安心と希望のビジョン会議9

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年05月30日 16:40

めちゃくちゃ面白かった。
まずはビジョンの骨子案をご覧いただきたい。





























では、今回もハイライトの大臣発言のところから順次遡る形式で行ってみよう。


舛添
「次回で最終回になると思う。ここからは矢崎先生おっしゃるように、どうやって現実のものにしていくか、毎日のように議論している。政府の方ももうすぐ骨太の方針が出てくる。私も内閣の一員として全面的の対立するわけにはいかないが、しかし何とかこのビジョンの裏づけをしていきたい。

その際に3つの原則を貫きたい。規制強化はダメ、中央集権はダメ、改革の努力を怠ってはダメ、の3つだ。

最初のは、要するに金は出すが口は出さないということ。いやしくも、このビジョンが、政府や厚生労働省の権限を強化するものになってはイカン。箸の上げ下げまで厚生労働省が指示していたから、謝るのまで全部厚生労働省がやらされるんであって、後期高齢者医療制度の保険証を送付ミスしたなんてのは本来市町村の責任で恥ずべきことのはずなのに、指示がちゃんと来なかったと開き直られる、そういうのはもう絶対に反対。それから医師会のような利益団体の権益強化にも絶対に反対。要するに国民の視点でやれということに尽きる。私はどこの利益団体の支援も受けていない、まったくのフリー。そういう大臣のもとでしか、こういうことはできない。いやしくもこれを元に一つの団体が自らの利益を図るなんてのは断固反対。というのも、ずっと医師確保の議論をしてきたが、医師数は十分にいる。強制的に離島でも何でも連れていけばいいじゃないかという意見もある。そんなことできますか。すべきでない。権限があるからといって強制するんでなく、インセンティブをつけるのは構わないが、パニッシュメントで強制はダメ。スキルミックスについても、厚生労働省の方針通りにやりなさいというのはダメだ。

次に地域に任せるという話は、私もそうだが厚生労働省の中にいて地域の実情が分かるはずがない。現場重視ということ。北海道と沖縄とでは当然やり方が違っていいはず。最低限のことだけ決めて、あとは地域に任せましょう。現場の意見を優先して、役人の声、大臣の声は後回しにするということ。

最後のは、これが出たからといって何でもかんでも金がつくと思うなということ。医療費の無駄を省く努力は続けなければならん。たとえばジェネリックをどうやれば使うのかとか、たとえば医療機器が欧米に比べて高いと言うのなら、なぜ高いのか、誰かが途中で何かしているのなら、その規制を緩和すればよい。そういった努力をせずに、ただ金をくれでは通らない。2200億円の枠を外すのにも理解が得られない」


非常に大きな声で一気にまくし立てた。大臣の正面で聞いていた厚労省の中堅幹部たちの表情は超合金のように固まっていた。どうやら、こんなことを言うとは、全く思っていなかったらしい。


大臣の話はまだ終わらない。
「ビジョンの中身には財源がないとできないもの、なくてもできるものがあって、財源がないとできないにしてもでは一体いくらかかるのかの精査が必要。医師の増員は何人でいくらなのか、スキルミックスに看護師を養成するとしたらいくらかかって、何人養成するのかという精査だ。それとは別に柏原病院のようにお金かかっていないけれど医師が救われたというもののある」


ここで口を挟むのは何だが、『県立柏原病院の小児科を守る会』の方々は、活動費をフリーマーケットで稼ぎ出している。役所から金が出ていないだけで、まったくお金が要らないわけではない。そこは勘違いしてもらったら困る。まあ細かいことだ。報告に戻ろう。


舛添
「タイムスパンの概念も若干必要だろう。1年間でやるのか、3年でやるのか、5年でやるのか。今、緊急にやるべきことをやるべきで、ノンビリ10年計画なんて作っている場合かというご意見もあるが、矢崎先生もおっしゃったように医療提供体制の構造改革がない限り、医療の将来は暗黒だ。そうならないんだとこれからの人に見せるためには絵姿が必要。今のような状況なら医師になるのをやめよう、産科医になるのをやめようと思っていた人たちが10年後にこんな状況になるならやってみようと。目先をやるのが政治家だなんてとんでもない。長期ビジョンがないから、毎年同じことばかり繰り返して、どんどん人が減ってしまうのだ。

