周産期・救急懇談会3(つづきというか1)

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年11月26日 22:02

前半部についてはハイライトとして昨日書いたので本日は後半部。
合体すると、ほぼ全部通しになる感じ。


田村
「お母さんの救急搬送依頼があった場合にはとにかくセンターで受け入れてそれから考えるという話。発想としては全く正しいと思うのだが、それだけで走り出すと新生児の側で問題があるということを説明したい。この間の墨東の例は35週だから赤ちゃんには特に問題はなかったと思うのだが、22週ぐらいの赤ちゃんだと400グラムにしかならない。400グラムというと3本の指に乗る。その赤ちゃんに、こよりのような管で挿管して、大臣の髪の毛ほどの太さしかない血管に針をいれて点滴しながらセンターをめざす。ところが、そこまでうまくやっても搬送途中の揺れで頭蓋内出血を起こしてしまうことがある。最初からセンターで生まれていればそのようなリスクは負わなくて済むのに。大野病院事件の後で比較的軽いものもセンターに回ってくるようになった。比較的胎児が軽いと思われるもので、NICUがいっぱいでも、お母さんが緊急なら断らないというのは果たして正しいのか。というのが、1次機関でどこまで判断できるのかという問題がある。ああいったことがあった後だけに、おそらく念には念を入れてということが起きる。そういうお母さんが来た時に、総合周産期母子医療センターでなくても診られるという判断がついたらどんどん別の施設へ回すということにならないと、結局、本当に危険な胎児がセンターで分娩されず、母体搬送の時代から新生児搬送の時代に戻ってしまう。

最初からNICUが足りないのに、さらにNICUに毎年200人ずつ出られない赤ちゃんが溜まり続けている。

この状況を放置しておいて、母体緊急のおそれがあるというだけで、どんどん引き受けるのは難しい。医師の勤務改善とNICUの増床も並行して行わないと絵に描いたモチに終わる。

比較的簡単にできるのは、NICU程条件の縛りのキツくない準NICUを設けて、診療報酬で評価すること。小児科医が病院の中に24時間常駐していれば、あとは看護師が3対1だけでよいことにする。今多くの病院が小児救急を取るかNICUを取るか岐路に立たされてNICUを閉鎖している。新生児医療が崩壊すれば総合周産期母子医療センターの受け入れも担保できない」


川上
「NICUに入れる新生児を1000グラム以下に限定すれば回るか」


田村
「1000グラム以下の赤ちゃんが年間3000人生まれる。NICUは2000床ちょっとしかない。1000グラム以下の赤ちゃんすら収容しきれていない」


川上
「ウチの病院でも1000グラム以下は対応できないけれど1500グラムあれば何とかなる。1000グラム以上を収容する他の所を増やしたら緊急避難にはならないか」


田村
「全くおっしゃる通り。先ほど申し上げた準NICUはそういうものの位置づけだ。ただし、それを保険で認めないといけないし6000点ぐらいはないと、現実的に整備しようという医療機関は出てこないと思う」


川上
「前回資料にも出したけれどDPCで新生児を受けると必ずマイナスになる。それから勤務苛酷なのをどう改善していくか。一番進んでいるのが救急だと思う。5人いれば2交替でもかなりいける。でNICUを10床やるのに2交替するとなると何人必要か」


田村
「長期的には交替制をめざしている。しかしかなり将来のこと。現状いつまで経ってもそうならない。動かすためには最低限、労働基準法に従った給料支払いを義務づける、そうしないと施設長が逮捕されるくらいのことにしないと。そうすると残業代がとんでもない額になって、それを払うくらいなら人を増やそうかということになる。ただし10床では交替制は無理。最低24〜30床のNICUと同じくらいの後方ベッドが要るだろう」


杉本
「NICUの勤務条件を入れるのは全面的に賛成なんだが、それと別の観点で、母体救急だったら必ずNICUがないと受け入れできないという風に縛ってしまうのもどうだろうか。基本的に2人とも救命したいわけだが、難しい時には母親優先、母親が難しい時には胎児優先とずっとやってきた。その原則は分けて考えておかないと。NICUがあった方がいいのはその通りだが、ない所には搬送できないというのでは動きが取りにくい。たしかに受けると決めてしまわないと不安は解消できないんだろうが、もし軽いと分かったら他の病院へ移すシステムを考えた方がいいんではないか」


