予算も足りてないそうです。

投稿者: | 投稿日時: 2009年03月31日 13:17

先日、厚生労働省の「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」がまとめた周産期母子医療センターの指定基準の見直しについて書かせていただきました。

その後の話がよくわからない、ということだったのですが、ひとつだけ、研究室から情報がその数日前に回ってきていました。

猪瀬直樹の「眼からウロコ」
1床あたり年間700万円以上も赤字では…
新生児集中治療室の収支モデルを分析、増床策を提案する
2009年3月25日 日経BPネット

3月17日に、周産期医療体制の問題で、猪瀬直樹副都知事を座長とする東京都の「周産期医療体制整備プロジェクトチーム(PT)」が、その提言をまとめた「NICUの整備促進に関する緊急要望」を舛添要一厚生労動相を厚労省に訪ね、提出したそうです。


詳しくは上記日経BPの記事をお読みいただければと思いますが、注目すべきところを何箇所か抜粋してみます。

●NICU1床あたりについて、PTでは、診療報酬などの収益と、医師・看護師の給与、薬品費、診療材料費、福利厚生費、維持業務委託費などの費用、建物の一定の床面積等についての減価償却費を計算した。その結果、4200万円の支出に対して、収入は3300万円で、900万円の赤字が出る構造になっている。さらに都の運営費補助金を投入してもなお1床当たり700万円以上の赤字が生じていた。

●本来なら、正常分娩は地域のクリニックが引き受け、緊急時の周産期医療に大病院が対応する形が望ましい。しかし、NICUが赤字だから、大病院では正常分娩を増やして埋めるしかない。その結果、正常分娩で大病院が忙しくなり、緊急時に対応できなくなるという悪循環が生じている。地域のクリニックとの役割分担ができない状況になっている。

●収支モデル分析でNICUを増やせば増やすほど赤字が膨らむことが明らかになったころ、厚労省の「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」で、NICU増床という方針が打ち出された。

●新たな整備目標を達成するには、NICUの収支を改善しなくては増床するインセンティブがない。しかし、厚労省の周産期センターへの補助金はNICUに対して出されておらず、MFICU(母体・新生児集中治療管理室)という別の病床に対してのみ補助を出している。新しい方針が出たのに、従来のままの補助システムではちぐはぐである。


要するに、周産期センターに設置されるべきNICUの数について、「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」の最終報告書が示す基準を満たすには、現状のままでは医師が足りないだけでなく、予算も足りていない、ということです。


そこで猪瀬氏率いるPTは舛添氏に以下2つを提言したそうです。

①まずは実態に見合うように、NICUの診療報酬を引き上げること。現行の診療報酬は1日あたり8万6000円だが、収支モデル上の赤字額700万円を診療報酬で埋めるためには、1日あたり2万3000円プラスして11万円程度の水準に引き上げる必要がある。

②これが直ちに難しい場合は、現在MFICUしか対象としていない国の周産期センターの運営費補助金を見直して、今後はNICUも対象としていくこと。東京都ではすでにNICUを対象に運営費補助金を出しているのだから、国も見習ってほしい。


こうしてみると、東京都のほうでは周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」の最終報告書を受け、それなりに動いてきたようです。それにしても要望書も拝見しましたが、産科医の勤務実態等についての報告は入っていないのですね。せっかく各病院を回って調査を行ったようですから、そちらについても調べようがあったと思うのですが・・・。NICUが揃っても、医師がいなかったらどうしようもないのではないかなあ、と、しつこいようですが、ついついそう考えてしまうのでした。

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コメント

更に医師がタダのように働いているのを是正すると、どれ位の診療報酬の値上げが必要となるのでしょう?

単に頑張るのではなく、収支バランスが取れないと猪瀬氏が言われるように歪な診療体制となって、必要な医療、尊重される医療が、病院を潰す元凶となりかねません。

救急医療もまさにそれであり、正当に3交代で回すためにはどれ位の診療報酬が必要なのか、あるいは患者の入口の整理を付ける必要性について突っ込んだ議論が必要だろうと思います。

>Med_Lawさま

人そのものだけでなく、適正な人数を確保する予算も足りていないのですね。

いま現場をなんとか支えている先生方は、本当に個人の必要以上の努力で、なんとか持ちこたえている。「医療が崩壊しつつある、始まっている」というより、救急や産科、小児科をはじめとする多くの診療科で「医療はすでに崩壊している」んですね。それを何とか個人の力で支えている、支えようとしているのだから、もとより無理な話です。

Med_Law様

医療者の報酬を正しく支払えるようにすることと、診療報酬支払総額が変化することは、必ずしも比例することではありません。
診療報酬がうなぎ上りになっている中、医療者が受け取る報酬=手技・診断料はほとんど増えていません。初診料270点は、1時間に6人初診を見たとしてもアルバイト医師の時給を考えると医療機関としてのもうけがありません。
検査や処方の診療報酬は加算されますが、本来これらをあてにした診療自体がおかしいのです。患者の訴えをゆっくりと聞き、疾病について説明し、療養上のアドバイスを行うまですべて行うことが「初診」本来の姿でしょう。検査や処方に
ついては別の医学知識提供報酬が設けられ、検査差益は検査部門の人件費と機器の維持・消耗品代に充てるべきです。薬価差益は薬剤師の人件費と薬剤の購入・保管経費に充てるべきです。
診療報酬総額が上昇したら、本来は医療本体ではなく、薬価や検査代金を抑制すべきです。人材を大事にしたい企業なら人件費の時間単価は極力触らず、購入費や無駄な作業の切り詰めを行います。
医療の中でいま最も無駄なことをしているのは診療報酬の請求と査定です。2年以内に計算の基準を変更し、医事システムの大幅な改修を医療機関に共用しています。DPCシステムになれば本来医事システムは大いに簡略化されるはずですが、E/Fファイルを強要することによって医事業務は従来の2倍以上になっています。医事課事務員の人件費が増えても安全・安心な医療の推進にはつながるはずもありません。
診療報酬の査定は地方毎に独自の基準で行っているため、全国の医療を均てん化する役にも立っていません。都道府県ごとの医療費を比較しても医療の質との相関を見出せません。

堀米様

こだわるようですが、「医療の崩壊」ではなく「医療体制の崩壊」あるいは「医療システムの崩壊」だと考えます。システムの崩壊は個人の努力でおくらせることはできても、崩壊自体は止められません。少子高齢化の中ではどのみち現在のシステムを維持できませんので、システムの変革に手をつけるべきだと思います。

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