がんの先進医療が普及すると医療費が増える? コメント欄

投稿者: 新井裕充 | 投稿日時: 2010年01月21日 19:57

 がんを切らずに治す「重粒子線治療」など保険適用が認められていない先進医療は多額の自己負担金が必要になるため、早期の保険収載を求める声がある。これに対し、「設備のランニングコストが年に40億か50億掛かる」などと反対する意見もある。「普及すると医療費が増える」という考えだが、「普及すればトータルコストは下がる」との声もある。(新井裕充)

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がんを切らずに治す「重粒子線治療」など保険適用が認められていない先進医療は多額の自己負担金が必要になるため、早期の保険収載を求める声がある。これに対し、「... 続きを読む

コメント

 中医協には費用負担者としての国民を代表する委員はいても、やはり病魔に苦しむ患者を代弁する人はいないのですね。

 残念なことです。

中医協は医療を、医療リソースを単なる消費財として患者に提供する消費者サービスである、と根本的致命的に誤解しているようですね。

この議論を読んでいますと、医療費が増えるかどうかということが保険診療の最優先になってしまっているように思います。
質の高い医療を提供するのならお金がかかることは当然ではないでしょうか。今でさえ歪みが生じている「パイは同じのままでやりくりする」、という方法をずっとやり続けるつもりなのでしょうか。

中医協が財務省の論理で動くのであれば、医療を守ろうとして動くのはどこになるのでしょう…

>森田知宏さん
>この議論を読んでいますと、医療費が増えるかどうかと
>いうことが保険診療の最優先になってしまっているように
>思います。

保険診療はマクロで考える事になりますので、「同じ医療費を使うのであれば、コストパフォーマンスが高い医療にお金をつぎ込む」事を先に考えるのが自然だと思います。

その意味で、関原委員の

"重粒子線(治療)を全国に普及するのは反対。設備が70億とか100億(掛かる)ということはもちろんあるが、ランニングコストが年に40億か50億掛かる"

と言う発現は重要だと思います。100億かかるのは分かるとして、保険適用した場合、40億か50億のうち大部分は医療費から拠出される事になります。

私は、それだけのお金があるのであれば、例えばお産に健康保険を適用するとか、インフルエンザ等の予防接種にコストをかけた方が有効だと思うのですが、いかがでしょうか。

私自身はパイを増やすことには賛成ですが、増やしたパイを箱モノに使うのは反対です。増やした分は、全国民が恩恵を受けるような方向に使うべきではないでしょうか。


もっとも、重粒子線の治療設備が、国民全員に恩恵を与えるというのであれば、話は別です。例えば、私の様なものが、日常的に重粒子線の治療を受けるような事があれば、保険適用するべきだと思います。


ですが、医療側委員の発言は、目的が明確ではなかった。そのあたりが残念ですね。なぜ重粒子線設備が必要なのか、なぜ保険で適用しなければならないのか、説得力を欠いていたように思います。

 しまさん、こんにちは。横から失礼します。

 ランニングコスト(維持費)と言った場合に、固定費的なものと変動費的なものの両方があります。前者では患者数によって金額が変わらず、後者では患者数によってそれが変わります。

 少なくとも重粒子線治療では、初期投資が莫大で、固定費的維持費が次であり、変動費的経費は相対的に非常に小さくなります。利用が増えても増える経費はわずかであり、各々の患者の負担は軽減されます。単価が下げられるわけです。

 保険適応となることのメリットは、利用が増えるところにあります。単価が下がります。

 しかも、少なくとも現在のところ、費やされているのはほとんどが公的資金です。たぶん、今のところ国民医療費には含まれていませんが、国民の負担で建設・運用されていることに違いがありません。

 さらに、この場合、高額な自己負担で利用を抑制することによって、経済的余裕のある人だけが使用可能となる階層消費という性質が出てきます。多額の国民負担で作られた治療施設が、ある程度以上のお金持ちにしか利用されないというのは公平でしょうか。

 これと施設数を増やすかどうかはまた別の話ですが、もし今後、低価格化を図ることができるとすれば、それは数を増やしていくしか方法がありません。新規医療施設の普及は、低価格化とセットで行われてきましたし、今後もそうです。医療以外の分野でも事情は全く同じです。


 さて、医療費を無制限に増額させることはできないにしても、現在の日本の医療費水準は低すぎるということに異論を唱える研究者はほとんどいません。

 それはそれとして、医療費分配の優先順位をどのように付けるかという点については、価値判断になります。現に特定の医療サービスを必要としている患者さんにとって、他の医療サービスの優先度は低くなります。

