医療メディエーター 

投稿者: | 投稿日時: 2009年03月18日 13:31

ここ2日間、医療ADRについて振り返ってみましたが、その中で触れていなかった大切な要素があります。くい止める会が注目している「対話自律型」ADRの場合、だれが医療側と患者側の間に立って「対話」を促すのか、ということです。「裁判準拠型」の場合、基本的な考え方は訴訟と大きくは変わらないため、ごく自然に弁護士が間に立つこととなります。しかし、そもそもADR法は、介入できる第三者の範囲を弁護士以外にも広げたところに意義があります。

そこで「対話自立型」ADRでは、医療という特殊性を踏まえ、「医療メディエーター」が両者の間に入ることが一般に想定されています。←すみません、先日のグリーフケアに続き、また聞きなれないカタカナが出てきちゃいました。

医療メディエーターとは、事故の当事者が自分たちで問題を解決し、未来に向かって前進できるよう、紛争を解きほぐし、対話を促進して合意形成を支援する専門家です(この対話による合意形成を「(医療)メディエーション」といいます)。医療メディエーターはあくまで中立の立場から、両当事者間に存在する誤解を解き、一方に与することのない創造的な合意へと導き、そして両者の関係の再構築を支援します。


そのため医療メディエーターには、当事者同士の自主交渉における対話を促進しつつ情報を整序する緻密な専門技法(メディエーション技法)が求められます。当事者の紛争に対する認識およびニーズの分析のほか、両者の激しい感情的なぶつかり合いを吸収し、対話がスムーズに進むよう促すための適切かつ細やかな配慮も必要となります。そのため、中立的第三者ではありますが、そもそも極端に中立性だけを追求することによって両者が納得する解決が得られるものでもなく、両者への共感は欠かせません。両者の間を行ったり来たりの橋渡しをしながら、その距離をだんだんに縮めていくことが理想です。なお合意形成の支援に際しては、両当事者に対しての中立性を意識するにとどまらず、将来や過去のケースとの整合性にも配慮すべきでしょう。さらに、ADR手続の過程で話し合った内容については守秘義務を課し、裁判などの法的手続きから距離を置くことで、より率直で柔軟な対話的解決が実現されると考えられます。

また、医療メディエーターは、患者側・医療側の各当事者が行う事実の検証や賠償額交渉の中身にまでは立ち入らないのがよいと考えられます。事実や賠償額の評価・判断については、十分な医学あるいは法律の知識が必要となり、個々の医療メディエーターが責を負うべき範囲を超えるからです。また判断を示すことで、医療メディエーターの中立性が損なわれてしまう可能性も否めません。


そのかわり、対話自立型ADRにおいては、医療メディエーターのほかに、医師・弁護士らからなる審査パネルが設置されることが望ましいといえます。とりわけ患者側は事実の評価や賠償額の算定について、専門的視点を持った第三者に適正な評価を示してほしいと考えると想像されます。第三者の専門家パネルによる事実の解明により、「病室・手術室で何が起きたのか知りたい」というニーズに応えることができるのです。ただし、この審査パネルの評価・判断も、もちろん拘束力はありません。あくまで、当事者間が判断を下す上での適切な情報提供が目的であり、審査パネルの評価を目安に両者が合意に達したのであれば、その合意内容は個々の医療メディエーターの主観によらないことが推定され、客観的な妥当性が確保されるというわけです。こうした専門家パネルの設置等を含む「対話自律型」ADRの体制整備が求められます。


さて、それでは実際のところ、医療メディエーターの人材養成はどうなっているのでしょうか。

まず確認しておくと、必要となる専門技能は、コミュニケーション技法やカウンセリング的技法だけではありません。心理学・社会学など多岐にわたる知見に基づいて、紛争の構造を分析する能力も問われます。また、万が一にも医療側の不当な情報操作等があった場合、それを見抜くためにも、ある程度すでに医療の知識をもつ人材が医療メディエーターとしての教育を受けるのが望ましいと考えられます。

実際、2003年には医療メディエーター養成プログラムが日本医療評価機構で開発され、2004年に試行、2005年から本格的に運用され、養成が始まりました。2007年3月には日本医療メディエーター協会(理事長:高久史麿)も設立され、医療メディエーターの公的認定が開始されています。現在、日本医療機能評価機構、早稲田総研インターナショナル、日本医療メディエーター協会などで、年間のべ400名超、病院団体・個別病院での協会監修プログラムを合わせれば、年間900名近い人材養成が行われているとされます。


問題は、その配備と職業としての確立です。医療メディエーターの養成は進んできていても、配備されている病院の数からすれば、十分というには遠く及びません。実際の活躍の場(主に病院)における立場も、その機関ごとにまちまちです。そしていずれにしても、医療機関の職員であることが、その中立性に影響を及ぼさないかどうか、懸念されるところです。そういう意味からも、医療メディエーターを職業的に確立させた上で、病院からの独立性を保てる就業形態についても、今後検討されていくべきではないでしょうか。ADR法が施行され、すでにその門戸は開かれているのですから。

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