酵素サプリ 有効性も安全性も不明なのになぜ?

投稿者: | 投稿日時: 2017年03月01日 17:51

「酵素」を売りにした栄養補助食品を、「要らない」と知人が言うので、もらってみました。近頃ドラッグストアの健康食品売場では、必ずと言っていいほど「酵素」の文字が躍っていますが、個人的には当初から「怪しい」と手を出さずにきました。が、これを機にちょっと興味が湧き、調べてみると、やはり「酵素」については、有効性だけでなく安全性も確かとは言えないようです。それなのになぜこんなに流行っているんでしょうか?

胃や腸で分解されてしまう

そもそも「酵素」とは、体の中で化学反応を助ける・速めるタンパク質です。例えば、膵臓などから分泌されて消化液に含まれる「消化酵素」や、アルコール分解などの代謝反応に関わる「代謝酵素」など、数々の酵素が、働く部位に応じて作られ分泌されています。


ですから酵素は確かに私たちの生命活動に必須のものですが、それを栄養補助食品として摂取することが、何らかの健康効果につながるのでしょうか。


まずは、国立健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報サイトで「酵素」について調べました。


するとあっさり、否定的な説明が出てきたのです。引用してみますと、

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身体の健康維持やダイエット効果を謳って、「体内で不足した酵素を補う」などとして発酵食品や生の食材、またはこれらを混合した飲料やサプリメントの摂取の必要性が強調されることがあるが、食品中に含まれる酵素は、他のタンパク質と同様に消化管内で、アミノ酸やペプチドに分解されて吸収される。従って、消化管で作用する酵素を除けば、経口摂取した酵素が、その構造と活性を維持したまま体内に吸収されて機能する可能性は極めて低い。
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だそうです。要するに、酵素を食べたり飲んだりしても、胃や腸で消化(分解)されてしまい、酵素として持っていた働きはまず期待できない、ということです。考えてみれば、タンパク質なのですから、消化されてしまうのは当然ですよね。
http://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/aging/doc2/doc2-06.html


酵素を謳い文句にした健康食品の広告についても、同サイトで次のような指摘がされています。

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酵素に関して、「酵素は年齢とともに低下するので経口摂取によって補う必要がある」といった広告がある。そのような広告には、1)具体的な酵素名が記載されていない、2)経口摂取して補った後にどのような有効性があるかという根拠が示されていない、3)酵素の食品製造における作用と経口摂取後の体内における作用が混同されている、といった特徴がある。酵素の作用が強くなることが、必ずしも生体にとって都合が良いとは限らないこともある。酵素の中には個別に安全性が評価されているものもあるが、非常に多くの種類が存在するため、酵素という一般名で一律的にヒトでの安全性および有効性を判断することはできない。また、異なる種類の酵素を同時に摂取した場合の安全性についても、情報は見当たらない。
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早い話が、具体的な酵素名も不明で、効果について科学的根拠が示されていないばかりか、安全性も保証できない、というのです。


「食物酵素」のトンデモ理論

加工食品の栄養・健康機能については法的な規制がきちんとかけられているので、商品自体をよく見ると、酵素そのものの健康効果が直接的な表現で記載されているわけではありません。ただ、インターネットでは酵素食品についておかしな情報が溢れています。


ざっくり例を挙げると、

〇酵素ジュースや酵素サプリメントなどは、食物に含まれる「食物酵素」を利用したもの。豊富に含んでいる食べ物として代表的なのは、生の野菜やフルーツ、発酵食品。多く含まれる野菜には、レタス、ニンジン、セロリ、キャベツ、トマト、きゅうり、大根などがあり、フルーツには、キウイ、アボカド、バナナ、リンゴ、など他多数。

〇食物酵素は、例えば、果物が熟す際に働いている。これは、食物酵素が自分で自分を消化している状態と言ってよい。食物酵素を含んだ食物を摂取すれば、体内でも消化が続く。食物はすでに消化が進んでいる状態なので、体からの消化酵素の分泌は必要最低限の量で済む。消化酵素の分泌を減らすことができる分、代謝酵素の産生に回すことができ、体の修復を行ってくれるので、病気にかかりにくくなる。

といった具合です。


おかしな点がいくつかありますので、ざっと確認したいと思います。


まず、お気づきかと思いますが、突然に「食物酵素」なるものが出てきました。何のことか調べてみても、学術的な文献や公的な資料には一切見当たりません。意味合いからすれば、おそらく「ヒトの体内で合成されない、食物(特に植物)由来の酵素」といったところでしょう。