 たとえば、がん治療を必要としている患者さんにとって、脳血管治療も心臓手術もお呼びではないのです。

 もっと極論を言ってしまえば、国民全体という視点で言えば、費用の大半を負担している健康な国民と企業経営者にとって、医療サービスなど必要でないという立場にある以上、皆保険制度など無い方がいいものです。病気になった一部の国民のための医療費負担などしたくありません。

 現在、アメリカで医療保険制度改革でオバマ政権が危機に直面していますが、経済学的には理論的に当然のことであると思います。

 必要なのは、自分が今は健康でも、いずれは病気になることもある、そのときに自分は何が必要なのかという想像力だろうと思います。

 今回の議論に参加した中医協の委員で、その辺りの基本的知識に欠けている方は一人もいなかったと断言できます。

そのまえに、重粒子線治療の医学的意義を問うのが先でしょう。
癌とは浸潤性で転移することが主な悪性的定義ですが、
重粒子線治療とは、境界明瞭で局所治療だけが対象になります。

境界明瞭で局所にとどまる癌という極めて限定的な治療ですから、
脳血管治療も心臓手術も比較の対象になりません。

まず、境界明瞭で局所にとどまる癌がどれほどあって、
その対象患者数が何人いるかを議論すべきでしょう

群馬県における年間重粒子線治療対象患者数の推定 : 第2報 がん罹患数及び重粒子線適応患者数
http://ci.nii.ac.jp/naid/110001801496/

この論文の重粒子線適応率は
肝細胞癌23%
膵臓癌 47%
肺癌 6%

この時点で、この統計はまったく意味を為さないと思います。
どのような肝細胞癌が23%に含まれるのか
膵臓癌の半分が重粒子線の適応になるなんて話も初めて聞きました。

もう少し現実的な議論をして頂きたいものです。

> もう少し現実的な議論をして頂きたいものです。

 もし、算定の根拠が誤っているというのであれば、正しい数字をあなたが提示するべきです。他の誰でもないあなたの責任であると思います。

 また、そこまでおっしゃるなら、詳細な検討をなさった上で、ご自分で具体的な数字を上げ、論文の形で発表されるべきでしょう。

 あるいは批判的な研究論文が既にあるなら、それを引用されるという形でも構いません。

 研究者の端くれとして、あなたが現実的だと思うかどうかに興味はありませんが、他者に対する批判にはそれなりの根拠を持っていて然るべきと思います。ただケチを付けるだけでは批判として成立しません。

 また、このままでは、あなたは他者の批判はするのに、ご自分が批判的吟味されることを回避していると言われても、反論できないのではありませんか。

 重粒子線治療は、土地確保の難しい都市中心部では参入も難しいのですが、郊外にある程度まとまった敷地を持っている施設であれば、将来導入可能です。また、一般に先行投資が充分に報いられることのなかった設備産業では、むしろ遅れて追随した事業者の方が有利に立ちます。設備の性能が上がり、価格も低下するからです。

 さらに言えば、他者に対する批判に当たっては、現状だけでなく、将来ありうるご自分達のお立場もよく検討された上であった方がよいのではないでしょうか。ご自分達の主張で将来の自分自身の経営上のフリーハンドが縛られるようなことは避けたいものです。

どうも、議論の軸がずれているので。

たとえば、膵臓癌は以下のような分布を取ります(全国集計の結果)。
StageI 2%
StageII 4%
StageIII 12%
StageIV 82%

さて、重粒子線の47%がどこを対象にしているのか、疑問を持つのは当然ではないですか?それが明らかでないということが「ケチ」になるのでしょうか?

肝癌でも同様です。
「ミラノ基準外のChildBCで重粒子線の適応になる症例が何%存在する」というなら議論の場に立つことができます。
Child Aのミラノ基準内が23%のわけがない、ということを申し上げた次第ですが。

「もう少し現実的な議論をして頂きたいものです。」と書いたのは、そういうことです。

「>Child Aのミラノ基準内が23%のわけがない」根拠

第18回原発性肝癌全国追跡調査結果(n=20753)

Child A 71%, Child B 24%, Child C 5.4%
画像診断による最大腫瘍径5cm以下 80% 3cm以下 58%
腫瘍個数 単発 58% 3個以下83%

いずれにせよ正確な情報はないと考えてよいと思います。

それよりも、重粒子線治療に限らず、高額医療を医療費だけでなく、国費の限られた枠の中でどうしていくのか、という議論に戻りませんか?