田村
「今の周産期システムでは赤ちゃんの重症度は判断できる。しかしお母さんは一般の救急と同じということで分けて考えてこなかった。せっかく救急の方々が入っているのだから、得意のトリアージの考え方を産科にも入れられるよう教えてほしい。特にコントロールセンターの責任者には、そういう能力のある人を配置することが必要だと思う」


岡井
「ガイドラインをつくるという話はしている。今はとりあえず受け入れざるを得ない。NICUがいっぱいにならないよう、うまくガイドラインを作らないと」


戸井田政務官が割り込む。
「少子化なのに低体重児が増えている、それはなぜ」


田村
「先ほど座長が説明した通りで」


戸井田
「要するに高齢出産だからなんだろう。だったら、もっと早く産めと社会に言うべきじゃないのか。それが根本だろう」


田村
「不妊治療の結果として双子、3つ子が増えている。死亡率が5倍に跳ね上がるので、受精卵を戻すときは1つにと学会でも言っているのに、現実には守られていない。高齢出産をやめなさいとは我々の口からは言えない。行政だったら言えるのかもしれないが」


戸井田
「そのリスクを伝えることが大切だろう。みんな簡単に産めるつもりでいるから、何かあった時に話が違うんじゃないかということになる。啓蒙していくのが大事なことだろう」


横田
「先ほど話の出たNICUを取るか小児救急を取るかでNICUを閉鎖した典型的な病院なのだが、その立場から気になるのは、NICU専従の医師の専門性と通常の小児科の専門性との関係はどうなっているのか」


田村
「新生児専門医制度をつくっていて、目標は1500人から2000人つくること。その専門医は1000グラム未満を診れることが専門性になる。一般の小児科医でも1500グラムあれば診られる」


池田
「産科では開業医を大事にしながら、イザという時に高次機関への垣根を取っ払いたいという方向で来ている。ところが小児科では、フォローアップを地域の開業に頼もうとすると超未熟児だから診られないと言われるという。それがセンターの負担を重くすることにつながってないか」


田村
「フォローアップは高次の医療行為の一つだと思う。後遺症も外に見えるものだけではない。微細なものも色々ある。NICU専従医が診るべきかは別にして小児神経科医とか専門家が診るべきだろう。しかし、超未熟児だったからといって風邪で熱を出したというのまで全部センターに来ないと診れないということでもない。1次救急の疾患は地域で十分だ」


池田
「ここを改善する必要があると思う。産科では地域の開業医との連携を非常に大事にしている」


藤村
「NICUの受け入れ能力をいかに増やすかが喫緊の課題。しかし医師がいない。新生児専従医が1~4人という施設が7割。この人たちに7日間24時間働けと言っている。総合周産期母子医療センターを100万人に1カ所に置くなんて高望みに過ぎるんであって、300万人に1カ所がやっと。医師数が7人あたりにピークが来るようにしないと。それは都道府県知事に求めるしかない。カ所数を誇るんじゃなくて、中身を誇るように。外来がある医療機関の集約化は地域も絡むので難しいが、NICUには外来ないので集約化は医療側だけでできる」


木下
「空きベッドがないのは正常分娩を取らざるを得ないから。空きベッドをつくるなと経営的観点から言われる。5年後、10年後には、もっと産婦人科医は減る。今後どうするのか。医師の志望を縛るところまで考えないと難しいかもしれない。空床補償さえしてもらえればと現場の教授たちは言う。あとは絶対に取るんだという心意気の問題で、それは難しい問題ではない。本当はシステムで対応すべきなんだろうが、現状では心意気で対応せざるを得ない」


この後少しだけやりとりがあって大臣挨拶。


大臣挨拶に対して
木下
「空床補償に関しては、中医協を通さなくても都道府県レベルでできるんでないか。千葉県では既にあると聞いている。東京都もオリンピック誘致にあんなにお金を使うくらいなら、出してくれてもいいと思う」


舛添
「知事会との懇談会で必ずお話をしておきたい」


次回は12月8日とのこと。

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