酵素を“多く”含むとして挙げられている野菜・果物については、具体的な酵素名が書かれていないので何も判断できませんが、植物も複雑な生命活動を行っているのですから、その細胞内外で数々の酵素が働いているのは当然です。つまり、すべての生の野菜や果物には酵素が含まれています。実際、野菜や果物などは収穫された後も生きていて、貯蔵や調理などの過程で、細胞の内部で酵素が化学反応を起こし、味や匂いが変わったりします。ただ、酵素は個々の生体の特定の生命活動に必要な種類のものが、必要な部位に分泌されるようになっている、という基本は植物でも同じ。無関係の酵素を外部から摂って混ぜたところで意味はありません。


だったら普通に生の野菜や果物を食べればいいのでは? そもそも、どんな酵素であっても経口摂取してしまうなら、消化(分解)されてしまうのは、既に触れたとおりです。


そして、「食物酵素を摂取することで消化酵素分泌を減らすことができる」「消化酵素分泌が減ると代謝酵素に回すことができる」というのも眉唾です。これは1946年に米国で出版された「酵素栄養学」という専門書の「潜在酵素」の仮説が元になっているようです。潜在酵素とは、「体内で消化のほか、様々な生体の活動に用いられる総合的な酵素」とされ、生物の一生で使われる総量に上限があり、これが消耗されすぎると病気の原因となり、寿命は縮む、と考えられました。先の「食物酵素」というのも、この「潜在酵素」と対になって考えるべきもののようです。


ところが、この仮説は、きちんと科学的な検証がなされないまま世の中に発表され、広まってしまいました。現在も、潜在酵素の存在は証明されていませんし、むしろ、「ローフード」(生食健康法。食品をできるだけ火を通さず食べることで、酵素を多く摂取しようというもので、考え方は酵素サプリと非常によく似ています)などの根拠として、堂々と語られています。しかしながら科学的には、個々の酵素の体内での生成経路が次々に明らかになることで、事実上否定されているといえるでしょう。


実体は「植物発酵」+α食品だった

さて、こんなにはっきりと否定できる仮説をベースにしているにも関わらず、「酵素」健康食品は姿を消すどころか、今もなお大流行中です。なぜ・・・?


その謎を解けないかと、改めてドラッグストアへ行ってみました。


健康食品売場に足を踏み入れた瞬間に、「酵素ダイエット」「生酵素」「植物酵素」といった文言が次々に目に飛びこんできます。どれもパッケージや棚に大きく書かれていて、商品名なのか、謳い文句なのか、どうも区別がつきません。ダイエット効果を期待させる表示が多く、粉末や錠剤・カプセルが中心で、ゼリー状や液体のものもありました。


色々あり過ぎて一瞬気後れしましたが、改めて一つひとつ手に取って、消費者庁の定める「加工食品品質表示基準」を手当たり次第に確認していくことに。ドラッグストアを何軒かはしごした結果、「名称」や「原材料」のところには、共通する文字が・・・。

植物発酵食品
植物発酵エキス含有食品
植物発酵エキス末含有食品
植物発酵エキス加工食品
植物発酵エキス含有加工食品
複合植物発酵物・米黒酢濃縮粉末含有食品
植物性発酵飲料(清涼飲料水)
清涼飲料水(原材料に「植物発酵エキス」、ただし表記順位はまちまち)
清涼飲料水(希釈用)(原材料に「植物発酵抽出物」、ただし表記順位はまちまち)


というわけで、キーワードは「植物発酵」らしいと分かりました。


発酵とは、微生物の働きによって物質が変化し、人間にとって有益に作用すること。植物、つまり野菜や果物を発酵させることで、元々含まれる成分から健康によい栄養成分が生じている可能性はあるようです。発酵の際、微生物は酵素を分泌してこれを行います


・・・ん? これが混同の元なのでは?


