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投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2007年04月30日 15:02 |
良い天気だというのに
シコシコと学術会議分科会の傍聴記を書いておりました。
つい先ほど
ようやく書き上げたーと思ったところで
保存の際に誤って消してしまいました。
私の何時間かを返して。。。
ということで気を取り直して書き直します。
福嶋委員が、議論の内容が腑に落ちないようで
質問を繰り返しているところから続きです。
福嶋
「メディエーターとは?」
和田
「紛争当事者の話し合いの仲立ちをして
交通整理をするような中立的第三者」
福嶋
「中立という、そういう人は実際にありえるのか」
和田
「米国でもメディエーターは活躍しているが
中立ではなく不偏という言い方をしている。
つまり患者と話をする時は患者に歩み寄り
医療機関と話をするときには医療機関に歩み寄る。
実体としての中立ではなく
プロセスとしての中立である」
福嶋
「どのプロセスから介入できるのか。
事故が起きてからか。
医師患者間の関係が怪しくなってからか」
和田
「院内で当事者どうし話し合いするのが第一。
患者さんが院内では、どうにも話がつかないと思ったとき
ADRへ来てもらえれば。
院内で話し合いがつかないからといって
いきなり訴訟に持って行きたいという患者さんは
そんなに多くないと思う」
福嶋委員、ここで初めて我が意を得たりという感じで頷く。
「評価と事故解明はどう違うのか」
和田
「厚労省の事故調は死亡事故に限るし
医学的な事実究明にとどまるだろう。
ADRを用いた場合の中立評価は
当事者どうしではどうしても決めきれない部分に関して
第三者の意見を聴くという形になるので
いわばオーダーメードというか、対象がもっと幅広いだろう。
法的なしばりにとらわれるものでもない。
というのは、ADRで納得できなければ
訴訟に持っていくという選択肢が残るので」
福嶋
「評価の実務は大変な作業だ。
カルテが全ての面があって、証拠保全できるかが勝負になる。
ADRでは証拠保全の手続きを代行するのか」
和田
「法的権限がないので現実的には難しい。
ただし、医療機関に対してカルテを出してくださいと言って
出してこなかったら、そのことを報告書に書けばよい。
それだけでも患者さんにとっては
次のアクションを起こすような情報になる。
訴訟に持っていかないでもと思っている人を
訴訟に追いやることになるので
実際には医療機関もカルテを出すと思う」
福嶋
「医療機関がガードしちゃうということは起こりうる。
証拠保全する場合には
病理標本まで間髪入れず一気に押さえないといけないのだが
その辺、弁護人によっては知らない人もいる。
そういった知識を市民サイドが知る必要もある。
実務的には自動的に証拠保全され開示されないと難しいのでないか」
黙って聴いていた中村委員が話に割って入る。
「弁護士の立場から言わせてもらうと
東京三弁護士会でもADRを是非やりたい、という話になっている。
背景事情として、医療訴訟が増えて
医療機関がカルテを隠さず、すぐ出してくるようになったことがある。
だからADRにも出てくると思う。
情報が出てくるなら訴訟までしなくてもという例は確実にある。
もう一つの背景として
訴訟で得られるのは損害賠償に限られるが
患者・家族のニーズはそこにとどまらないので
何らか別の方法を持ちたいというのもある。
そういう意味では証拠保全は全体の一部に過ぎない。
あまり過大なものをADRに盛り込まれると
患者も医療機関も満足いかないものになって
かえって訴訟が増え、医療崩壊を加速させかねない」
長谷川委員も続く。
「福嶋委員が先ほど院内メディエーターが機能するのかと
疑問を呈したのは
病院の人間を信用して口をきいてくれるのかという意味だと思う。
我々の経験から言うと
