立がん研究センターとしては手を挙げてチャレンジしようということになっている。東病院でも、GISTの患者さんなどに同様の試みを既に始めてきた。そうした動きがどこまで広がっていくかは薬事行政の問題でもあり、簡単にどうぞ使ってくださいという風にはいかないだろうが、段階的に進んでいけば、日本でもコンパッショネート・ユースやエクスパンド・アクセスのモデルとして有効では。

また、国の仕組みとしては「先進医療B」が未承認薬を臨床試験下であれば使えるという仕組みを提供しているので、国立がん研究センターとしても各医療機関を束ねてリードして、患者さんにその枠組みの中できちんとコントロールされた治験に参加してもらい、安全性・有効性を確認し、将来の承認につなげたい。今までドラッグラグと言うとどうしても企業がやらねばならないという見方が多かったが、我々としては医師として責任持って、使える未承認薬を使えるように働きかけていきたい。


●天野:
先進医療Bにしてもコンパッションネート・ユースにしても、薬事に関心があって詳しい人の間ではそういう制度等があるのは伝わっているが、がん医療に携わる多くの人の間では、そういう話はまったく出てこない。閣議決定されたがん対策推進基本計画でも、がん研究の領域の項目として「ドラッグ・ラグとデバイス・ラグの解消の加速に向けた、がんの臨床試験を統合・調整する体制や枠組みの整備」「研究施設内の薬事支援部門の強化の推進」といったことが挙げられていることが、先日の有識者会議の報告書素案でも確認されている。しかしそうしたことが具体的内容として、「今後のがん研究のあり方について(報告書素案)」には全然入っていない。両者の内容が、全然リンクしていない。そうしたことをきちんと報告書にも書いていかないと、結局がん研究とその他の再生医療等新しく脚光を浴びている研究と、何が違うんだという話になる。

がんは他の疾病と違う問題が多々あり、こういう研究が必要なんだということは、まさに国立がん研究センターのみが訴えうる問題であり、「有識者会議」でも制度論含めてきちんと出していかないと、がん研究はたぶん埋もれてしまうと、患者としても危惧している。そこをぜひ強く訴えていただきたい。

もう一点、堀田先生のまとめでも強調されていた「がん多死社会」の問題。がん医療が今後どれだけ進歩したとしても、亡くなる方はいる。ところが、それについて「有識者会議」ではほとんど話が出ていない。高齢者に対応したがん医療のあり方、例えばなくなる方がいる中での精神的苦痛や、在宅療養等に対して、がん研究の立場から、要するに緩和ケア等の立場からどう対処していくのか、まったく触れられていない。大量の方が亡くなっていく中で、制度論として片付けていいのかと言う話も絶対出てくるだろう。例えば国立がん研究センターにしても地域医療との連携はどう進めていくのか、あるいは地方と都市部の在宅医療は違ってくるだろうし、がんと他の疾病の在宅医療も絶対に違うはず。しかしそうした緩和ケアや在宅医療の話がないままに研究の話だけが出てきているところに、非常に危うさを感じる。


●桜井:
私は米国のがん研究の現状を見てきて、日本のがん研究のハードとソフトすべてについて非常に危機感を持っている。その部分をもっと共有していくべき。例えばAACR(American Association for Cancer Research、米国癌学会)もアジアの拠点はもう中国に置くということを言っている。日本は飛ばされている。なんでなんだろうと。解消することが目的なのか、推進することで解消できるのか、10ヵ年ということで考えるなら、そういう視点が大切だろう。

また、4月にAACRとあわせてワシントン.D.Cで開催されたラリーfor メディカル リサーチhttp://rallyformedicalresearch.org/Pages/default.aspxにも参加して来たが、それもNIHが予算をオバマ大統領になってから削られて、それをどうやって国民全体で危機意識や問題を共有するのかということで開かれたイベント。非常に良かった。何がと言うと、研究者の人たちが率先して患者会と一緒になってその問題をワシントD.C.の真ん中でTシャツ着てやっていた。それからアウトカムをきちんと示していた。論文の採用数やそこから創薬につながった数等だけではなく、研究職の分野としてこれだけの職種が生まれた、研究者の雇用をこれだけ確保できた、ということも示していたのは、すごく大切。NIHの予算が減らされて失業する研究者も出てくるが、それをきちんと確保していて関連企業を育てているんだということまで巻き込んで声を上げている。

国民への理解を深めると同時に、これから先、「死の谷」をどうするか、要はパイプラインをどう構築するか、これから出てくるビッグデータをどう解析していくのか、といった視点が必要なのではないか。今、文言となっている部分には、なかなかそれが見えてこない。UCSFもパソコンを置くために増築すると聞いた。10年前は、ヒトのDNAを1つ解析するのに1ヶ月かかった。それがこの10年間で、ホール・ゲノム・シークエンス、つまり全遺伝子解析が24時間で出来るようになった。今からさらに10年後となるとどれだけのことが起きるか、そこまで強く意識していかねばいけないだろう。