つまり、植物の元々持っている酵素と、微生物が発酵に利用する酵素の話が、「植物発酵」という両方の要素を併せ持ったコトバを介して、ごっちゃになっているのではないでしょうか。


もし「植物発酵」食品で健康効果を得られたとしても、それは発酵作用の結果として生じた成分によるものかもしれません。「酵素」は関与していますが、微生物の酵素が発酵作用をもたらすのであって、植物の持つ酵素の話では決してないのです。


野菜・果物や発酵食品を摂る方が安心

今回調べてみると、ほとんどの商品に、ビタミンやミネラルなど、「植物発酵」に関連する成分以外の原材料も同時に含まれていました。様々な健康効果を一度に得られる、という触れ込みです。


私がもらった商品も正にそういった体裁です。「〇〇 チョコレート酵素ダイエット」という商品名で、ジッパー付きのアルミパックに200g粉末が入っています。商品のオモテ面には商品名に加えて「215種類の野菜・果物・穀物発酵エキス」と目立つように書かれ、「1食おきかえ」「1日分のビタミン・ミネラル・食物繊維」「1杯(20g)あたり 大豆プロテイン5,000㎎ GABA・マカ配合 食物繊維5,600㎎」「カカオポリフェノール配合」との文字も。


裏面には、品質表示基準に基づく名称として、「食物繊維・大豆タンパク・植物発酵エキス含有食品」と書かれています。原材料名の欄は、「水溶性食物繊維」「分離大豆タンパク」に加え、健康によさそうな食材(漢方食材なども)を何種類も混ぜて作った「植物発酵乾燥粉末」や、「野草発酵エキス末」「植物発酵エキス」などが、これまた何種類も書かれています。「えびす草の種子」「レンブ」「こうぞりな」「やまたばこ」など、正直なところ初めて聞く食材(?)も、植物発酵エキス等の材料として含まれています。もちろん、ビタミンやミネラルも入っています。


これだけ入っていればつい、商品全体としては何らかの健康効果も得られるかも、という気にはさせられてしまいます。実際、「食物酵素」の働きではなく、発酵によって生じた成分や、あるいは単に別途添加されているビタミンやミネラルなどの栄養素から健康効果を得ていながら、「この商品は役立った。やっぱり食物酵素は効果がある」と思っている購入者もいるかもしれません。


加えて、気がかりなことがもう2つ。


聞いたこともない食材を、微量ずつとは言え、毎日毎日摂取するのは、どう考えても不安です。多くの人はメーカーを信用して、多ければ200種類以上もの原材料について、それらがどういうものなのか逐一調べたりはしないでしょう。既に特定の食物についてアレルギーを自覚している人は気をつけるからよいでしょうが、成人になってから発症する人もいますし、非即時型(遅延型)アレルギーで、摂取後に数~数十時間経たないと症状が出ないためにアレルギーと気付かない場合もあります。果物は、成人の新たな発症原因の第4位(7%)。果物アレルギーは花粉症との関連も指摘され、患者の増加が見込まれているそうです(該当する野菜・果物はこちら。偶然かどうか、「食物酵素を多く含む」として列挙した野菜・果物と、かなり重なっていますね)。


一度に何百種類という野菜や果物を摂れる商品は、一見手軽で便利です。でも、自分で何を食べたのか厳密には把握できていないことになります。もちろん1つ1つの分量は微量なので過度の心配は不要だとしても、知らないうちに摂り続けることは避けたいですね。


さらに、これはダイエット食品全般に言えることですが、私がいただいた商品のように「1食おきかえ」を謳ったもの(裏面に、水や牛乳などに溶かして飲むことで、食事1食分とする「召し上がり方」が書いてあります)の場合、ダイエット食としてそれで栄養素が足りるのか、きちんと数字でチェックする必要があります。数百種類の食材が使われているからと言って、本当に必要な栄養素が必要なだけ入っているかは分からないからです。長く続けるのであれば尚更ですし、商品によっては、1日3食として他の2食できちんと必要な栄養を補う必要もあるかもしれません。「痩せた!」と思っても、単に栄養不足の結果、脂肪はあまり減らずに筋肉が落ちてしまっていたら、それはダイエット成功とは言えません。


大いに流行っている酵素サプリですが、実際には野菜や果物の発酵粉末・エキスを摂っているわけですし、ともすれば把握しきれないほどの食材から、実際どの程度どんな栄養素が入っているかも分からない、ということになってしまいます。だったら、生の野菜・果物と発酵食品を多く摂るよう心掛け、不足しているビタミンやミネラルについては信頼できるサプリを利用する(同じお金をかけるならそちらに)、という方が賢明なのではないでしょうか。

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