もうADR法施行から2年。

投稿者: | 投稿日時: 2009年03月16日 13:12

ここ数日、くい止める会から離れたエントリーが続きましたが、今日はちょっと軌道修正。この4月で「裁判外紛争解決手続きの利用の促進に関する法律」(ADR法)の施行から3年目を迎えるにあたって、今日と明日に分けて、くい止める会が注目している医療ADR、なかでも「対話自律型ADR」についてあらためて考えてみたいと思います。

まずADRとは、Alternative Dispute Resolutionの略で、「裁判外紛争解決手続き」と訳されます。ざっくりといえば、紛争当事者双方の間に第三者が介入して紛争の解決を図るものです。医療事故においては従来、その経緯や結果に関して病院側の説明・姿勢に疑問や不満がある患者・遺族は、解決を民事訴訟に求めるしか手段がありませんでした。しかし民事訴訟にはさまざまな問題がありました。そこで近年、注目されてきたのがADRだったわけです。

冒頭でも書きましたように、一昨年4月にはADR法が施行され、介入できる第三者の幅が広がりました。これで医療紛争においても第三者の専門的知見を取り入れながら、実情に沿った柔軟で迅速な対応が期待できることになりました。


ただし、ADRは元来、多様な発想・理念にもとづくさまざまな形態が想定でき、医療に関するADRについても大きく2タイプが考えられます。「裁判準拠型」と呼ばれるものと、「対話自律型」と呼ばれるものです。くい止める会では、後者に注目しています。なぜでしょうか?

それを考えるには、まず、従来の民事訴訟によって医療紛争の解決を図ろうとする手法の問題点から振り返っていくのが良いかと思います。


ところで、くい止める会が設立されるきっかけとなった福島県立大野病院事件は、帝王切開手術中の産婦の死に関し、執刀医が2006年に逮捕・起訴(=刑事訴訟)された“刑事事件”でした。全国の医療者が色めき立ったのはそのためです。しかしそれ以前から、産科をはじめ、日本中で医療事故についての民事訴訟が急増していました。2003年には年間の医療訴訟件数は合計1000件を超え、その後も同程度で移行しています

しかしそうした件数の増加とは裏腹に、医療訴訟における患者・家族に対しておこなった次のようなアンケート調査報告もあります。
●弁護士満足度: 不満 66%(とても不満44%、やや不満22%)
●訴訟結果満足度: 不満 71%(とても不満65%、やや不満6%)
つまり、これだけ多くの患者・家族が、民事訴訟によっても結局は納得を得ることができていないのです。


その理由を考えるにあたって念頭におくべきことは、訴訟で明らかとなるのは、「各当事者が、自分に有利な法律効果が認められるために主張・立証する事実」でしかないということです。つまり、議論されるのは限定された争点のみで、病室・手術室内で一体何があったのか、その全貌が明らかになるわけではないのです。患者・家族が訴訟を起こす理由の第一に挙げるのが“真相”の究明ですが、実際にはそれが叶えられないことがかなり多いということです。患者・家族のみならず一般的にも「訴訟を起こせば全てが明らかになる」と思われているのに、残念ながらその期待はしばしば裏切られることになります。

また、そもそも訴訟は「原告」と「被告」の対立構造を前提としています。本人たちの真意はともかく、両者がいやおうなしに攻撃と防御を繰り返すことになるのです。本来、患者・家族は医療側に、真実の究明や補償金のほかに、誠実な対応・謝罪を求めて訴訟を起こすと考えられます。しかし、訴訟自体の性質がそれとは対極にある・・・端から矛盾しているのです。それどころか、心理的・精神的な苦痛からの解放を望んで訴訟を決意した患者・家族に対し、むしろその苦痛を増長させかねません。そして結局、医療不信を助長するだけの結果に終われば、医療崩壊を加速させるだけです。

それ以外にも、民事訴訟では医療事故の根本に潜む社会的背景や防止策の検討などは必ずしもおこなわれないため、再発抑制にはつながりません。また、手続き的な問題としてコストと費用がかさむことも問題として挙げられます。


というわけで、民事訴訟に以上のような問題点があるからこそ、医療紛争の解決手段としてADRに期待が寄せられているのです。しかし、そこで問題となってくるのが、最初にご紹介した2種類のタイプ、「裁判準拠型」と「対話自律型」です。これらの違いについて、明日続きを考えてみたいと思います。

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コメント

 堀米さん、こんにちは。

…なんか数字が変です。満足度ではなく不満足度、でしょうか?

>中村利仁先生

失礼いたしました。修正いたしました。
ご指摘いただきありがとうございました。

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