福島県立大野病院事件第三回公判(2)

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2007年03月17日 16:31

昨日エントリーした(1)では
検察の「イリュージョンショー」について主に書いた。
今日は、医療者と司法との相性の悪さについて述べたい。
なお、公判全部のやりとりは
周産期医療の崩壊をくいとめる会サイトをご覧いただきたい。


検察官は前回公判の産婦人科医・K医師の時と同じように
今回の麻酔科医・H医師に対しても
その検面調書(不同意書証)の署名指印部分を示してから
あの時はこう言いましたよねという尋問を行った。
さらに弁護人とH医師との事前打ち合わせの際に
福島県立医大産婦人科のY助教授が同席していた
との証言を引き出して
「医療界がグルになって圧力をかけて証言を変えさせている」
との心証形成を諮った。
前回が前回だっただけに安っぽい三文芝居に見えてしまうのだが
それでも、場合によっては裁判の流れを決定づけかねない攻撃だ。


検察側がこのような攻撃に出るのは
元をただせば
重要な点について
供述調書の内容と公判証言とが食い違うところに問題がある。


警察・検察の取り調べの問題に帰すことは簡単だし
それが最も大きいのだろうとは思うのだが
全てとは言えないのでないか。
司法と医療との間に、溝を埋めがたいほど
根本的な考え方の違いがあるように思えてならない。


なお下記のやりとりは
麻酔記録を見れば分かることを
事件後2年以上も経った記憶と照合させるという
一般人には意味を理解しがたい主尋問を延々と繰り広げ
かなりの部分に関して「記憶が曖昧」という証言があった後の
検察による再尋問である。


  検察 今日の証人尋問の前に検察で事情聴取を受けたと思いますが、その時は当時の記憶に従って説明したということでよいでしょうか。
  H医師 はい。
  検察 話した内容は供述調書を読んで確認しましたか。
  H医師 その場で確認しました。
  検察 内容に訂正したいところがあれば訂正し、確認し署名をしましたか。
  H医師 はい。
  検察 複数回取調べを受けて、記憶のはっきりしたところははっきりと、曖昧なところはそのように証言しましたか。
  H医師 はい。
  検察 供述調書の署名指印を証人に示します。
(複数の供述調書の署名指印をH医師に見せる)
  検察 甲23号証、平成18年3月3日に検察で取調べを受けたのは覚えていますか。
  H医師 日付までは覚えていませんが、取調べがあったことは覚えています。
  検察 pumpingを開始した理由を説明していますが、どのように説明したか覚えていますか。
  H医師 いいえ覚えていません。
  検察 では、記憶喚起のために読み上げます。「看護師から出血2000mlの報告があり、目に見え出血が増えていました。通常の輸液では間に合わないので、2本あったラインの左側でpumpingを開始しました」。3月3日当時の供述を聞いて、pumping開始が2000mlの報告と目に見える出血を受けてのものと証言したことを思い出しましたか。
  H医師 思い出せませんが、記録がそうなっているのであれば、その時はそういう記憶があってそう話したのだろうと思います。
  検察 pumpingとヘスパンダー投与の前後関係は覚えていますか。
  H医師 覚えていません。
  検察 「pumping開始後まもなく血圧が下がったので、pumpingによってヴィーンFを全て体内に送り込んでから、さらに左右それぞれヘスパンダー500mlをつないだのです」。
