贔屓の引き倒し

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2016年12月21日 00:00

やられた、と思った。


20日の日経新聞朝刊にがん治療「オプジーボ」類似薬 米メルクが無償提供という記事が出ていた。


何をやられた、と思ったか。まずはMSD(米メルク)の、したたかさにやられた。


2月に薬価引き下げが行われるとは言え、その後でもオプジーボの薬価はまだ世界の水準から見て相当高い。同じく2月に薬価収載予定のキイトルーダも同程度になると考えられる。つまり、値引きしたとしても、充分に儲かる。


ただし、薬価収載後に値引きしてオプジーボから市場を奪いにいくと、その値下げした分、次回の薬価改定時に引き下げられて消耗戦になってしまう。


だが今回MSDが発表したような、薬価収載されるまでの間だけ人道的に無償提供するということなら、薬価改定の根拠に使われることなく、実質的な値引きで置き換えを進められる。


加えてキイトルーダは、オプジーボと違って、非小細胞肺がんの一次化学療法から使えることになった。キイトルーダがダメだった人にオプジーボを使うとは作用機序から言って考えられないので、これはもう大勢は決したと言ってもよいのでないか。


これを見越して、MSDは前回申請できるはずの薬価収載申請をしなかったに違いない。しかも、厚労省に恩を売りながら。正直、脱帽だ。


逆に言えば、厚労省が変な策を弄して、迅速にルール通り薬価を下げなかったため、MSDにこのような寝技を仕掛ける余地が生まれてしまった。内資メーカーである小野薬品工業に配慮したつもりだったのかもしれないが、贔屓の引き倒しになってしまったとしか言いようがない。


で、実は「やられた」にはもう一つある。それは日経新聞の記者に対して、だ。


記事を読んでいただくと分かるように、これは日経の特ダネでも何でもなくMSDが発表したものだ。実際に私の所にもプレスリリースがメールで届いていた。


そのタイトルが「抗PD-1抗体/抗悪性腫瘍剤「キイトルーダ® 非小細胞肺がんに対する効能・効果について一部変更承認を取得」だったため、はいはいそうだよね、と恥ずかしながら私は読まなかった。ところが、その2枚目に
MSDリリース抜粋.png
こういう記述があったのだった。


こちらに関しては、やられたというより、やってしまった、と言うべきか。

<<前の記事:新専門医制度は要らない    比較的歴史の浅い大企業にお勤めの65~74歳の方へ:次の記事>>