ホントに白い巨塔なの?大学病院って、こんな所。
医局のことが分かってきたら、その頂点に君臨する教授のことも知りたくなりますよね。
この特集のはじめに、大学病院は臨床・教育・研究の三つが重要だと説明しました。つまり、教授は、この3つに優れていると見なされた人がなるわけです。
多くの場合、教授を選ぶのには選挙が行われます。一般的には、前任者が退任する時に、後任にふさわしい人物の条件が示され、それを満たした数人が立候補します。いわゆる「教授選」です。この時、医局の外部からも立候補する人がよく出るのが、医学部教授戦の面白いところです。
教授より年次の古い人は医局を出ていくのが不文律なので、順送りでない教授や"外様"の教授が選出された場合、医局内に大きな人事異動を伴います。この辺も医局がおどろおどろしく見える原因かもしれません。
誰が投票権を持つのかは、施設によって時代によって異なります。医学部教授だけが持つ場合もありますし、下々の医局員にまで与えられる場合もあります。
選挙ですから当然多数派工作はあるわけですが、「白い巨塔」批判もあって、露骨なものは影を潜め、最近は客観的な指標で判断されることが増えています。
ただしお分かりと思いますが、臨床・教育というのは、なかなか客観的な評価が難しい分野です。あの先生よりこの先生が名医だ、名教育者だなどというのは水掛け論にしかなりません。対して、研究というのは客観評価しやすい特徴があります。というのは、論文ごとに世界共通の点数が与えられるからです(コラム参照)。
結果として研究に実績のある人が、教授に選ばれやすいことになります。もちろん臨床研究で実績を上げるには臨床の裏づけが不可欠なので、一般に名医が選ばれると考えて間違いないでしょう。ただし、常に患者と一緒にいる、というタイプの名医ではないかもしれません。
話が、先ほど宿題になっていた「研究」に触れましたので、簡単に説明しておきます。科学者の世界で「研究」という場合、自分だけが分かっているというのはダメで、少なくとも論文を書いて他人のジャッジを受けなければならないし、どうせ書くなら高い点数の取れる論文が望ましいとされています(コラム参照)。
論文が雑誌に載るには、何か新しい発見がないといけません。高い点数を取るには、人々の関心を呼ぶ対象でないといけません。
この背景があるため、大学病院の医師は、どうしても一般的で治りやすい病気を確実に治すことより、治療の難しい病にチャレンジすること、新しい治療法を開発することに意欲を持ちがちです。また、手の施しようがなくなった時に冷たい、という印象を持つ患者さんもいるようです。ただし市中病院の医師も、大学医局の人事で動いている場合、やはり同じ行動原理が働きます。
論文掲載とインパクトファクター。 論文が画期的であればあるほど、後に続く研究者たちが、その論文を引用することになります。そして、多く引用される論文を数多く掲載している雑誌は権威が高まります。 この相互関係から、科学雑誌のランク付けに用いられているのが「インパクトファクター」。掲載論文すべてが1年間に引用された総数を、掲載論文数で割って点数を導き出します。当然1年ごとに微妙に数値が変わります。 研究者たちは、できることなら権威の高い雑誌に載せたい、とランクの高い雑誌から投稿する(掲載を拒否されるとランクを落としていく)ため、インパクトファクターの高い雑誌に掲載されると、研究業績として高く評価され、その点数の合計がポストの条件になることもあります。 ちなみに科学全般で有名な雑誌が「ネイチャー」と「サイエンス」、医学系全般では「ニューイングランドジャーナル・オブ・メディスン」と「ランセット」。すべて英語で投稿するのがルールです。