酵母って何者? |
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投稿者: | 投稿日時: 2009年06月29日 18:45 |
先のエントリー「カビはほんとに侮れない。」で、カビと同じ「真菌類」であり、カビ同様に人々の健康に被害をもたらすものとして、酵母に触れました。当初、私もこの2つを厳密に分けないまま説明していましたが、こまかく分けるとやはり別のもの。しかし、「酵母」と聞くと、ビール酵母やパン酵母など、私たちの生活に“役立っている”というイメージのほうが強いのではないでしょうか?
そこで、知っているようで実はよく知らない酵母について、もう少し調べてみました。
ちなみに最初に、先のエントリーでご紹介した酵母による疾病をもう一度、ちょっとだけバージョンアップしてご紹介しておきます。
【酵母による疾病】
●カンジダ症:
口の中や便、粘膜分泌物に普通に存在しています。健康なときは影響はないのに、抵抗力が落ちてくると、皮膚や口の中、膣、目、消化器官、肝臓など全身に症状が出ます。症状は部位により様々ですが、皮膚ではただれ、痛み、かゆみなどを伴います。
●マラセチア毛包炎・癜風(でんぷう)
カンジダ同様、身近にいるマラセチアという酵母が、体力が落ちてくると前胸部や肩・背中に出ている様なにきびのような発疹(毛包炎)や、皮膚に色いしみや白く色が抜けた脱色斑を作り出します。
●クリプトコッカス症:
主にハトの糞便に存在します。免疫機能が低下していると、口に入った菌に体が冒され、頭痛やめまい、目の痛み、吐き気などが起きます。更に症状が進むと、肺炎や髄膜炎を起こし、最悪のケースでは死に至る場合もあります。
●過敏性肺炎
黒色酵母が免疫力・体力の落ちている人の体内に入った場合に引き起こされることがあります。黒色酵母は自然界の湿気の多い場所、土壌や水中等いたるところに存在し、室内では特に浴室のタイルの目地や排水溝のふたの裏などに発生して、ぬめりがあります。低温ではなかなか死滅せず、太陽光線にも乾燥にも強いようです。
さらに、お風呂場のピンクぬめりも、実はカビでなく「ロドトルラ」という酵母だそうです。こちらは一応、病原性は報告されていないようですが、見た目も悪いし、ヌルヌルしているし、なんとなく気持ち悪いですよね。
さて、こうした酵母とは、一体何者なのでしょうか。
酵母は、カビやキノコと同じ「菌類」の一種です。細菌類やその他の「菌」とつく生物と区別するために「真菌(類)」とも呼ばれます。細菌によっても病気が引き起こされますし、日常生活中で菌類(真菌)との違いを意識することもあまりないのですが、両者は構造が大きく異なります。菌類は、細胞内にさらに「核」という器官を持っていて、そこに遺伝子情報が集まっています。その点は、動物や植物と同じといえます。一方、大腸菌などの細菌類は、核をもたず、遺伝子情報は細胞内に散らばって存在しています。細菌のほうが菌類よりもより単純な構造といえます。
さらに菌類のなかでも、カビ、キノコ、酵母、それぞれの違いを考える時、一番異なるのは、実は「見た目」ということのようです。カビとキノコは、多数の菌糸と呼ばれる管状の細胞が集まって形づくられ(多細胞)、胞子によって増殖していきます。これらは糸状菌とも呼ばれます。カビとキノコの違いは肉眼でも分かりますよね。というより、見た目以外の違いは説明が難しいようです。他方、酵母は単細胞のまま、同様の細胞が出芽あるいは分裂して繁殖します。そのためカビとの見分けは、肉眼では難しいものの、顕微鏡の世界では大きく違ってくるようです。
さて、酵母の正体がだいたいわかったところで、冒頭の話について改めて考えてみます。
酵母は私たちの生活に“役立っている”イメージがあるというお話をしました。たしかに、人類は古くから酵母を食品生産に利用してきました。発酵時に出る炭酸ガスをパン生地を膨らませるのに使うパン酵母、発酵時につくられるアルコールを利用するビール酵母やワイン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、そして味噌を作るのに加える味噌酵母など、それぞれに適した酵母が用いられてきています。これらはすべて、酵母が糖を分解してアルコールと炭酸ガスを作る「アルコール発酵」の一部を利用しているわけです。さらに酵母は発酵時に、自らの体内で、摂取した糖からビタミンやミネラル、アミノ酸など様々な栄養素も同時に作り出します。そのため酵母自体にそれらの栄養素が含まれていることから、酵母そのものを健康食品として商品化したものも増えてきました。その他、その食物繊維や酵素に注目して、整腸薬やその他様々な医薬品も開発されています。
しかし、よくよく考えてみると、キノコだって、食べ物として、あるいはときに薬として、人類の役に立ってきましたし、そうかと思うと毒キノコなんていうものもあります。病気の原因にもなってイメージの悪いカビにしても、例えばコウジカビは清酒酵母が使う糖を作り出すのに欠かせませんし、ブルーチーズなど、意外と多くの食品にとって不可欠な存在です。さらにペニシリンという抗生物質がカビから発見されたことも有名かと思います。
というわけで、菌類であるカビ、キノコ、酵母はいずれも、人の役にも立ちうるし、害にもなりうるものなのですね。役に立つか立たないか、害になるかならないかは、個々の種類の特性と人間の都合・事情が良くも悪くもマッチするかどうか、相性の問題ということらしいです。
であるとしても、菌類の繁殖しやすい条件、つまり、じめじめして、汚れていて、適度に暖かい、という状態は、その他の有害な細菌にとっても居心地がよいことが多いようです。ですからやっぱり清潔を心がけることは大切ですね。もちろん、現在の“清潔ブーム”は、ちょっと行き過ぎているのかもしれませんけどね(←以前、「子育ては不衛生に?!」というエントリーでもちょこっと触れさせていただいたとおりです)。
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コメント
醤油の発酵に使われるAspergillus sojaeや清酒酵母のAspergillus Oryzaeが免疫不全患者でアスペルギルス肺炎を起こすことがあるのも有名ですね。
あと、ピーナッツに生えて強力な発がん物質(アフラトキシン)を作るAspergillus flavusがAspergillus Oryzaeと生物学的にそっくりだったために排斥運動が欧米で起きたこともありますね。
僻地外科医さま
追加情報をありがとうございます。アスペルギルス肺炎については確かに触れるべきでした。
アフラトキシン、一般には意外と知られていないかもしれませんね。私ももちろん詳しくはありませんが、輸入のピスタチオが危ないという話を聞いたことがあります。そのあたり、また近いうちにさらに調べてみたいと思います。