●町:
10年後、日本で亡くなる人は毎年170万人くらいで、20~30万人くらい増えてくる。そちら側の数は書いてあるが、支える側の問題がある。その20~30万人を病院でどう受け入れていくか。そのうちがんで亡くなる人が3分の1だとしても、およそ10万人以上増えていくわけで、それに対して人材育成はどうするのか。がん専門医の数も現状のままで足りるのか。そして高齢者のがんの人たちに対する医療が、本当に“治す”医療でいいのか。先端医療で治すよりも、もしかしたら“癒す”医療のほうが高齢患者にとっては重要になってくるかもしれない。先端医療、研究部門を担う先生を育てると同時に、緩和医療や在宅医療の人材を育てていかねばならないだろう。

その教育もどの段階で始めるのか、医師になってからはじめるのか、学生のうちから始めるのか、教える先生の人材も必要。そう考えると、あらゆる面ですでに人材が足りない。どの分野でどれくらいの人材が必要なのか、医師だけでなく薬剤師などのスタッフ含めて要検討。さらに今、乳房切除による乳がん予防が話題だが、それもカウンセリング体制などが全くもって不十分なままに始まっていのか、医師かそれとも他の誰かが担うのか、など、考えるべき問題がたくさんあって、それをそれぞれ支える人材育成もやっていかねばならない。


●馬上:
小児がんは去年、「基本計画」に加えてもらい、対策が始まったばかりのところ、小児がんでは治る人も多い分、長い人生を障害を抱えて生きる人が多いが、その全体像もどういった対策が必要かも分かっていない。やはりQOLの評価とその対策を今後進めていっていただきたい。資料にも「第3次対がん総合戦略の分野構成」の分野6に「QOL」があるが、それぞれの分野が研究費の分配や人材投入に関してどの程度の%を占めているのか。これくらいの金額がここに投入されてきて、これからはどうするのか、という計画はつくられているのか。予算は厚労省がやることで、こちらからは要望等はできないのか。やはりQOLに関する対策が遅れている。私共は小児がんだが、お母さん方で介護しながら子供を世話している人もたくさんいる。2重の苦労を強いるような制度になっている。

⇒堀田:
5月10日の有識者会議資料では、分野別の投入予算が示されている。

⇒藤原:
小児がんについては、この報告書素案にも(5)として小児がんの研究テーマが挙げられており、積極的に進めていきましょうということと考えられる。予算については、我々は「これは大事です」という話はできるが、実際どう予算をつけるかは分野ごとに厚労省の方でやるもの。

⇒堀田:
厚労省だけでなく、経産省、文科省と、省庁の垣根を越えてやっていこうという提案はしていた。それを実現したい。


●天野:
報告書素案を見ていると、厚労省と経産省と文科省が垣根を超えてやっていこうと言うのはいいが、厚労省省内でも、肝心な健康局とその他の局の間に相当深い谷があるのを感じる。医政局と医薬食品局でいろいろやっていることはご紹介いただいたが、全然入っていない。これは言っていただかないと、入らないまま終わってしまい、有効ながん研究につながらないだろう。是非言っていただきたい。


●真島:
健康局がやっている「がん対策推進協議会」で出来た「5ヵ年計画」の位置づけと、今回の「10ヵ年総合戦略」が、整合性が取れないのが非常に問題。他の局ならともかく、どちらも同じ健康局が書いているのに、なんでここまで整合性が取れていないのか。がん研究には3省と、さらに省内でも色々な局が関与していて、複雑な図になっているが、どこか横串を刺してマネジメントするところがないと、せっかく立てた「5ヵ年計画」の目標や、「10ヵ年戦略」にしても、実行性をどこが担保しているのか。誰が責任を負っているのか、顔が見えない。日本版NIH(National Institutes of Health、米国立衛生研究所)もそうだが、トータルに日本のがん対策をマネージメントする、米国のNational Cancer Meetingみたいなものが必要では。そういうことをばっと言える場所はないのか。

⇒堀田:
まったくもって同感。将来は日本版NCI(National Cancer Institute、米国立がん研究所、NHIの一部)を作って行きたい。その前に、○○機能(聞き取れず・・・)は大事だが、厚労省が手放さない。今までのパフォーマンスからしても国立がん研究センターには任せられない、あるいは国立がん研究センターが“親の総取り”みたいに全て持っていってしまうのではないかと思われているようだが、そこはフェアーに広く人材を集めてやっていきたい。いずれにしても統括的機能を持ったものは必要と認識。


●桜井:
NIHにしてもNCIにしてもInstituteだが、Instituteとは何かをもう一度考えてもらいたい。国立がん研究センターはもっとリーダーシップを発揮して舵をとらないといけない、そうしないともう間に合わない時期にきている。言い方は悪いかもしれないが、「築地病院」になってはいけない。私たち患者も、国立がん研究センターがどういうものなのか、もっと認識して国民で共有していかないといけないと思う。がんも研究に関しては、均点化でなく、むしろ集約化していかないといけないと考えます。


次々に患者側から意見が噴出してきました。中には「有識者会議」ではカバーされないかも、と言う内容のものも確かにありましたが、ではどこへ持って言ったらいいのか。ぶつける先がないから、とにかく行った先々で訴えるしかないんですよね。まだまだ続きます・・・。

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コメント

記事を拝読しました。研究者の人たちが率先して患者会と一緒になり、その問題をワシントD.C.の真ん中でTシャツ姿でイベントを行ったのですか。

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