  H医師 しゃべったかことは覚えていませんが、そう記録されているということは、そう言ったのでしょう。
  検察 目に見える出血もヘスパンダー投与の理由と話していますが。
  H医師 そう言ったかは覚えていません。調書にあるならそう言ったのでしょう。
  検察 子宮内から血が風呂のようにわき上がってきたのが、どの時点からかは今ははっきり記憶していないということでしょうか。
  H医師 はい。
  弁護人 異議。不同意調書について読み上げている。
  検察 証人の記憶喚起のために読み上げているのであり、弁護人の異議には理由がないと思料いたします。
  別の検察官 刑訴法227条だよ。
  裁判長 捜査時点と今との一致を確かめているわけですよね。異議は棄却します。
  検察 「子宮を切開した開口部と手やクーパーの隙間から子宮内の様子が見えた事が何度かある。子宮内から血がわき上がるように出ていた」。
  H医師 調書の記憶はほとんどありません。
  検察 記録があるなら喋ったのだろうということですか。
  H医師 そうなりますね。
  検察 「子宮から大量に出血していることが分かった」。
  H医師 書いてあるなら。
  検察 どういう器具だと思ったのか。
  H医師 クーパーかと思ったが断言はできなません。
  検察 「どの時点からクーパーを使っていたのかは分からない。子宮を切開した開口部と手やクーパーの隙間から子宮内の様子が見えた事が何度かある。子宮内から血がわき上がるように出ていた」。
  H医師 特に警察の場合がそうでしたが、こちらのニュアンス的なものを全て断言するような形にされてしまったんです。
  検察 表現がどうかはともかくとして、内容として、記憶に無いことをあるとして述べたことはありますか。
  H医師 ありません。
  検察 「子宮を切開した開口部と手やクーパーの隙間から子宮内の様子が見えた事が何度かある。子宮内から血がわき上がるように出ていた。子宮から大量に出血していることがわかった」という記憶があって説明したと。
  H医師 そうだと思います。
  検察 「実際の出血範囲は分からないが、見た感じの印象として子宮内全体からわき出るように出血していました」。
  H医師 そう調書にあるなら。
  弁護人:主尋問の時点で既に予定時間を30~40分オーバーしています。長すぎませんか。
  検察 反対尋問の内容を受けて、確かめるために新たに質問する必要があります。
  裁判長 異議を棄却します。
  検察 器具を使い始めたことと出血の増減については、今は曖昧ですか。
  H医師 はい。
  検察 捜査当時は「クーパーを使い始めたのと2000mlの報告の前後関係ははっきり思い出せません。ただ、出血が急激に増えてきたのはクーパーを使った後でした」。
  H医師 そういう記憶で言ったのでしょう。
  検察 警察での最初の事情聴取が平成17年4月23日にありましたか。
  H医師 日付は覚えていませんが、警察で取調べを受けたことはありました。
  検察 出血についてどう説明したかは覚えていないということだが、「子宮が壁となって断言はできないがクーパーのように見えた」と。
  H医師 細かいニュアンスは無視され、断言していないところを断言したように書かれました。事情聴取というのは、こういうものなのかと警察に対しては半分諦めていました。
  弁護 員面調書は開示すらしていないのだから関係ないでしょう。
  裁判長 関係ないですね。
  検察 証人の認識として、警察より検察の方がニュアンス的なものを取ってくれたということでしょうか。
  H医師 そうですね。警察よりは。