 文献の批判的吟味をしようというのであれば、まずそれを読まねばなりません。数枚の図表だけ見て本文を読まず、自分勝手な適応基準を元に「明らかでない」などと言い放つことは、読み手として失格と思います。

 図表の数字の引用元文献については文中に明記されており、これもまたネット上で無料で読めます。

 積算根拠や前提について思うところは自分にもありますが、そのいくつかについては論文中で触れられており、この種の推計の中では比較的良心的な文献であると思います。

 因みに、治療対象には隣接臓器への浸潤例が含まれていることも引用元文献で触れられています。読めば明らかなことです。

>自分勝手な適応基準を元に「明らかでない」などと言い放つことは、読み手として失格と思います。

わたしは、各種癌取り扱い規約やガイドラインあるいは、国家規模の疫学研究の結果を想定して話をしています。中でも肝癌は特殊な治療効果判定が必要で、肝癌取り扱い規約では肝癌集学的治療効果判定基準という基準を設けています。その他の癌はほとんどRECISTの基準が効果判定に利用できると思います。

しかしながら、当該論文はそういった世の中のGold standard から著しく異なる病期の分類基準や隣接臓器の定義もよく分からない適応率という独自の基準で「重粒子線で治療することが望ましい」ことを規定しようとしているようです。

自分勝手な適応基準を元に判断するのは読み手の自由かもしれませんが、適応の有無とGold standardな治療は読み手の努力とは別次元の話です。

国家的規模で検証され続けているGold standardは、治療効果判定、OS、DFS、いずれの価値判断を用いてもそれぞれの病状に応じた対処方法が確立しており、これらに基づいたコメントを「自分勝手な適応基準」と定義される真意を図りかねます。

Gold standardな視点で比較して重粒子線が生きる場所というものについてある程度のコンセンサスが成立していることは専門家の間では既知であり、「no data」は論文にならないことも自明です。よって

>高額医療を医療費だけでなく、国費の限られた枠の中でどうしていくのか、という議論に戻りませんか?

高額医療を国費の限られた枠で使うためには、上述のGold standardの診断治療方法に比べてどれほどの治療効果判定、OS、DFSが得られるかということに最大限の関心を払う必要があります。

 重粒子線治療の適応について、既にそんなに明確な基準があるとおっしゃるなら、具体的数字を提示しては如何ですか?

中村先生の意見も分かりますが、表現が挑発的&EBM偏重すぎるように感じます。

>積算根拠や前提について思うところは自分にもありますが、

上記、大いに賛成です。第一報の方も拝見させていただいたうえで、バイアスなども含めて思うところがありすぎて、正確な情報はない状況と判断させていただいています。

重粒子線治療?期待される効果に対して、お金がかかりすぎると思いませんか?重粒子線治療の優先順位は政治的課題として決定するしかないでしょうね。

 TTさん、こんにちは。

 議論の内容がEBMに偏重していることは認めますが、それは単に酔狂でお付き合いしているだけに過ぎません。正直に言えば、この問題に関しては後述するような意味で自分はほとんど興味がありません。というわけで、敢えて詳細な内容に踏み込む発言はしないように気をつけているつもりです。

 論文をきちんと読み込む努力もせず、放医研の各臨床研究班に属する研究者達がどのような効果判定基準を採用しているのかを知ろうともせず、あるいは採用しそうであろうか想像すらせずに議論に参加しても、結果は見えています。将来的に診断医や化学療法医、外科医が鼻も引っかけないような評価基準で重粒子線治療の研究を行っても、あれだけ多額の研究費が続くわけもないでしょうし、明るい未来が開けるはずもありません。

 自分は、そのような若い議論であることを再三指摘しているだけのつもりです。教育者の端くれとして、これを軽くあしらうという選択肢は、自分には許されていないと考えています。

***

 50年以上も前にアローが証明してしまったように、学問によって国民のニーズの優先順位を決定することはできません。経済学であろうとEBMであろうと、判断材料を提供する以上のことはできないのです。

 それは価値判断であり、政治の仕事です。

 重粒子線治療を保険診療として収載するかどうかはまさに価値判断ですから、避けようもなく政治の出番であると思います。中医協とは、そういう意味で紛れもなく政治の場であり、ここで議論が行われることは必要なことと思います。

 しかし問題は、医療提供者や費用負担者の意見が中医協の場に出ても、患者の意見を代弁する声のないことが、その構成メンバーから決定されていることです。特に費用負担者が想像力を持たず、自らが病者となったときのことを度外視するとき、構造的に政治の場から患者の声が排除されてしまいます。

 政治の場としての中医協には明白な欠陥があり、それがこの議論の中であまりにも典型的に表在化しています。当事者である患者の声が不在であることによって、議論の正当性と公正性に大きな障害となっていることを指摘せずにはいられません。