診療科とは別の医療安全部の人間が歩み寄って
もう一度話し合いのテーブルにつきませんかと提案すると
7割から8割の方は、話し合いに乗ってみたいと言う。
もちろん一切口もききたくないという人はいるが、それは仕方ない。
福嶋委員が対峙してきたのが
カルテを隠す、ウソもつくという特にヒドイ病院だったのではないか。
現在は医療機能評価でもカルテ公開が原則になっている。
メディエーターという言葉が良いかは別にして
謝罪がキッチリされた後で
でも賠償額を当事者だけでは決められないというような
場合は確実に存在するので
かなりワークするような印象を持っている」
福嶋委員が反論する。
「私が関わってきた医療事故の6割以上が
大学病院や何とかセンターとかの基幹病院で起きたものだ。
医療事故情報センターでは
これまでに1000件の鑑定書を書いており
これは医療訴訟全体の1割にあたる。
最近では、その割合が2割から3割までに上がってきており
決して特殊な事例だけが集まっているわけではない。
その中身も
埼玉医大で添付文書も読まずにオンコビンを毎日注射した
というような医療の名に値しないものが数多い。
この裁判の最高裁判決で
添付文書を読まずに薬剤を投与して傷害を与えたら
業務上過失に問われることもあり得ると書かれており
そのことを教えても
じゃあ今日患者さんに投与した薬剤の添付文書を読んだか
と聴くと、半分が読んでいない。
これほど傲慢なことはない。
医療事故にはそういうものが多い」
長谷川
「大学病院には確かにそういう面が残っているし
だいたい医療機能評価すら取っていないところも多い。
機能評価にどれだけの意味があるのかの問題はさておき
自らを正そうという姿勢に欠ける点は間違いないだろう。
しかし大学病院の改善というのは
医療界自らが取り組まないといけない課題であって
それと今回の議論とは少し違うのでないか。
当事者だけでは話がつかない
かといって訴訟に訴えても解決しないという
中間地点の受け皿がない現状は確かにあるのだから」
福嶋
「最初にバーンと謝っちゃって
その後で第三者を入れれば大抵のことは済む」
長谷川
「きちんと謝る場がない。
謝らないから第三者も早期に関与できない」
福嶋
「それはおっしゃる通り」
和田
「経営母体である
国や自治体が前面に出てきてしまうという背景はないか」
福嶋
「主治医が謝りたいと言っているのに
お前はもう接触するなと言われてしまう例が結構ある」
長谷川
「訴訟対策と称して病院側の弁護士が止めることも多い」
中村
「先ほど医者の教育の問題が出たが
弁護士の教育の問題もある。
弁護士会でADRやりたいと言っているが
実はADRについてやったことがない。
それなのに研修一日だけやったら明日からでもやりたい感じだ。
前提が違う、訴訟とは全く別物なのだ
ということをハッキリさせないといけない」
福嶋
「すごく大事なことを伺った」
和田
「ADRをやる際、契約の問題として
情報公開しないと受け付けないことにするのはどうか」
中西
「賛成。現在のモデル事業でも
遺族のケアを行うことがお題目には入っているのだが
その役割を担うべき調整看護師が
解剖への承諾を得ることだけに追われている。
解剖が済んでしまうと
当該医師にも会えないしカルテも見せてもらえないので
全くケアすることができていない。
手続き論として入り口に情報公開を組み込んでしまうことが必要」
中村
「ADRに乗るか乗らないかは当事者に任されている。
情報公開しないなら訴訟へ行ってくれという
入り口の設計はあり得るのでないか」
手嶋
「先ほどの福嶋委員の発言だと
対外的に高い評価を受けている病院ほど偽造までするという。
ならば出てきた情報の偽造を見抜くことができなければ
作り上げられたストーリーに乗ってしまうことにならないか。
強制的な手段も必要ではないか」
中村
「弁護士の立場から言うと
証拠保全だけ先にやってしまって
ADRを使うか訴訟を使うか選ぶこともできる。
