法令遵守と患者死亡 |
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投稿者: 中村利仁 | 投稿日時: 2010年02月26日 15:05 |
このブログで何回か取り上げてきた、いわゆる奈良県・山本病院事件での肝切除患者死亡事件で、手術助手を務めた医師が留置場内で死亡されました。
ご冥福をお祈り申し上げます。
報道によれば、奈良県警と奈良地検は早々に被疑者の取り調べなどに問題はなかったと発表しています。
一見して病死であっても、必ずしも事件性がないとはならないのは、まさにこの事件全体で警察と検察官が主張しているところです。今後、他府県の警察と検察官の手によって、真摯な捜査の行われることを期待します。
奇しくも、肝切されて亡くなった患者さんの当初の死因も急性心筋梗塞と届出されていたとの報道が散見されています。やはりこの医師の死因も急性心筋梗塞であるとされたとのことで、警察や検察官からの、敢えて死者に鞭打とうという、強い皮肉が感じられてなりません。
これから解剖をするのだそうですが、「いびき」などのキーワードからは、まず自分であれば最初はクモ膜下出血や脳梗塞など、他の疾患による死亡ではないかと想像するからです。そこを敢えて心筋梗塞としたところに作為を感じます。
また、警察と検察官の主張は、今のところ、あくまでも定められた規則と手続きは遵守されていたということしか担保していないように感じられます。
聞くところによると、留置場等においては水分摂取も制限され、運動も思うように許されていないとのことです。そもそも被疑者が警察と検察官が主張する心筋梗塞や脳梗塞のリスクを抱えているのであれば、実際に留置場内等においてこれら疾患を発症する可能性は相当に高くなるものと思います。これが深部静脈血栓症から来る肺塞栓症等であれば、死亡との間にほぼ直結する因果関係が想定できます。
しかし、通常、医師どころか一般の国民であっても、留置場内等での具体的生活は知ることがありません。
たとえば今後、この医師の死亡の責任を、死亡前に診療した病院医師などの医療過誤として責任転嫁していくようなことがあれば、その前提として、きちんと医師に対して然るべき情報の与えられていたことと、それを承知の上で療養を引き受けることに同意していたことを説明して証明する責任を、警察と検察官は負うべきと思います。
さらに言えば、規則と手続きさえ遵守していれば人命が守れるというのは、法律の条文の世界だけの話であり、そう言う点での落ち度がなくても医療現場では人は死んでいくものです。警察と検察官が今回の件からそれに思い至ることは期待しませんが、彼等は分かっていないということが、また、マスメディアもまたそれを看過して疑問に思わないということが、今回の事件の報道からは非常によく伝わってくるものと思います。
【追記】
別の報道によると、亡くなった医師は13日に「転倒」し、頭部を打撲していたようです。司法解剖の結果が待たれます。
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コメント
日本国内で人が死亡した場合には必ず医師の死亡診断書か死体検案書が必要です。
記事には
>勾留(こうりゅう)中の警察署内で死亡した問題で、奈良県警と奈良地検が25日、会見し、留置場管理や取り調べは適正だったと説明した。県警は急性心筋梗塞(こうそく)とみており、26日にも司法解剖して死因を特定する。
とありますが、これは最後の診察から24時間以内の「病死」でしょうかそれともそれを過ぎた「変死」でしょうか。
「病死」なら死亡診断書が発行されていますから県警が急逝心筋梗塞とみている根拠は診察医が発行した死亡診断書の第一死因欄の記載ということになります。普通は死亡診断書がある場合には司法解剖は必要ないでしょうが、なぜ警察会見で勾留と無関係な病死であると発表後の翌日に「変死」の場合に行なわれる司法解剖を、誰が行なうのでしょうか。
本来人が死亡することを予期しない場所、しかも公権力の行使がなされる場所で人が死亡したという事実があるわけですから、業務上過失致死の有無について検察審査会に申し立てる意義はあるかもしれせんね。
肝切手術に入れる様な健康な外科医が、警察内で転んで頭部打撲って怪しくないですか。もしや警察官に殴打されたのではないですか。山本容疑者の有罪に繋がる証言を引き出すための拷問中に誤って死なせたのだと思えませんか。
業務上過失致死というより特別公務員暴行陵虐致死ではないかと疑っています。司法解剖の結果が知りたいです。
日本の司法解剖では、結果は警察に知らされるだけであり、解剖に当たった医師は独自にこれを公開することは許されていません。
