確かに添付文書にも書いてはありますが・・・

投稿者: | 投稿日時: 2009年10月21日 17:50

インフルエンザを気にしていながら、普通のカゼをひいてしまった今日この頃。症状は軽いのですが、治りそうでもう5日ほど改善が見られないままに過ぎてしまいました。妊婦とはこういうものか、と免疫力が下がっていることを目の当たりにしています。


さて、そんななかで目に留まったのが、やはり下記の報道です。

http://mainichi.jp/select/today/news/20091021k0000m040154000c.html?link_id=RTH03" target="_blank">●抗うつ剤パキシル:妊婦服用で新生児に副作用30件
(2009年10月21日 毎日新聞)


私は今のところお世話になっていませんが、妊娠中は「マタニティーブルー」などといって精神状態も不安定になりがち。若い人のうつも増えていますから、妊娠前から抗うつ剤のお世話になっている人にとっては、なおのこと心配ですよね。

今回問題となっている「パキシル」は、抗うつ剤の中でも売り上げトップの製品とのこと。それだけに何かあれば報告件数も多くなるのかもしれませんが、他の抗うつ剤では、先天異常の報告はなく、新生児薬物離脱症候群も同期間で数件、というのに比べると、先天異常7件、離脱症候群21件というのは、やはり突出しているとしかいえないように思います。


しかも気がかりは、依存性が高い、というところ。依存性は多かれ少なかれ、どんな薬でも常用していれば出てくるものではあります。とくに本来は体が自分で作り出し、調節するべき成分であれば、薬を飲み続けていれば体がそれに頼るようになってしまうのは、素人でも想像がつきます。しかしだからこそ、効果てきめんなのはわかりますが、使い方には慎重になるべきなんですよね。


とはいえすでに妊娠前から長い間使っていれば、急に止めるのは本当に難しいことと思います。この報道を知って、少なからず後悔したり、あせったりしている妊婦さんもおられるかもしれません。でも、ぜひご自分を責めるようなことはなさらないでほしいなあ、とおせっかいながら思います。私自身、うつ病とまではいかなくても、これまでに、いろいろなことがうまくいかなかったり、なぜか必要以上にネガティブ思考になって、気分が沈んでしまう時期というのも何度かありました。そういう時ってついつい、何かうまくいかないと、それがたとえ運が悪かっただけである場合でも、自分のせいと思い込みがちになるんですよね。どういうわけか、いろいろこじつけて、そういう結論を導いてしまうのです。


ですから今回の問題でも、パキシルを飲んでいたこと、ましてうつ病になって薬を飲んでいる自分について、変に悩んでしまう妊婦さんがいたとしたら、それは本当に残念なこと。あるそれも意味“薬害”だと思ってしまうのです。


そして何より、実際に起きている副作用は、放置すればそれ自体、本当の意味で薬害とされうる状況ではないのでしょうか。記事では、「米国では05年12月、添付文書の『警告』欄に妊婦への慎重な投与を求める記載が加えられた。日本でも添付文書の『使用上の注意』欄に同様の記載があるが、警告では触れていない」ことについて、「厚労省安全対策課とグラクソは『日米の添付文書の書式の違いの問題で、現行で必要な情報は入っている』と話している」とあります。


そこでその添付文書を確認してみました。


たしかに、該当部分がありました。引用してみます。

●使用上の注意 2.重要な基本的注意」の一番最後

(9)本剤を投与された婦人が出産した新生児では先天異常のリスクが増加するとの報告があるので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人では、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合以外には投与しないこと。(「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」の項参照)

