認知症と運動の関係 |
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投稿者: 川口利 | 投稿日時: 2012年08月10日 17:24 |
先日ご紹介したWebMDの7月16日付け記事に認知症と運動の関係について出ていましたので、少し前の記事ではありますが、抄訳をご紹介したいと思います。
Exercise May Reduce Risk of Alzheimer's
Moderate Walking, Resistance Training Both Help Brain Health, Experts Findというタイトルです。
英文は、
http://www.webmd.com/healthy-aging/news/20120716/exercise-may-reduce-risk-alzheimers
をご覧ください。
最初に、幾つかの英語表現に関して和訳上の方針をお伝えしておきます。
1 レジスタンストレーニング
筋肉に負荷をかけて筋力を鍛えるトレーニングを指しており、筋力トレーニングと言ってもよいのかもしれませんが、カタカナでレジスタンストレーニングと表現することで特に問題はないようですので、カタカナ表記にしてあります。
2 Alzheimer’s Association
正しい日本語名が不明であるため、そのまま英語で表記してあります。
3 トーニング
ウェブサイト等で調べてみたのですが、どのような運動なのか定義が明確には分かりませんので、そのままカタカナ表記にさせていただきました。
以下、本文抄訳です。
身体的に活動的であることが、ウォーキングのような有酸素運動であれ筋肉を鍛えるためのレジスタンストレーニングであれ、脳を鋭くしアルツハイマー病になる危険性を減らす可能性を秘めていることを新たな研究が示している。
運動は、老齢者の脳をも成長させる、とピッツバーグ大学の心理学准教授で当の研究者であるKirk I. Erickson博士(PhD)は述べている。
彼の最近の研究によると、アルツハイマー病ではない60歳から80歳までの老齢者で、1年間週に3日、30分から45分間適度に歩いた人たちは、記憶に重要な役割を果たす脳の領域である海馬の容積が2%増加した。
彼は、記憶に重要な役割を果たす別の領域、前頭前皮質も発達させることを発見した。
「このことはかなり劇的と言える」とWebMDに対して語った。「わずか1年間の運動を適度な強さで行った結果なのだから」。
彼は、自分の研究成果をバンクーバーで開催された国際アルツハイマー病学会2012で発表した。
別の研究では、既に思考や記憶に関して脳に顕著な変化のある成人に対して、レジスタンストレーニングが与える恩恵が分かった。これまでのところ、記憶と脳の健康に対するレジスタンストレーニングの効果は、ほとんど研究されてきていない。
Alzheimer's Associationの予測では、約540万人のアメリカ人がアルツハイマー病を抱えている。
*運動とアルツハイマー病の危険性:研究
Erickson博士は、認知症ではないが過去6カ月間運動をしていなかった120人の老齢者を、1年間適度な強度のウォーキングをするグループとストレッチやトーニングをするグループに振り分けた。
研究の開始前に、海馬の大きさを測るために脳の画像研究を行った。また、前頭前皮質の大きさも調べた。「前頭前皮質もある程度記憶機能に関わっており、年齢とともに衰える傾向がある」と語っている。
血液を採取し、脳由来神経栄養因子(BDNF)と呼ばれる物質の濃度を測定した。「脳由来神経栄養因子は新しいニューロンの発達に不可欠である」とWebMDに語っている。「脳由来神経栄養因子は、学習と記憶にも不可欠であるようだ」。
男女ともに、一連のテストを受けてもらい、思考技能を評価した。異なる課題を行う間における切り替え能力や記憶力を調べた。
(研究結果として)海馬の大きさに2%の増加が見られた。「通常この年齢層では、1年に海馬容積の1%~3%を失う」と彼は言っている。海馬の大きさにおける変化は、脳由来神経栄養因子の血液レベルでの変化と相関関係があった。
より健康状態がよいこととより大きな前頭前皮質とが結び付くことも判った。
博士の助言は? 「長椅子から離れなさい」。運動とは、彼が言うには「脳の健康を増進するために最も見込みのある薬を使わない方法」になる。
*レジスタンストレーニングとアルツハイマー病の危険性:研究詳細
レジスタンストレーニングは、軽度認知障害(MCI)として知られる症状を既に有する人が認知症になるのを遅らせるかもしれない、とバンクーバー海岸健康調査研究所およびブリティッシュ・コロンビア大学の理学療法准教授で理学療法士のTeresa Liu-Ambrose博士(PhD)は語っている。
軽度認知障害は、認知症になる危険性を増大させる、とLiu-Ambrose博士は言う。「半数以上が5年以内に認知症という診断に変わっていく」。
彼女の目標は、レジスタンストレーニング或いは他の運動がそういった衰えを引き延ばすかどうか調べることだった。
研究では、70歳から80歳の軽度認知障害を有する86人の女性を三つのグループのいずれかに振り分けた。
1 各回1時間ずつのレジスタンストレーニングを週2回行う
2 各回1時間ずつの有酸素運動を週2回行う
3 各回1時間ずつのトーニングとバランストレーニングを行う
実施前と実施後に注意力・作業記憶・日常の問題解決などの精神的技能に関するテストを行った。
彼女が言うには、例えば、被験者は黄色いインクで書いてある“青”という単語を見て、単語を読み上げるというよりはインクの色を言うようにとの指示を出されるのだ。
実生活においてこの技能は、ドライクリーニング屋に立ち寄る予定があるため友達の家まで別の道を通って行く必要があるのを記憶していることにつながるかもしれない。
彼女は、年齢とともに問題になりがちな連合記憶もテストした。例えば、連合記憶に問題があると、お気に入りの店で大安売りがあると誰かが言ったことは覚えているが、それが誰だったかは思い出せない、と彼女は語っている。
バランストレーニングやトーニングを行ったグループと比較して、レジスタンストレーニングを行った人は注意力等のテストや連合記憶テストでの成果が向上した。
有酸素運動グループは、バランスおよび機動性と心機能状態の測定で向上が見られた。
レジスタンストレーニングは、既に認知力の衰えが見られる人にとってよい運動となるかもしれない、とLiu-Ambrose博士は語っている。
*運動と脳の健康:将来の展望
ラットガー大学記憶障害プロジェクトの責任者であるMark Gluck博士(PhD)は、今回の新しい研究成果に関しWebMDに対する批評を行った。
「これらの重要な研究は、脳の健康を保ちながらうまく歳をとっていくことへの道は、製薬会社の手にのみあるわけではなく、私たち自身の2本脚にあることに気づかせる」
新しい研究成果に基づくと、どの運動形態を脳の健康補助に勧めるのだろうか?
「今のところ、脳機能補助に関しては、レジスタンストレーニングよりは有酸素運動が果たす役割の方をより支持する。有酸素運動は、睡眠を向上させストレスを減らすことにもなり、これら二つは脳の健康と鋭い記憶を維持するのに重要である」
これらの研究成果は、医学系の学会で発表された。研究成果は、医学誌への発表に先立って行われる外部の専門家によるデータ精査という同種研究者の再調査過程を経ていないので予備段階とみなすべきである。