H医師の証言が
どんどん投げやりになっていくのがお分かりいただけると思う。
そして(1)の時にも挙げた下の証言へとつながっていく。


  検察 弁護人と面会したことはありますか。
  H医師 はい。
  検察 それはいつですか。今年に入ってからですか。
  H医師 はい。
  検察 3月に入ってからですか。
  H医師 はい。
  検察 その時、弁護人以外に誰か同席していましたか。
  H医師 1回目は同席者がいました。
  検察 なるほど2回面会しているのですね。面会は証人から申し出たのですか、弁護人からですか。
  H医師 弁護士さんの方から。
  検察 1回目の時に同席したのは誰ですか。
  H医師 産婦人科のY先生です。
  検察 それはどのような人ですか。
  H医師 福島医大の助教授です。
  検察 その方からは何か話がありましたか。
  H医師 何かと言いますと?
  検察 確認しますが、Y先生は福島県立医大の何科の医師ですか。
  H医師 産婦人科です。


検察は、H医師が圧力をかけられて
あったはずの記憶をなくした、という物語を描いている。
さて弁護側はどうするのか。反対尋問である。


  弁護人 警察から被疑者として取調べを受けましたね。
  H医師 はい。
  弁護人 今まで被疑者として取調べを受けたことはありますか。
  H医師 今回初めてです。
  弁護人 警察の取調べでは半分諦めていたということでしたが、何を諦めていたのですか。
  H医師 細かなニュアンスが無視され、断言していないところも断言したようになっていました。不快な態度も取られ、調書というものは断言した感じに書かれるものなのだろうと。
  弁護人 調書を取られる時に不快な態度を取られたりして、自分が不利益を被るかもしれないと思ったことはありますか。
  H医師 あります。
  弁護人 検察官の調り調べは3月3日で、2月18日の加藤先生の逮捕の直後、ちょっと後ですが、あなたも逮捕されるかもしれないという不安はありましたか。
  H医師 逮捕を覚悟しておりました。
  弁護人 検察官の取調べでも断定したように書かれましたか。
  H医師 警察よりはましでしたが、裁判に使われるとは思わなかったし、裁判で使われるとは知りませんでした。
  弁護人 断定的に書かれたのですか。
  H医師 断定的に書かれました。
  弁護人 警察で話した内容に引きずられて、検察で考えた内容が言えずに不正確になったことはありますか。
  H医師 おおよそ合っていましたが、ニュアンスの面や、断言については微妙です。
  弁護人 現在の法廷での証言では心理的圧迫は無く、記憶にしたがって証言できていますか。
  H医師 はい。
  弁護人 Y先生との打合わせで記憶と違うことを話しているということはありませんか。
  H医師 記憶とは違ってないです。
  弁護人 警察や検察での取調べの時のあなたの心理状態と、公判廷でのあなたの心理状態を比べて、どちらが自由に真実に近く話せていますか。
  H医師 記憶に近いのは今の方です。


検察側が思ったほどポイントを取れなかったと思われるのは
(1)の裁判長質問からも伺える。
しかし繰り返しになるが
なぜ証人が皆、検察のイリュージョンに加担するような
供述調書を取られているのか。
本当に警察・検察が一方的に悪いのだろうか。


最後にこの日の公判でほとんど登壇しなかった女性検察官が
追加尋問を行った。
察するに、この検事がH医師の調書を作成したものらしい。
失礼ながら、このやりとりは、
大人が子どもを「ダメでしょ」と諭しているようだった。


  検察 検察官の取調べで、断定できないところでも断定するように取られたという証言ですが、その場では訂正を申し立てなかったのですか。
  H医師 申し立てたかもしれません。覚えていません。
  検察 自信の無い部分も断定的にされたと。
  H医師 断定的に書かれました。
  検察 調書の内容を確認した方法ですが、まずプリントアウトしたものを渡されて黙読し、同時に検察官が音読するという方法で確認しませんでしたか。
  H医師 はい。そういう方法でした。
  検察 違うと思うところがあれば言ってください、と言われませんでしたか。
  H医師 はい。言われました。
  検察 何度か申し立てをして訂正するところを訂正しませんでしたか。
  H医師 はい。
  検察 その後で清書に署名捺印をしたのではなかったですか。
  H医師 はい。


H医師からすれば
「客観的事実に照らして判断してください。
 照らすべき事実がないなら『疑わしきは被告人の利益に』でしょ」
という心境ではないかと推察する。
だが現在の司法ルールでは
いったん署名捺印してしまったなら、それは証拠能力を持つのだ。
立場を引っくり返した検察側が
(そもそも事件の見立てがおかしいという問題はさておき)
きちんと手続きしたのに、なぜ揃いも揃って証言を翻すのかと、
怒り心頭になるのも分からないではない。


要するに
司法ルールを当然のことと考えて行動している人たちから見ると
医療者の「司法リテラシー」は低すぎるのであり
一体どういう発想で動いている職業集団なのか理解不能だと思う。
トラブルに巻き込まれないためにも
医療者は、もう少し世の中の動きに関心を持って
一般の社会人として振舞うことも考えた方が良いと思う。


ただし、一方の患者サイドから見た場合
医療者に司法リテラシーを求めるのが果たして良いことなのか。
傍聴記を離れてしまうが
なぜにここまで医療者は司法ルールに無頓着で
司法の場でオロオロしてしまうのかという問題と併せて
私なりに考えたことを述べてみたい。


人間が生きていく中で従わねばならない最も基本的な規範は何か。
現在の日本ではほとんどの人が
「憲法」とか「法律」とか答えるのであろうが
少なくとも医療者にとっては(科学者にとっても?)
法律よりも自然法則の方が上位概念ではないだろうか。


社会が(イコール人間が)どんな決まりや約束事を作ろうが
人間にできることなどタカが知れており
できないことはできないのである。
法律で病気が治ったり
まして死にそうな人が蘇生したりは絶対にしないのである。
であれば医療者が日常で学び指針とすべきは
自然法則であり、過去からの経験の集積であって、法律ではない。


医療者は違法行為をしても許されると主張しているわけではない。
医療といえども社会システムであるから
社会のあり方と無関係に存在するわけにもいかず
その目が医療者に対して厳しくなっている現状は否めないのだが
角を矯めて牛を殺すなかれ。
ただでさえ学ぶべきことが多い医療者に対して
司法ルールを学びなさい、法律を第一に考えなさいというのが
本当に社会全体の利益になるのかは考えどころだ。