さて、このような私の方針に対してご意見をいただきたい」


お読みいただくと分かるが
大臣から予想だにしない発言が出たためだろう。
この後しばらくアドバイザリーボードの委員たちの発言は
大臣の問いかけと噛み合わず、取りとめないものになる。
結果として見れば、3原則は承認されたということになるのだろう。


野中
「言われていることは大事。繰り返しになるが、地域医療計画できちんとすべき。救急をどうやって受けるかも大事だが、どうやって地域へ戻すか、描いてなかったことが問題。医師会が提案していく作業だろう。地域と住民の安心をつくるという観点からは、救急車をどう活用するかも大事。どの病院に連れて行くのか行かないのか前もって決まっていて現場で即刻トリアージするべきであり、病院が決まらずに現場で15分も20分も止まっているのは非効率だ。それから救急と同様に、急性期病院からどうやって退院させるかも医療計画に欠けていた。

看護師の人員配置の問題も書いてあるが、今の診療報酬では配置できない。

逆の発想で、患者が退院した後どうするのかから必要な医療やケアを積み上げて、医師数や看護師数が足りているのかいないのか考えていかないと。外国から人を入れるという話が出ているけれど、安く雇うためというなら変だ。必要な数だから入れるというのでないと。要するに何が言いたいかというと、医師数増だけでなく他職種についても考えていただきたい」


矢崎
「先ほど、国民の不安を解消するには二次救急が大事だという話になった。しかし実際には二次救急病院だけ確立してもダメで地域のネットワークが必要。そのためには診療所の先生の努力が必要だろう。しかし現状では診療所の医師はたいてい1人であり、休日や夜間も診療するのは無理。それに、かかりつけ医にしている人でないと、住民からは顔の見えない存在だ。だから診療所の機能強化と言った時に個々の診療能力を上げるのでなく、医師会がそういう取り組みを始めていると思うが、複数医師によるグループ診療で、かつ病院と連携してサテライトとして機能するようなものにしていく必要があると思う。

病院から勤務医が辞めるのが大問題になっているわけだが、病院を立ち去った後でどこへ行っているのか実は分からない。ビル診になって医師会とも関係なくなっているのかもしれない。せめて病院から出る開業医だけでも、受け皿として専門的な研修を施して、病院と関連しながら関与する仕組みが必要でないか。それから診療所へ逆紹介しても患者さんが行かない。病診連携だけでは解決できない。だから、病院から行く時の受け皿をどうするのか、そういうことも考えていただきたい。

ムダを適正化する所があるというお話だったが、大きなものは高齢者療養病床、医療型の高い入院をしていることだろう。だから厚生労働省が35万床(ママ)を15万床に減らすと言っていたわけだが、実はこうした病院のほとんどは200床以下の私立病院であり、我々国立病院であれば厚生労働省が減らすと言ったら「はー」とすぐ削るけれど、私立ではなかなかそうもいかない。結局ウヤムヤになりそうだ。というのも難民を作らないためには受け皿がない限り難しい。今は、こういうことを診療報酬の世界でやっているが、あっちを削って、こっちに付け換えてということに過ぎない。利益相反とか交渉による取り合いとかの側面もあって、中医協の役割というのが、政治で総枠が決まった後で中の配分をやっているだけなので、利益配分には別な形のものも将来には検討し直してもよいのでないか。こんなこと言ったら僕は刺されちゃうかもしれないけれど」


3原則に異論を唱えるどころか
『聖域』中医協の見直しという新たな爆弾まで飛び出した。
大臣、これを聞き逃さず、さらに追い打ちをかける。


舛添
「私も中医協の役割はそろそろ変わってよいのでないかと考えている。透明性がない。私も刺されちゃうかもしれないが。

もう一つ、ケンカする気はないけれど、医師会や看護協会は何をしているのか、このビジョンにも1行も言及がない。本来なら職能団体が果たせる役割は大きいはず。国民から乖離した利益団体は存続できない。自己改革が必要だろう。そんなことしているから選挙だって落ちるのが当たり前」