ADRの手続きの中で連動させる必要はないのでないか」
廣渡
「先ほど中村委員が言ったことの確認をしたい。
事案解明機関は医学的なことを扱い
裁判準拠型ADRは法的なことを取り扱う
もっと人間的というか心の問題を取り扱うのが
対話型のADRで、この対話型の場合だけ
メディエーターが必要になる。
こういう整理でよろしいか」
中村
「それでいいと思う。
今は裁判しか手段がないし
解明機関ができたとしても
事案解明されれば全て紛争が解決するというわけではない。
入り口部分で一番ニーズが大きいのは
最後の人間的な部分だと思う」
廣渡
「入り口部分から代理人がつくのか」
中村
「ついても構わないと思う。
ただし代理人が弁護士だと
どうしても訴訟のイメージになりやすく
あなたの損害はいくらだから、それで納得しなさいとなりかねない。
ADRの代理人はサポートに徹するんだと
役割意識を変えてもらう必要はある」
廣渡
「メディエーターにはどういう専門性が必要なのか」
和田
「日本でも医療機能評価機構が2004年から養成を始めている。
分析手法とか交渉論、カウンセリング論、心理学などが
寄せ集まったような人間論がベースになる。
ただし、人間論だからといって
患者・家族の法的権利が蔑ろにされてはいけないので
入り口段階でアドボケーターのような人が
そういった知識を知らせておく必要はあると思う。
東京弁護士会がやろうとしているのは対話の部分が弱い」
廣渡
「病院の安全部は本来の意味でのメディエーターではない?」
長谷川
「そういう言い方はしていない」
廣渡
「苦情相談窓口のようなものか。
病院の費用で独立に作れると良いのかもしれない」
福嶋
「皆さんのお話はmake senseだと思う。
裁判準拠型のADRだったら要らないと思っていた。
様々なニーズに柔軟に対応できるようしないとワークしない」
どうやら議論に納得したようだ。
中西
「苦情相談窓口ではない。
それとは別の院長直結システムにするのが一般的。
医療側がおかしなことを言っている場合に見破る必要があるので
医療の専門を持つ人がよい」
長谷川
「実際、診療科に気兼ねなく動けないと機能しない。
また複数の診療科にまたがるような場合も多いので
調整できるような権威も持たないといけない」
和田
「第三者機関を作ったとき
誰に任せたらよいのかという問題は残っている。
弁護士だと医療側がごまかそうとしたときに見破れない。
かといって医療者だと
中立性がどうなのだろうということになる」
中村
「弁護士にしても
患者側と病院側で二極化しており
第三者的な人材はいない」
長谷川
「カルテを見れば大体分かる。
1人では問題があるというなら
医師を2,3人集めてカンファレンスさせればいいと思う」
福嶋
「私の場合、証拠保全されたカルテをレビューして
ザっと10分も見れば、どこに問題があるのか大体分かる。
時間がかかるのは訴訟に勝てるか考えるところ」
和田
「ほぼ時間になったので今後の作業日程を打ち合わせたい。
新メンバーが加わるのだが
ADRに関して粗粗に中間報告するとともに
長期的な視点でどんなことが必要か検討するということで
よろしいか」
福嶋
「中村委員、長谷川委員、中西委員のお話を
それぞれの経験に基づく具体的な話として伺った。
私の今までの経験と洞察から見ても
ワークするとイメージが湧いてきたので
ぜひそれぞれの具体的な話をもう少しきちっと書いてもらえないか。
当初の分科会発足の趣旨に立ち返って
暫定的な報告書をいったん作り
それを医療サイドと詰めるということではいかが、か」
和田
「ではADRに特化した形で提言をまとめ
次回、新メンバーも参加したところで
ご承認いただくという手はずにしたい」
前回の厚労省検討会と同じ2時間だが
当初あった委員相互の意見の食い違いが
見事に収斂していったのがお分かりいただけると思う。
同じ傍聴記を書くのでも、こういう建設的な方が楽しいな
こんな感想を抱きながら、ぶらぶらと帰途についたのだった。