従って、警察にとって不都合な所見が公開されることは期待できません。
司法解剖が行なわれるということは変死であったということですね。警察は死亡確認した医師が発行した死亡診断書を持っていないまま虚偽の死因である急性心筋梗塞を発表した疑いが強まります。そうであれば当然留置所内ではうめき声が聞こえた時に外部の医師の診察を受けさせていなかったという「不適切な勾留管理」が行なわれ、結果的に被勾留者が死亡したので少なくとも適切な管理義務を負っている警察自身に業務上過失致死容疑が成立するということになります。
亡くなった医師の遺族や弁護士は直ちに警察内部で刑法違反の業務上過失致死の犯行が行なわれた疑いについて警察に訴え厳正な公開捜査を要求することができると思います。
その捜査の際に司法解剖の報告書は重要な証拠物件として開示されます。
> 亡くなった医師の遺族や弁護士
亡くなった医師に既に弁護士が付いているのかどうかは存じませんが、遺族としてはこれを刑事告訴することは社会的に困難であろうと思います。
「患者を殺しておいて何を!」と怒りを買うことが目に見えているからです。
警察と検察官は、その状況は充分に利用できると判断しているであろうと思います。
また、この医師の死亡についての捜査は、山本病院事件全体の捜査に既に関与している奈良県警本部捜査一課が行います。公平中立な捜査が期待できるとは、一般に判断されないだろうと思います。
犯罪が疑われる行為について警察に告発することは基本的人権に付随する個人の権利であり、新聞や世間の噂などで基本的権利の正当な行使は阻害されません。正当な行使は社会を犯罪から守る市民の義務ですらあります。
また警察署内であろうとどこであろうと犯行を目撃してこれを黙認看過すればその者は誰であれ共犯の嫌疑がかけられます。警察官であっても同じことです。
警察は告発があれば捜査を開始しなければならず、捜査内容はすべて公式の書類に記載されなければなりません。その書類は遺族または弁護士の請求があれば開示されます。
司法解剖の報告書内容は捜査報告書にかならず記載されます。公文書ゆえ捏造や作文は不可能ですから、それで司法解剖の報告書を警察自身の手で公開させることが可能になると思います。
御説ごもっともと思いますが、この医師の遺族はもちろん、自分を含む他の医師全てについても、やはり刑事告発することは困難と思います。不適切な医療行為を行った医師の側につき、患者の死を蔑ろにするのかとう批判が必ず出てくるからです。
同様の理由で、遺族が情報開示の動きを少しでも見せれば、警察と検察官はマスメディア等を使って同様の避難の大合唱を行い、これを牽制するであろうと思います。
開示請求は為されないでしょう。
> 不適切な医療行為
言うまでもありませんが、行われた医療行為の是非について、自分の手許には積極的にこれが不適切であったと判断する材料はありません。
この医師の死亡に関係した警察と検察官とを策源として、そういう主旨の非難が行われるであろうということを述べているだけです。
警察は既に死亡確認の時点でミスをしています。すなわち医師による死亡確認が行われて病死の死亡診断書をもらっていないのに「急性心筋梗塞」で病死したものだから管理は適正だったと発表するというミス。ミスでも刑事事件性の高いミスです。
まず第一に死因が病死の死亡診断書があれば勾留管理については適正であり事件性がなかった証明ができますから、事件性を疑うときに行われる司法解剖は行われません。「病死」と診断されていないからこそ死因を明らかにする司法解剖が行われたのであって、死因が司法解剖されなければわからないのに司法解剖前に
>奈良県警と奈良地検は早々に被疑者の取り調べなどに問題はなかったと発表
しています。この発表に見られる手順前後は明らかに法律の定める手順に違反しています。その一事だけをもってしても「不適切な管理」が行われた事実を隠す違法な捜査が奈良県警と奈良地検によって現に行われていることが告白された会見であったという仮説が、合理的にはもっとも事実に近いと考えられましょう。
捜査すれば簡単にわかることです。
警察と検察官には自浄能力がありません。無いことによってわが身の安寧を確保しています。
今後とも、国民は殺され損という状況が長く長く続くだろうと思います。
医師の世界でも自浄能力は低いのですが、しかしながら、信用できない医師と一緒に仕事はできません。また、一緒に仕事をしていればその人柄を隠し続けることもできません。
組織人ではない医師の利点は、去就の自由があることです。わずかな自浄作用を守るためにも、その自由を制限することがあってはならないと思っています。