大野病院事件の加藤医師を迎えたシンポ |
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投稿者: 熊田梨恵 | 投稿日時: 2011年10月08日 19:34 |
日本の医療界の歴史を変えた「福島県立大野病院事件」。
被告だった加藤克彦医師を迎えた公開シンポジウムが10月8日に兵庫・尼崎市内で開かれました。
加藤医師が公の場に出るのは3回目ですが、一般の方の前に立たれるのは初めてです。
私も業界紙の記者として大野病院事件について取材していましたが、実際に加藤医師にお会いすることはなかったため、とても緊張して今日を迎えました。
医療支援ボランティア団体「医療を支える関西オカンの会」が主催する産科医療をテーマにした一般公開シンポジウムでした。
詳しい内容は後日記事としてアップするため詳しくは書きませんが、パネリストはコラムニストの勝谷誠彦氏、参院議員で医師の梅村聡氏、奈良県立医科大准教授で救急医、小児科医の西尾健治氏。ゲストに現在は国立病院機構福島病院産婦人科部長の加藤克彦氏、日本産科婦人科学会副幹事長の澤倫太郎を迎えたシンポでした。
会場には一般の方のほか、産婦人科医を含む医療者、加藤氏に診てもらっていたという妊婦さんも。定員200人の会場はほぼ満席でした。
加藤氏からは約20分間、大野病院事件に関する経緯や思いなどが語られました。「ご遺族の方は私の顔も見たくないだろうし声も聞きたくないだろうと思います」と、一般の方の前に立たれることをためらい続けておられる様子が伺えました。どれほどの思いで今壇上におられるのか、言葉を発しておられるのかと思いを巡らせますが、私などが想像するには余りあります。実際に自分が文字として書いていた大野病院事件。当時被告だった加藤医師はそのような思いをされていたのかと、様々な思いが巡ります。会場は加藤医師の話に聞き入っていました。
加藤医師の基調講演の後、印象に残るやり取りがあったのでそこだけ先に取り上げます。
司会(関根友実・フリーアナウンサー)
加藤先生が臨床に戻られても、産婦科を離れられるのではないだろうかという噂が流れたのですが、どうしてまた産科に戻られたのでしょうか。
加藤克彦医師
正直なところ2年半というブランクがあるという事と、後は、以前よりちょっとやっぱり怖くなってしまったという事があって、産科をあきらめようと思ったこともあるんですけども、やっぱりお産が好きなので、お産した後の妊婦さんの顔をですね、赤ちゃんと対面した時の顔、あの顔を見るともう今までの疲れもぼんと取れちゃうような、ああいう気持ちのいい場にまた戻りたいなという気持ちがありまして。それから弁護士の先生からですね、「先生は産科の象徴みたいな感じだから、やめさせない、やめるな」という感じで言われたのもありますが、やっぱり妊婦さんあの笑顔、あの笑顔を見たいがために戻ってきたというのはあります。
この発言を聞いている時には、会場のあちこちから鼻を啜る音が聞こえてきました。
その後ディスカッションが続きましたが、今日中に福島に帰るために一足先に退場された加藤医師をタクシーまでお送りしました。
この時私の中には、大野事件の判決が出るまでに取材してきた様々な医療者や市民、団体、政治家、メディアとの出会いが駆け巡っていました。私のこれまでの仕事も、大野病院事件に関係するものがほとんどと言って過言ではありません。その中での喜び、悲しみ、怒り、苦しみ、多くの人たちが「変えよう」と立ち上がり大きなうねりを巻き起こしたこの事件は、医療界の歴史に残ります。多くの人たちの顔が、私の中をぐるぐると渦巻いていました。
加藤医師は一般の方の前で話されるという、とてつもなく疲労するであろう時間を過ごされ、お疲れであることは十分に察することはできました。私は、ものすごくためらう気持ちもあり、どうしようかどうしようかと悩んではいたのですが、やはり伺いたいと思って伺ってみました。
熊田
加藤先生、すみません、一つだけ、一つだけお言葉をいただけませんでしょうか。私は医療記者として大野病院事件の周辺を取材してきました。医療者も市民も、加藤先生のこの事件については許せないことだと、加藤先生は無罪だと主張して応援を続けてきました。それまであまり声を上げてこなかったような医療者が初めて声を上げ、いろんな意味で医療の歴史の変わる出来事だったと思っています。その加藤先生の声を、みなさん聞きたいと思っていると思います。先生を応援してきた医療者や市民にメッセージをいただけないでしょうか。
加藤
(しばらく黙って上を向いてから)そうですね、みなさんにとてもとても感謝しています。皆さんの応援が力になって、勇気を得られて、闘ってくることができて、無罪判決を得ることができました。今の自分がこの仕事をできているのも、皆さんのおかげです。皆さんに感謝して、これからも僕は地域医療をがんばっていきたいと思っています。
加藤医師はゆっくりと力強く、笑顔で語ってくださいました。そしてタクシーに乗って空港に向かわれました。
様々な方が、様々な思いでこのシンポに耳を傾けておられていたと思います。
私の中にも、深く残る日となりました。
自分の中でも整理しきれていないですが、これだけは早くお伝えしたかったので急いでアップします。
このような会を主催してくださった、「医療を支える関西オカンの会」の関根友実様、関わられた皆様方に感謝を申し上げます。
記事はまた後日。
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コメント
ご指摘を頂き、加藤医師が公の場に立たれるのは3回目であると直させていただきました。