ここでも信頼回復が大切かな、と。

投稿者: | 投稿日時: 2009年05月04日 11:46

昨日のエントリー「薬害防止に臨床研究支援? 検証委員会が第一次提言」で、2つのことが気になりました。


1つは、以前のエントリーでも取り上げた適応外使用のこと(「適応外使用はいけないこと?」)。そしてもうひとつが、「また基金か」ということです。

適応外使用については本当に難しいなあ、と思うばかりです。


以前取り上げた際も、「適応外使用はよろしくない」というスタンスと、「敢えてその余地を残している」という相対する考え方が、いずれも医療者から出てきた点が興味深く、また一般国民としては困惑するところでもありました。


そして今回の提言書でも、いくつか気になる箇所があります。(抜粋・要約)


●添付文書について

・「公的な文書として行政の責任を明確にし」
⇒これは添付文書の記載内容にない医療行為(>適応外使用)がなされた場合には、法的措置がとられた際に不利になるとはっきりさせるものでしょうか?「禁忌」の規定の性質と関連しても、気になるところです。

・「安全対策にとって重要な内容を変更する場合には、承認時と同様に、行政が定めた基準に基づき事前に確認手続を行うことを義務化するべきである」
⇒かなり時間がかかりそうです・・・。現状のままでは人手は足りないのでは?


●効能効果(適応症)の設定について

・「効能効果の範囲は明確に記載するべきである」
⇒あいまいあるいは広範な表現は排除するということですね。処方できる対象がかなり限れることになりそうです。


●適応外使用

・「エビデンスに基づき」「最新のガイドラインの作成・更新により」実施されるべき。「個々の医師・医療機関の適切な対応に期待するだけでなく、学会や行政のレベルでの取組が強化されるべきである」
⇒要は、医師一人の判断では行ってはいけない、ということでしょうか。新しいことを海外の学会の情報などで学び、その安全性についても海外で認められていても、ガイドラインが変更されるまで使えなかったりするんですね。

・「一定のエビデンスが備わっている適応外使用については、・・・速やかに保険診療上認められるシステムを整備するとともに、最終的には適切な承認手続のもとで、承認を得られるように体制を整備するべきである」
⇒適応外使用は、保険診療では認められないということがはっきりしそうですね(以前頂いたコメントに、適応外でも保険の申請が通ることもあるとありましたが、そういうのはなくなると)。


今、行われている多くの適応外使用は、この提言どおりならば、たいていストップしてしまうのではないでしょうか。猶予期間があったとしても、行政や学会の対応が、間に合うのかどうか。・・・と、この提言を見る限り、適応外使用についての方針が厳格化されることで、現場が混乱し、受けられる医療の内容に影響が出ないか、ちょっと心配もあります。


しかし一方、薬害を引き起こしたのが必要不可欠とはいえない適応外処方の多用だったことを考えれば、これくらいの措置は当然の対応なのかとも思えます。薬害をはじめとする不祥事でいったん失墜してしまった医療への信頼が取り戻されていない以上、信頼のよりどころとして「医師の正しい知識と良心」を提示されても「無理」と思うのは致し方ないことかもしれません。『医療バッシング」的な報道が過去にあったとしても、事実として国民が医療を信頼しきれていない現状があるのですから、その国民が納得できる方策を別途提示するほかないのです。


もちろん、私たちはこれまで、医師の方々の医師としての良心を信頼して、適応外使用についても判断を委ねてきました。ただ、医師をランダムに100人連れてきたとき、100人全てのが“良心的な”先生とは限らないのも、残念ながら事実だと思います。いろいろな人がいて当たり前です。例えば、15人の素晴らしい先生がいれば、55人のそれなりによい先生、25人の微妙な先生、そして5人の怪しげな先生がいても全く不思議はありません。(この数字はまったくもって適当なので、その「5人」がもっと少ない可能性もないとは言えませんが、0とは思えません。もっと多い可能性さえあります。)


結局、医療界の信頼回復の問題でもあるし、そうだとしてもそれだけを頼りに医師に命や健康を一任できると考える時代ではなくなっているのかな、という気もします。


さて、もうひとつの「基金」の話。

「委員も知らないうちに」、医師主導型の治験や臨床研究に対して政府の財政支援を増大させ、「公的基金の設立」等制度の整備を検討すべき旨が提言に盛り込まれたことについては、正直、「ああまたそうなんだ」って思ってしまいました。つい先日も、「基金」の性質や思惑についてエントリーに書かせていただいたばかり(「『基金』のねらい。」)。


ほんとうに、こういうのを「常套手段」というんですね。

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