趣向を変えて・・・第二弾 「命の値段」。 |
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投稿者: | 投稿日時: 2009年05月06日 13:27 |
先月、「突然ですが、ちょっと趣向を変えて第一弾。」ということで、患者さんのブログをいくつかご紹介しました。今回はその第二弾。興味深いブログを1つご紹介したいと思います。
テーマは、「命の値段」です。ちょっと引用。
【「あなたの余命はあと一年です。ただし、XX円払えば健康な状態でもう一年だけ生存することができます」――。仮に医師からそう告げられたら「一年延長に」いくらまで支払いますか。あなたの答えは・・・】
by 粘る稀なガン患者
未承認抗ガン剤を含む化学治療により、粘りまくっている膵内分泌細胞ガン患者
リンクはこちら。
これは、日本経済新聞社が実施した「医療と健康に関する意識調査」の中の設問のひとつでした。
「一年延長に」いくらまで支払うか、結果は以下のとおりだったそうです。
払わない 32.8%
100万円未満 24.3%
100万―500万未満 27.2%
500万―1000万未満 9.5%
1000万―5000万未満 3.6%
5000万―1億円未満 0.4%
1億円以上 0.1%
無回答 2.1%
(日本経済新聞 2009年1月4日)
この結果をどう思われるでしょうか。新聞記事の中では、【期限付きの余命延長に大金を積もうという市民の意識はそれほど高くはなかった。厚生労働省のある幹部は『日本人は病気にかかった場合、根治したいという願望が強い。健康な状態だとしても一年だけの延長に価値を感じる人が少ないのでは』と話した】と解説を加えています。ブログの中でも、【正直に言って、多くの人にとって、自分の命一年間を値段がこんなに安くみているのかと驚いた。払わないをあわせると、百万円以下で57%と過半数を超える。つまり、日本人の半数以上が、自分の余命一年をちょっした軽自動車一台よりも安いとしているのである】と、わかりやすくまとめています。
どうでしょうね・・・。私なら、100万円台くらいでしょうか。ただ、ブログにもありますが、これは純粋に自分の1年間の命の価値と考えて答えているというより、実際にどれくらい払うか、払えるか、払ってもいいか、という考えを誘導しているので、年齢や性別のほかに、回答者の懐具合(残される人のために極力、無駄遣いをしないように、などという考えを含めて)にも答えが大きく左右されているだろうと思えますね。私の場合も自然とそう考えていました。
このブログ(エントリー)が興味深いのは、ここからさらに別の記事を引用し、【薬の承認に際して、効果・副作用が話題になることはあっても、費用ないし費用対効果について話題になっているとは聞いたことがない】、と話をつなげるところ。
【イギリスでは、過去に薬の承認に際して、(中略)効果自体は認めつつも、費用に見合うだけのものではないとして、承認が見送られたことがあったはずである】。一方、【政権争いに終始し国民のご機嫌取りに終始する現在の政治では、健康保険料の引き上げ・税金負担の拡大(財源のための増税)は行われそうにもないから、待ち受けるのは、保健医療制度の崩壊か医療サービスの削減であろう】。となれば、【もしも、本当に日本経済新聞調査のように一年間の寿命延長が百万円の価値もないと多くの国民が思っているならば、抗がん剤治療や(寿命延長につながらない)緩和医療などは、「費用に見合うだけの効果が得られていない」としてカットされる第一候補になってしまうかもしれない】・・・。
人の命に関わる部分についてまで費用対効果を議論するのはいかにも“あちらの国”っぽいですが、近年の日本も、良くも悪くもそうしたやり方に追随してきました。この問題について実際にそうした試算がなされるかは、それでもなお、不明ではありますが、当事者としてみれば医療財政の危うい現状を認識しているなら、不安を感じて当然かもしれません。
ただでさえ不安と日々闘っている患者の方々が、治療以外の別のところにまで懸念を抱えているというのは、やっぱり憂慮すべきことと思います。どうか治療に専念できる環境(いろいろな意味で)が整うよう、制度や財政的な問題が一刻も早く、根本的な改善・解決に向かうとよいのですが・・・。
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コメント
同じ質問を立場を変えて
「あなたの寿命は、あと2年です。但し、XX円受け取ると、1年後に命を落とします。幾らもらえば、寿命の短縮を受け入れますか?」
おそらく、金額は支払う金額の10倍はすることになるでしょう。
この問題は、行動経済学でいうと、WTA(Willing to Accept)とWTP(Willing to Pay)という典型問題として取り上げられています。
命の同質性も立場を入れ替えると、WTA >> WTPになることが知られています。
用地を売りつけようとすると叩き売りなのに、用地を買収しようとすると数倍しても手放したくなくなるのと同じ、心理的要因となります。
新生児医療に新たな税負担するのは乗り気でないのに、既存の老人医療等で質を落としたり、自己負担を増やすと大反対が起こるのにも合理的な説明を与えてくれます。
お暇があれば、「行動経済学:経済は「感情」で動いている (光文社新書)友野 典男 (著)」を読んでみてください。
医療を巡る、医師と患者の関係も見えてくると思います。
経済理論ですが、むしろ心理学に近いものです。読みやすいです。
Med_Lawさま
非常に興味深い本のご紹介をありがとうございました。ぜひ読んでみたいと思います。
国民ももともとは一人ひとりの人間の集まりですから、「感情」で動いている、というのは字面からもなんとなく想像に難くはありません。そう思うと、国民の妥協を探る政治や、そのパターンを見出す経済学というのは本当に難しいですね。それでもそこを逆手にとって国民を動かしてきた政治家も、良くも悪くも、たくさんいます。ただ、もっぱら悪いほうが有名なことを考えると、政治家が聞こえのよいことばかり言っているときはキケンかな、とも思えます。WTAやWTPの話からしても、予算問題含めてお金が絡むことは人の判断を冷静でなくさせることが多々ありますから、それを自覚した上で、「それにより、本当に得をするのは誰か、割を食うのはどこか、それでよいのか」をきちんと見極める必要がありますね。
命の値段について考えるには有名な無免許医漫画ブラックジャックを読むのがわかりやすいかもしれませんね。小説なら「赤ひげ」の熟読もお勧めできます。通貨の単位あたりの価値は今とは違いますが。
新型インフルエンザの蔓延防止のためしばらくは人ごみへの外出を自発的に控えることが国民一人一人に求められる国内phase5の段階に来ていると思います。これによって生まれる時間を利用して少し大きな読書をしてみようという方にお薦めの現代作家は塩野七生氏でしょう。政治システムを人間がいかに作り壊していくかについて活写した代表作は「ローマ人の物語」ではないでしょうか。長いけど読み応えがありました。命の値段を考える時にもおおいに参考になるように思います。