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コメント

「H医師 警察よりはましでしたが、裁判に使われるとは思わなかったし、裁判で使われるとは知りませんでした。」
とありますが、残念です。世間しらずの「おめでたい医師」の代表かもしれません。じゃ何に使われると思ったのでしょうか。逮捕されると思ったのなら弁護士さんを雇って、調書とは何かくらいは勉強しておくべきです。他のスレで私が主張したことです。

「とにかく警察調書、検察調書には簡単に署名するな! 」

 私は、いろいろなところで、「警察調書、検察調書には簡単に署名するな!」と散々いっていますが、1 00回口でいってもなかなか理解してもらえません。このH先生がやるべきだったことは、調書が作成されたら、「手にとって読んで、少しでも気にくわない部分があった ら、警察や検察に着き返して、ワープロで打ち直させるまでは絶対に署名しない。100回でも200回でもつき返して、何時間かかって徹夜してもやりとおす所根性をもってや る。」ことです。
私は、午後から初めて午前様になって午前0時40分ころに署名してしまいましたが、完璧ではありませんでした。遅くなったら、「今日は遅くなったので、署名しないで戻りま す。」というべきでした。
これだけいっても皆さんは理解できないでしょうが、それくらい大切なことです。
このことだけでも一冊の本を書きたくなります。
とにかく、一箇所でも気になるところを修正しないで署名すると、人生がめちゃくちゃになりますので、粘ってやるべきです。これには相当の根性が要りますが、重要なことです 。何回でも繰り返します。
「警察調書、検察調書は、手にとって繰り返しゆっくり3回以上は読み直して、ちょっとでも気になるところは、100回でも200回でもつき返して、ワープロで修正してもら う。自分が書いたような調書になるまで、100%納得いく文章になるまで、絶対に署名するな!その場のいやな雰囲気に負けず、根性で修正させる。修正しないなら、署名しな いで、帰宅しろ。」

これだけいってもその重要性は通じないと思いますが・・・。

このスレを見た人で、被疑者や参考人になった人がいたら、警察や検察に行く前に私に相談して欲しいと思いました。

「やってしまえ」という会話を「殺ってしまえ」と調書に記載され、殺意を認定されそうになった話を読んだことがあります。検察のストーリーに沿うように調書が書かれ、署名をすると証拠となるので、安易に署名するなと教わりました。ただ、当事者となった場合に、どこまで突っぱねられるかどうか・・・。

>麻酔記録を見れば分かることを
事件後2年以上も経った記憶と照合させる

検察側が押収した胎盤の写真を示さず、助産師の記憶でデフォルメされた絵を描かせて証拠としようとしたというのもありましたね。

科学的に確実であることが明白な証拠は採用せず、真実は無視して自分たちの筋書きに都合のいい手段で裁判を進め勝ちを収めようとする・・・裁判とは文系の人たちによるゲームなのでしょうか。
裁判官も検察官もこのようないい加減なやり方で他人の人生を左右するという傲慢な行為に何の疑問ももたず、それを正義だと信じているとしたら誠にお気の毒です。またその理不尽なゲームで稼いだ給料で養われる家族も哀れなものです。何の疑問もなくこのようなことが繰り返されているとしたら、医師と種類は違いますが賤業の類かもしれませんね。

「医療の密室性」とよくやり玉に挙げられますが、「公判」中の具体的なやりとりの詳細が「公」にさらされるのを忌み嫌うかのような執拗な録音禁止の注意は、逆に司法の密室性、閉鎖性を感じさせます。へんてこなルールのゲームの状況が外部にも漏れちゃまずいんですかね。人間業とは思えないメモ書きの皆様、GJです。

裁判は心証次第でどっちに転ぶか判りませんから、死と隣り合わせの医療という仕事は、刑事告発されれば有罪の可能性はいつでもありますね。

私のブログ内でリンクを貼らせていただきました。また、トラックバックさせていただきました。

>紫色の顔の友達を助けたい先生
大変実感のこもったコメントありがとうございます。
短期的には、先生のおっしゃるような対応が必要だと思いますが
それが我々患者側にとって良いこととはとても思えませんので
こうして異議を唱えていきたいと考えております。