●使用上の注意 6.妊婦、産婦、授乳婦等への投与

(1)妊婦等:妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ本剤の投与を開始すること。また、本剤投与中に妊娠が判明した場合には、投与継続が治療上妥当と判断される場合以外は、投与を中止するか、代替治療を実施すること。[海外の疫学調査において、妊娠第1三半期に本剤を投与された婦人が出産した新生児では先天異常、特に心血管系異常(心室又は心房中隔欠損等)のリスクが増加した。このうち1つの調査では一般集団における新生児の心血管系異常の
発生率は約1%であるのに対し、パロキセチン曝露時の発生率は約2%と報告されている。また、妊娠末期に本剤を投与された婦人が出産した新生児にお
いて、呼吸抑制、無呼吸、チアノーゼ、多呼吸、てんかん様発作、振戦、筋緊張低下又は亢進、反射亢進、ぴくつき、易刺激性、持続的な泣き、嗜眠、傾眠、
発熱、低体温、哺乳障害、嘔吐、低血糖等の症状があらわれたとの報告があり、これらの多くは出産直後又は出産後24時間までに発現していた。なお、こ
れらの症状は、新生児仮死あるいは薬物離脱症状として報告された場合もある。海外の疫学調査において、妊娠20週以降に本剤を含む選択的セロトニン再
取り込み阻害剤を投与された婦人が出産した新生児において新生児遷延性肺高血圧症のリスクが増加したとの報告がある。]
 授乳婦:授乳中の婦人への投与は避けることが望ましいが、やむを得ず投与する場合は授乳を避けさせること。[母乳中に移行することが報告されている。(「薬物動態」の項参照)]


なるほど、海外の報告・調査として胎児・新生児への影響が記載されています。しかし、妊娠後も投与を続けるかどうかは、かなり現場に任されているという印象も受ける書き方です。ですが、国内でもこれだけの副作用が出ていながら現行の対応で本当によいのでしょうか・・・。素人としては不安です。


もちろん今回のような副作用報道によって使用を控える人が増えてくれば、重大な副作用の発生件数も減るかもしれません。しかし、依存性が高く、妊娠前から使用について慎重になるほうが無難な薬であれば、その旨はやはり添付文書でももっと強調されてていてほしいと、薬を使う立場からは思えてしまいます。もちろん主治医の先生の指導に従って服用するのですから、その先生を信用していれば間違いないはずですが、その先生だって添付文書に例えば「警告」として記載されていれば、患者の将来を見据え、早い段階から対応も違ってくるのでは、と思うのです。


そうするためには国内できちんとした研究を進める必要もあり、簡単に対応できるものではないことも想像はつきます。また添付文書の書き方については、これまでにもいろいろ議論がありました。現場の裁量を優先するよう配慮がなされていることもわかります。しかし今回のパキシルについては、添付文書に「現行で必要な情報は入っている」には違いありませんが、その上で出てきた問題です。ですからこのコメントは回答になっていないように思ってしまうのです。


正直、どう解決されるのが本当に当事者にとってベストなのかは、わかりません。でも、なんだかこの厚労省とグラクソの対応には不満と不安を感じえないのでした。

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コメント

妊娠時の薬剤の使用には、十分な検討と節度が必要であることは、もはや言うまでもないことのように思います。

妊娠可能な女性が抗うつ薬を継続服用することが必要であれば、これまでに十分な使用経験があり、悪影響がないということがはっきりしている、情報が蓄積されている薬剤を使用するべきですし、現在の日本ではこの情報にアクセスすることも容易です。

問題なのは、マタニティーブルーを市場と捉え、幾らかの(恣意的な?)情報をもって安全と売り込む製薬企業であったり、患者に対する十分な誠意なく科学的な姿勢を忘れ、製薬企業のセールストークに迎合してしまう医師、これらへの抑止力として機能していない薬剤師です。患者の医師への盲目的な信頼も、あるいは問題かもしれません。

今回のケースは、賢明な医療者なら十分に回避していたものです。


同様の失敗は何度も繰り返しています。必要なのはこの事実に向き合うことです。

妊婦さんは新型インフルワクチン接種も急がねばなりませんが、一部医療機関では、医療従事者の枠を医師・看護師以外にも拡大し、ワクチン追加配給を申し出ているそうです。その為、そういう医療機関では優先接種患者の数の調査も遅れており、診療に不安を抱える医療従事者も少なくありません。

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