…以下は一国民としての立場から個人的意見を申し上げます。

 既に莫大な国費を投じた治療施設があり、一定以上の効果と得失が一応は提示され、患者に選択の余地が生じているときに、富裕層には利用できても平均所得水準層や相対的貧困層がその選択肢を排除されてしまうという現状が、この國の有様として正しいとは思えないというのが、正直なところです。

 むしろ、この國の富裕層には、貧者のために高く一灯を掲げる存在であって欲しいと思います。

中村先生、丁寧なお返事、ありがとうございました。

総論同意します。

>むしろ、この國の富裕層には、貧者のために高く一灯を掲げる存在であって欲しいと思います。

 権丈善一先生も指摘していますが、日本の法人や富裕層の所得税負担は欧米並みであり、年収500万円世帯の負担率が低くなっている状況です。富裕層の所得税負担を増やすのはあまり現実的方法ではなく、消費税の増税がよいと考えていますが、それで実際は富裕層の負担が増えることになります。

経済的余裕とエリートであるかどうかは別だと考えます。日本におけるエリートが努力し、富裕層を含めた国民に政策について理解してもらうようにもっていかなければなりません。

むしろ、富裕層というよりは、日本におけるエリート層がそういう存在でなければならないということだと思います。

>一定以上の効果と得失が一応は提示され、
>患者に選択の余地が生じているときに

提示された範囲では、一定以上の効果と得失があるかどうか、はっきりとしていないと思います

であれば、現状では「富裕層が趣味で行う」レベルに他ならないのではないでしょうか。

自信を持って「国民の大部分がいずれ使うようになる」と仰るのでしたら話は別ですが、それだけの根拠が提示されていないように思うのです

 しまさん、こんにちは。

 日本の臨床試験のスキームはあまりにも貧弱で、この種の高額な治療の普及の障害になっています。

 本来であれば、保険適応の前にもう一段階の、患者さんの費用負担なしで行う臨床試験をという仕掛けが必要ではないかと思っています。

 ご発言が一つの典型ですが、一般に情報の要求水準には非常に大きな個人差があります。全ての人が納得するような情報提供の水準などは実現不可能です。また、得失は最終的には価値判断ですから、置かれた立場によって同一人物であっても評価が異なってきます。そしてそれにひきずられて、しばしば情報要求水準の方もまた変わってくるのです。

 効果のアヤシイ民間療法に大金を投ずる人の少なくないことがそれを証明しています。…それが好ましくないのは高額だからではなく最初からまじめに効果が検討されていないからですけれども。

 そういう意味で、当然にサービス提供側が治療効果を過大評価するようなことは厳に慎まれるべきと思います。

 対して、健康で現にその治療法を選択肢の一つとして検討の対象としているわけでもない費用負担者の情報要求水準や得失の基準は、当然に高いものになります。

 因みに、学問によって費用便益比等を算出することはできますが、その水準について一応の目安を設ける作業の方は価値判断であり、万人が納得するようなものを提示することは原則不可能であるとされています。

 さらに言えば、医学も医療も漸進的に発展してきたのであって、残念ながら既存の治療法の多くも、充分な情報が提供できる状況にはありませんし、採用不採用のための得失の検討すらされてきませんでした。それは洋の東西を問いません。

 効果や便益は、一定以上の症例が集まらないと算出できません。日本の場合、この種の分析の体制がお粗末であることもまた間違いないところですが、実は国際的に見ても、必ずしもお考えになるほどに充分に情報収集と分析が行われているわけではありません。

 EBM教育の中で、しばしば学生達はあまりにも多くの疑問に対して答が用意されていないことの方に驚かされます。

 日本の場合、高度先進医療の多くが、ワラにもすがる富裕層をモルモットにして進んできたことは否定のしようもありません。重粒子線治療もまた、この数年間はそうして進んできました。

 しかし、しまさんのご発言を見る限り、富裕層だけを対象にしていたのでは、そろそろ困難な段階に入っているようです。

 つまり、これ以上の分析の精緻化を図り、お求めの情報をはっきりさせるためにこそ、金持ちの道楽という現状に留まってはいられないということです。

 解決策として保険収載が適当であるか否かは検討の余地があるかと思います。少なくとも現在提供されているスキームの中では、あとは研究費などの形で、望む人全てに国費で治療を提供し続けるというぐらいしか選択肢はないのではないかと思います。

 参考までにお聞かせいただきたいのですが、どの程度の金額に相当する効果・効用・便益等があれば、重粒子線治療の保険収載が正当化できるとお考えなのか御提示いただけますか?

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