>グランドスラム様
コメントありがとうございます。
本当ですよね。
イザその場でどこまで頑張れるか。
でも、その後の苦しみを考えたら
間違いなく正念場になるということ
つくづく感じます。


>so先生
コメントありがとうございます。
患者が医療リテラシーを上げなければならないのと同じように
市民は司法リテラシーを上げる必要があると思います。


>bamboo先生
コメントならびにトラバありがとうございます。
マスコミが医療バッシングを始めたのと全く同じように
司法バッシングを始めてもおかしくない
そんな素地はあると思っています。
もっとも
そこまで根性のあるメディアは、今のところマスにはなさそうですが。


普通のひとが「調書にサインしない」ってのは大変だと思いますよ。「今日はこのくらいで帰ります」って言ったら逮捕されるかもしれないと思うんじゃありませんか。嫌な場面から一時も早く逃れたいのが人情ですし、そこを利用して検事も警察官も都合のよい供述調書を押しつけようとするのです。今回も、検察が「医師の逮捕」という衝撃的なカードを十分に使って証言を誘導していた構図がかいま見えます。医療問題に限らず自白優先の刑事捜査が問題で、こうした行為を野放しにしたまmでは警察検察による冤罪や事件のねつ造は無くならないだろうと思います。

川口様ご意見有難うございました。「短期的には、先生のおっしゃるような対応が必要だと思いますが
それが我々患者側にとって良いこととはとても思えませんので
こうして異議を唱えていきたいと考えております。」
→多様な意味でよく分かりません。
①「短期的には、」という意味がよくわかりません。短期も長期もないと思いますが。私は普遍的に正しいと思っています。一回でも警察、検察に調書を作成してもらったことがありますか?経験しないとわからないことも沢山あると思います。
②「患者側」とか「医師側」という概念が私にはわかりません。人権を尊重する態度からすれば、「患者側」も「医師側」もないと思います。権力によって人権を侵害されないためには、「患者」だろうが「医師」だろうが、警察や検察による誤った調書を作成させない態度が極めて重要だと思います。医療事故に限らず、被害者も被疑者もその人権を侵害する国家権力には対峙しなくてはなりません。メディアが権力の走狗にってはいけません。朝日新聞社出身だからというわけではありませんが、川口さんは個人の人権を
尊重する方と存じあげますが、いかがお考えでしょうか。

>象さん様
コメントありがとうございます。
そうですね。自分がその立場だったら
どれだけ頑張れるかを考えると
個々で頑張れという前に
証言偏重の現在の司法を転換させるべく、声を挙げる必要がありますね。

>紫色の顔の友達を助けたい先生
コメントありがとうございました。
私が目的語の明確でない文章を書いたために
混乱させてしまったようで申し訳ございません。
先生のご質問にお答えする前に
舌足らずな部分を補っておきますと
私の基本的な考え方はブログ本文にも書きましたように
「医療者が司法ルールに精通していないとババを引くような世の中ではなく
専門的職業人として最善を尽くしたなら受け入れ許容する世の中の方が
全体の利益は大きいのでないか」というものです。
書きました「短期的には~必要」は、
医療事故に対する理不尽な摘発が止まらぬ限りにおいては
医療者も自衛する必要があるという意味でして
医療者が自衛的になるのは決して「患者側」にとって望ましいことではないと思うので
医療への司法の過剰な介入へは「異議を唱えていきたい」ということです。
ご質問いただきました国家権力との対峙に関しては
おっしゃる通り「短期的」も「患者側」もないと考えております。

第三者供述調書(検面調書)に刑事訴訟法321条1項2号後段で証拠能力を認めているのは事実。しかしこれは世間の常識とは言いがたい。伝聞証拠の例外とすることについては 日弁連会長の反対声明も出ており、人権上おおいに問題があるとする識者も多い。会長声名を一部引用する。
(以下引用)

「このように、捜査段階における供述の任意性・信用性をめぐる審理に時間がかかるのは、現行の刑事訴訟法が伝聞証拠の排除を徹底せず、321条1項2号後段で、一定の場合に第三者の供述調書について証拠能力を認め、他方322条1項で原則として自白調書に証拠能力を認めているため、捜査機関が自白等の獲得に力を入れるところ、それが密室でなされているので、後日、取調べ状況を客観的に検証できず、捜査官と供述者の尋問が延々と続くからである。

