第1回不活化ポリオワクチン検討会 傍聴記 その8 |
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投稿者: | 投稿日時: 2011年09月14日 20:30 |
8月31日に開催された「不活化ポリオワクチンの円滑な導入に関する検討会」の傍聴記⑧、最終回です。前回と前々回は、ようやく動きが出てきた検討会の最後の最後の部分を、構成員の方々、座長、健康局長のやりとりをできるだけ再現するかたちでお伝えしましたが、今回は、その最後の最後の部分の何がどう残念だったのか、書いてみたいと思います。
まず、前回までの流れ全体を振り返って気づくのは、
●現場で子供や親御さんと接している医療者
●ポリオに感染することがどういうことなのか、身をもって感じていらっしゃるポリオの会の方
●親御さんからの相談や悩みに向き合っている編集者
といった人々は、目前に迫った(実際には9月から始まっている自治体もありますよね)秋の生ワクチン集団接種について、自らがどういうスタンスをとり、どう対応していくべきか、非常に危機感を持って検討会に臨んでいる、ということです。
これに対して、
●医学や疫学といった専門的見地からポリオという病気を捉えている研究者
●国と親御さんの間に立って定期接種を滞りなく遂行する立場にある自治体関係者
といった人々は、もちろん真剣に深刻に問題を捉えてはいるのですが、なんとなく一歩引いた場所から全体を眺めていて、ある意味冷静、だけれどもどこか他人事というか、あくまで研究対象や業務の対象としてポリオとその問題を扱っているように見えてしまいました。そう考えると、目の前にある秋の集団接種のことはともかく、来年度以降、いつかは実施される不活化ワクチンの導入に向けての話をじっくり順を追って重ねていこうとしている、そんな感じの姿勢も理解できます。
この両者の対立、前半は明らかに後者の思惑(もちろん意図したわけではないはずですが)通りに進んできたのですが、最後になって前者、保科氏(小児科医会会長)や保坂氏(医師会常任理事)がアクションを起こし、外山健康局長が発言するに至りました。
外山健康局長の発言で、一番聞き逃してはならないのは、「ここで(構成員から)秋のOPVについて提言をもらうことは、私は考えておりませんでした。ただ、それについても緊急にご提示いただくのであれば、専門家のグループでありますから、いただきたいと思うんですけれども、国の考え方としてはちゃんと予防接種法上、いろいろなことも考えて今のOPVということを制度的に推奨しているのでありますから、これはこれでやっていただきたいというのが私どもの政策上の立場です」という部分。
どうしても、「国の考えかたとしては予防接種法上・・・やっていただきたい」云々が直後に出てくるので聞き流してしまいそうになりますが、その直前。健康局長という権限のある立場の人が、要は「この検討会の場で、構成員=専門家としての緊急提言があるなら、いただきたい」とはっきり口にしているのです。
これについて、著書『誰が医療を守るのか―「崩壊」の現場とポリオの記録から』で、昭和30年代に生ワクチンがお母さんたちの力で緊急輸入に至った過程を詳細に取材され、現在もポリオワクチン問題について取材をされているフリージャーナリストの真々田弘さんと少しお話することがありました。真々田さんは次のように分析しています。
●先日も「6月の生ワクチン接種率低下」の報道があったが、あの数字は1回目接種者と2回目接種者を合わせたもの。1回目接種者だけで見れば、さらに10%以上接種率は低いはず。秋の定期接種ではいっそう下がり、接種者と未接種者の割合は相当接近するだろう。
●かといって、不活化ワクチンの輸入量は現在、月に1.6万本程度。0歳児が100万人としても、全く足りる数ではない。
●この事態を、健康局長はじめ厚労省はある程度認識して、危機感を持っているにちがいない。
●しかし、厚労省としては立場上、自らは動けない(前任者を否定することになる)。
●動くには、外からの力、専門家たちのお墨付きがほしい。
「この構図は、かつて厚生省が手をこまねいている間にお母さんたちが立ち上がって、ポリオの生ワクチンの緊急輸入を認めさせたときの状態に非常によく似ている」と真々田さんは言います。つまり、検討会はいつもどおりガス抜きの意味も持っているのかもしれないけれども、今回の場合は、実は状況=数字を把握しつつある行政側には危機感も生まれてきているのでは、というのです。何しろ、数字が数字なので。それが健康局長の「緊急提言があるなら・・・いただきたい」発言につながっていると見るわけです。
しかし、です。実際には議論を呼んでいただいたとおり、そうはうまくはいかなかったのですよね。今回の失敗(←あくまで私のスタンスから見て、ですが)は、行政と専門家の間にも、認識の乖離があったことです。いろいろな立場の人を構成員として集めているのですから、構成員内で意見が分かれるのは当然であり、そうあるべきなのかもしれませんが、健康局長がさらっと発した言葉をぐいっと捕らえて活かすことができれば、議論はまた違った方向へシフトしたかもしれないのです。公開の検討会という公の場での健康局長の発言ですから、本来、かなりの重みがあるはずですよね。
さらに、省庁検討会ビギナーの私はきちんと認識していなかったのですが、健康局長は次回からの検討会には顔を出さないだろう、とのこと。今回は第1回で、議題がタイムリーで世間的にも関心が高いから同席したけれども、第2回以降は「公務で欠席」というのも普通らしいのです。だとしたらなおさら、今回はチャンスを逃した、という気がしてしまいます。
それにしても、今回の接種控えについては、5月末の厚労省による安易な発表が大きな一因となっていることは否定できないですよね。お得意のガス抜きをしたはずが、かえって事態を悪化させてしまった責任をどう考えているのでしょうか。まあ、だからこそ、この数字の低下にあわてているというのもあるのかもしれませんが・・・。
兎にも角にも、こうして第1回検討会は、いつもどおり無難な、事務局の文字通り筋書き通りの着地点に収まってしまったのでした。蓋を開けてみれば、よくある検討会だった、ということです。とくに、不活化ワクチンの導入そのものは、いつになるか正式には分からないけれども、もうとりあえず決まったこと。先の見えているテーマである以上、次回以降もガス抜き検討会に終始してしまうのか、はたまた次なる動きが出てくるのか・・・。一応、何かが起きる少ないチャンスをどこかで期待しつつ、第2回以降の検討会も傍聴してきたいと思います。