辻本
「大臣のおっしゃることはごもっともと思う。地域主体にすれば、地域の住民が興味を持つきっかけにもなるので大きな意味があるだろう。ただし、国の責任放棄じゃないのという不安はある。一気にそうするんじゃなくて国がサポートする必要はある。でないと地域格差ができてしまう。既にがん診療拠点病院でも地域ごとに温度差がだいぶある。プロセスとしてサポートが必要だろう。で、サポートの中に、評価委員会システムの充実を国が主導するような中間システムづくりのようなものもあると思う。一気に地域に放り出すことはやめていただきたい」

ここまで来てようやく3原則への注文がつく。


が、舛添
「ただやっぱり全部中央が決めている歪みは出ている。周産期医療センターを作れといって、それで安定したか、かえってセンターのない宮崎県の方が良かったりする。だからミニマムは守りますよ、あとは地域で実情に合わせて決めてくださいとするべきだと思う。その場合、市町村では受け皿として小さすぎる。都道府県ではどうか。後期高齢者医療制度がまさにそうだけれど、まだ小さいと思う。九州で1個、四国で1個という道州制なら何とかなるんじゃないか。北海道と沖縄とでは気候が全然違うのに、同じ基準でやれという方がおかしい。大まかな最低線だけ決めて、後は実情に合わせて加減してもらえばいい。ただ、やりたい時にお金がないでは地域も困るだろうから、お金は国がきちんと出しますよ、それが国の役割だろう。

そろそろ国の形を変えないと、どっちからも文句が来る。せめて道州制なら随分変わるんじゃないか。今言われた意見につながることとしては、ミニマムを守るのは当然。しかし、そのために私の思っているのと逆の方向に行くのはどうか。若い医療提供者たちがこれから一生懸命取り組んでもらうためにも、夢があるなあと感じてもらうには、絶対にそう思う」


松浪
「私の専門の道州制に振っていただいて感謝したい。自民党の部会でも、権限、財源、人間の3ゲンを移譲して10年後には道州制へ移行する考えで、その時に政権があればの前提だが、動いている。権限と財源だけではノウハウの点で不安がある。厚生局単位での移譲といったこともビジョンに書き込んでいただくと、未来がすっと見えて、新たな姿が見えるのでないか。

矢崎先生のおっしゃることに大変共感する。勤務医が少なくなったときに、どうやって川中をつくれるかだろう。自律的に病院と診療所との間を取り持つ仕組みも検討する必要があるだろう。

それから9回の議論では限界があった。積み残した課題をどうするか。たとえば大臣もおっしゃっていた医療と介護の線引きの問題、今回は介護現場の方からヒアリングできなかった。ひきつづき検討していってほしい」


矢崎
「医師の養成数の話に戻ってしまうのだが、よろしいだろうか。現状で医師を増やすには、医学部定員の大幅増員しかないだろう。ここで私が慎重論を述べているので、各方面から『分からずや』と言われ大変苦慮している。圧倒的に不利な立場であるけれど、考えていただければ私は病院という医師が足りなくて困っている立場であり、医師増を願い出るのが当然であること、それから日本医師会とあえて言う必要はないが既得権を守る職能団体の代弁者ではないこと、それから総枠規制を進める厚生労働省の立場は理解するけれど決して代弁する者ではないことから、改めて医師数増には慎重な取扱いをお願いしたい。医学部教育の現場を知る者として、決して全く増やしちゃいかんと言うつもりはないが、教育の限度をしっかり考えていただかないとということを最後にお願いしたい」


舛添
「いろいろなご意見が大事。当然、財源の問題も考慮しないといけない。そういうことを含めての3原則だ。現場が判断できるように、現場から上がってきた声を集約しないで、上から押しつけたら何もならない。お知恵を皆で出し合っていただきやりたい」
(次項へ)

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