したがって、この問題を克服するためには、根本的には、伝聞証拠の排除を徹底するべく、同法321条1項2号後段と322条1項を改正し、調書の証拠能力を厳しく制限する必要があり、また、取調べの全過程を録画または録音するなどして可視化し、客観的に検証できるようにすることが必要である。」
ーーー引用ここまでーーー

調書の内容を否定する証人が多い理由はすべてここにあると思う。医療裁判特有の問題ではまったくない。プラスするなら医師が法律に無知(というより伝聞証拠禁止の例外に無知)であることと、大原則の例外をフル活用する検察の人権意識の低さが原因である。

「検面調書の証拠能力」に何の疑問も抱かずに当然の前提として立脚する議論はいかがなものか。

川口様の考えに共感いたします。法律は国により時代により権力を持つ人間の都合でコロコロ変わるものです。対して医学は経験的知識に裏付けられた自然科学でコロコロ変わることはありません。一度地動説が認められれば例え宗教や政治が圧力をかけても天動説に戻ることはないのです。
自然科学によると人は100%死にます。今まで例外がありません。一方法律はその根幹である憲法さえも改正が可能なのです。「人を殺してはいけない」という法律でさえも為政者次第では違法でないのです。また裁判官は数々の冤罪も作っています。例外だらけなのです。法治国家に生きているとはいえ医師の思考の基盤が自然科学である医学に立脚してしまうのも自明であると思います。
医学の素人である裁判官や検事が産科手術のことを、あれこれ尋問する記事を読ませていただくにつけ、とても滑稽に感じてしまいます。医師にいくら遵法精神でといっても、つい自然科学的に判断し行動してしまいます。緊急患者を目の前にしたときに法律に照らして心マしたり挿管したりすることはできないでしょう。医師は100%死に至る存在である人間を相手に自然科学で介入する職種なのです。法律関係の皆様にはどうしてもこの自然科学という視点が理解してもらえません。
実際の法廷でのやりとりを福島県立大野病院事件ほど詳細に知ることができたのは初めてなのですが、自然科学的な視点が全く欠けたやりとりということが確信できました。
これほど不毛な裁判もないでしょうし、医療者側も法曹側も何も得られないように思えます。自然科学を法律で記述することは不可能なのです。

初めまして、45才婦人科医です。

拝読いたしました、最後の所、まったくその通りで、私としては、「一部の人間が勝手に法律という名の文章を作って、すべての人間はそれに従わなければならないって、おままごとをさせられている」ように思えるのです。

抜け穴だらけのいい加減なものや、実際には守りきれないものを作っておいて、それに反していなければ、公にならなければ、常識で考えておかしいことでもおとがめ無し。(事務所費の問題とか、スピード違反の問題とか)

英語で書くとどちらもlawなのがとても不思議です。
the law of gravityとかは誰も逃れられない自然法則で、普遍で不変です。
公務員が兼業禁止だっていっても、緊急時に近くの開業医を助けに行くのもいけないっていだしたら。。。
 しかし所詮法律なんてものは人が作ったもので、国が変われば、あるいはこの間まで大丈夫だったものがいきなり違法になったりするんです。そんないいかげんなものに。。。

というメンタリティで、いままでは不安がる妊婦さんに「後のことを考えると下からの方がいい」、といって(本人の希望する帝王切開でなく)下からのお産(経膣分娩)を勧めていたわけです。

「当直は労働時間に含まれない」といわれれば、それを信じ、「(何かあったら呼ばれる)オンコールは拘束時間に入らない」といわれて、次の日も通常の勤務を続けてきたわけです。
「労働基準法なんか知らない」と言って、、

おっしゃるとおり、我々にはもっと司法リテラシー(そして政治リテラシー、マスコミリテラシー)が必要なようです。(看護師内診問題ではいかに我々産婦人科医が政治に疎いかが痛いほどわかりました)

それは医療を今以上に危機に陥れると思いますが、我々にリテラシーがないといって 専門バカをつるし上げた当然の報いなのだと思います。

法律の知識なしには医業が続けられなくなる時代が来てしまったのでしょう。将来は法医学の授業で「医師が逮捕されたらどう対応すればいいの
か」講義を受ける時代が来る
のかも・・

