医と法のあいだを考えるシンポジウム

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年11月16日 22:57

表題のようなものに行ってきた。
シンポジストは
医療側から、小松秀樹、上昌広、澤倫太郎の各氏。
法側から、平岩敬一弁護士(大野病院事件弁護団長)、小林公夫明治大学法科大学院講師
ということで
はてさてどんなことになるやらと思って見にいったが
やはり医と法とでは全然話が噛み合わないということを再認識した。


特に法側の方々が
医側の言っていることを
それって法的に言うと、こういう風に言えるよね、と
自分たちの言語体系に落としこんでから議論を組み立てようとすることには
滑稽を通り越して恐怖すら覚えた。


ひょっとして法律家の方々は
法の言葉と体系ですべてのものが語れると思っているのだろうか。
非常によく現れていたやりとり一つだけご紹介する。


木ノ元弁護士(会場)
「医療水準について、医と法との間にコンセンサスはあるのだろうか(略)」


(中略)


小松
「医療水準という言葉自体が法的な考え方で、医療界にはない(略)」



「司法としては、根拠を論文や文献に頼らざるを得ないということだが、その論文や文献は専門的な医療者の相互理解のために書かれたもの。部外者が読んでも分かるはずがない(略)」



「情報をお互いに出し合うことが大切だろうが、その翻訳は難しい」


木ノ元
「ガイドラインが最近は裁判で問題になることが多い。司法はガイドラインを水準、準則と理解することが多い。そうではないんだと医療界から発信するようなことはないのか」



「本当の意味のガイドラインは産婦人科学会が今度2年かけてつくったものが初めてでないか。今までは厚生労働省に言われてつくった努力目標でしかなかった。(略)全員討議を経てA段階の評価になっているものについては、しなかった時に何か言われても仕方ないかなと思う」



「ガイドラインは厚労省が責任逃れのためにつくらせたもの(略)」


小松
「ガイドラインというのは基本的に危ないと思っている。権威ある一つのものに束ねられるようなことがあってはならない。EBMというのは、データの多い方が有力になってしまう。テニスのランキングで試合数の多い方が上位になるようなもの。つまり製薬会社がお金を出してたくさん研究させれば、有力になってしまう。そんなことを考えても1個に決めることは科学的でない。真理の暫定的な非誤謬性を忘れてはいけない」


三村弁護士(会場)
「法律も必ずしも規範だけではなく事実の当てはめもやっている。事実を見つけていくのは認知的予期ではないか。法律家と医療者が互いに理解して事実が上げられていくようになれば問題なく判決が出るようになってくるのでないか」


(中略)


木ノ元
「例外はあるにしても、基本的には医療慣行と医療水準とは同一のものと考えて問題ないはず。例外的に、医療慣行は医療水準でないという判決が出るから医療界が司法に対して不信感を持つことになる」



「個人的にけしからんと思っているのは、医療事故調の検討会で前田座長が『大野病院事件の判決は地裁判決だから参考にならない』と言ったこと。誰が言ったかというのが、そんなに問題か。最高裁の言うことは正しいで思考停止していいのか。歴史的に見れば権威が間違えていたことは山ほどある。それを正すのがジャーナリズムとアカデミズムの役割ではないのか。なぜ、前田座長に対する批判の声が法律界から自律的に出てこないのか」


小松
「医療水準という言葉がないと言ったのに、その後も何事もなかったかのように医療水準とは何かという議論が行われた。このこと自体が、いかに断絶が大きいかということを表している」


少なくとも議論が全然噛み合わなかったということだけは
認識が揃ったと思いたいのだけれど
もし法側の人がそう思ってないのだとすると、やはり断絶は深刻と言わざるを得ない。


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コメント

医療側の考えと、法律家、いや裁判所と検察と言い換えてもよい、その間の溝の原因を語ってくださる法律家がいらっしゃれば、医療側が司法にどうアプローチしていけばよいのか、わかります。
大岩先生や木の元先生、今回は発言されなかった(?)井上清成先生、あたりが、その役割をはたしていらっしゃいますね。

厚労省の医療安全委員会設立の会議が、紛糾しているのも、その溝が一向に埋まることがないからです。

法律家と医療職は、永遠に敵対関係にはないはずです。
司法当局者は法律をよりどころにするのは、仕方ないこと、だからこそ法律家なのですが、それだけでは割り切れないものがある、という現実、いや真実と言い換えても良い、それを法律家に理解してもらう努力が必要なのでしょうね。

木の元先生も法曹の中では医療を理解されてるほうだと思いますが、それでも理解しがたい部分はありますね。まあ小生も法律の議論になるとほとんど外国語の世界ですからお互い様ではありますが。翻訳してくれる方が少ないことが問題なのでしょうね。

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