今回のような事件が注目を集めることで医師の法律や裁判に対する関心が高まる効果は計り知れないものがあります。このブログの閲覧数がどのくらいか分かりませんが、医療関係者からもかなりの注目を集めているのではないでしょうか。逮捕された先生はお気の毒だと思いますが、こうなったら今回の裁判をもっと多くの医師・医療従事者に注目して欲しい、その中で今の医療裁判の問題点や医療現場の問題点がどんどんあぶり出されてくればいいと思います。そしていずれ検察・警察もそれなりの批判と報いを受けるときが来るでしょう。

大量出血の予見性があったと断定主張しているだけで、これまでその内容の立証証明がない、これでは証明責任は果していない。裁判官と検察が初心者の助産師に見てきたような嘘を言わせている。胎児が娩出後臍帯を切断し、母親に児を面会させたのち、本人と胎児は別の部屋にいるはずである。胎児計測、胎盤計測を行ったら、出血が多い、臍帯を引っ張ったらテント状(経膣分娩の胎盤娩出)、県立医大の前置胎盤だとか全くの嘘であり、関係ない。麻酔の先生についても、麻酔と血圧、心拍、呼吸、輸血、輸液など自分の仕事を証言すればいいのに、子宮の出血が風呂のわくようなとか、子宮の収縮や前置胎盤、卵膜遺残(?)胎盤用手剥離、クーパー胎盤剥離を専門家でもないのに、平気で解説しているが、産婦人科の先生のようですね。これも麻酔科の先生を検察がはめたのか?帝王切開はK先生の診断と治療であり、その手術の証言はK先生だけに許されるのである。助産婦や前立ちの外科医、麻酔医が専門外の証言するべきことではない。帝王切開では、癒着胎盤であろうがなかろうが胎盤用手剥離は第一選択行為であり、その後クーパーを使うのに文句を言われる筋合いはない。K先生自分の診断と治療、手術を証言すればいいのです。この病院は検察の言いなりになり、K先生の敵である。K先生頑張ってください、これからです。

>いのげ先生
ご教授ありがとうございます。
たしかに法廷で見ていたら、なぜこんなことが許されているのかと思いますね。

>トレッドノート先生
コメントありがとうございます。
法律が一種のフィクションであることを
法律家自身はよく知っていると思いますし
そう思いたいです。

>お産はやめました先生
コメントありがとうございます。
ロハス・メディカル本誌で連載していただいている鈴木寛参院議員の言葉です。
「世の中には、ルールを守る人間、破る人間の他に実はもう一種類いる。作る人間だ」
法律というのは所詮、人がその属する集団の利益のため(その集団が過半数を占めるなら正当な行為)、作ったルールに過ぎないのだと思います。
国民大多数の利益に反するものは
変えればよいのです。

>象さん先生
コメントありがとうございます。
警察・検察だけでなくメディアも
気づいている人は気づいているのでないかと思います。
実際、そんな話も聞きます。

>やま先生
コメントありがとうございます。
傍から見ていると
立証できていないように見えますが
最後はあくまでも心証なので
検証し続けないと余談を許さないと思います。

他で指摘されましたが 引用した日弁連会長コメントはリクルート事件判決についてのもので その後平成16年に刑事訴訟法改正があり322条も項目追加がありました.
ざっと条文を読む限り 上記の論旨を変更する必要なさそうに思いますが 正確なところは専門家で無いのでわかりませんです

「最後は心証」について、そのとうりだと思います。しかし、裁判官も検察も医師免許のない、ド素人で産科の専門家でもない者たちが癒着胎盤・帝王切開・母体死亡について、机上の空論を戦わせています。しかも、この裁判の争点は主張だけで、立証証明はない。では、この検察が裁判官の心証形成をうるために、これからどのように立証証明を書くのかが楽しみである。この争点は<1癒着胎盤の部位と程度、2出血の部位と程度とその予見性、3死亡したこととの因果関係、4胎盤を剥離したこととの妥当性、つまり、クーパー使用の妥当性、5・・・・>であると主張している。過失の要件は検察が立証しなければならない。過失とは、<予見>・回避義務と<死亡との因果関係>を記載することである。これまた予見性の主張の記載はあるが回避義務がない、回避義務の主張立証なくして、検察の得意な過失を論ずることは出来ない。次回は院長、看護師の証人尋問と思うが、医師法にてらしても、産婦人科医自身が決行した診断・治療・手術を侵してはならない、この医師に過失があると裁判になっているのである

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