歯学部に入っても

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2017年01月06日 00:00

ひょんなことからアポロニア21という歯科医向けの雑誌を読んだ。門外漢が読んでも相当面白いのだが、なかでも1月号のとある記事に度肝を抜かれた。


歯科医師国家試験の合格率が近年は6割ちょっとしかなく、しかも合格率を低くしたくない私立大学は、合格できそうもない学生を卒業させず、大量の留年生を出しているというのだ。


記事の中には、直近の国家試験の各大学ごとの出願者数、受験者数、合格者数も載っている。


一番目立った某私立大学の場合、出願者が145人、受験者が98人、合格者が39人で、名目合格率が4割弱。出願していたのに受験しなかった学生は留年したと考えられるので、その数が実に47人と合格者数よりも多い。出願者を分母とする実質合格率は27%程度しかない。


また、名目合格率が8割を超えている別の大学も、出願者127人、受験者67人、合格者55人で実質合格率は4割ちょっとでしかない。


なんで、こんなことになっているのかと調べてみたら、歯科医が足りないという社会的要請から1960年代から80年代にかけて歯学部と定員が増え、需要が頭打ちになった後もあまり減らせなかったため、供給過剰に陥った歯科医の競争が激化することになり、そのコントロールのため厚生労働省が国家試験の合格率を政策的に下げているから、ということらしい。


歯科医になってから期待できる収入が減る一方で、歯科医になるまでのコスト(お金と年数)が膨れ上がるという現状は、一昨日のエントリーで示したような歯科医師に対する不信感が高まる原因になっているように思える。


歯学部に入ったのに結局歯科医になれなかったという例も珍しくないらしく、本人にとっても家族にとっても悲劇だ。


ここから色々な教訓を導き出すことは可能と思う。現在の歯科医療を前提にする限り、詰んでいるような気もする。


ただ私は、歯科医の守備範囲を劇的に広げ、それによって医師の仕事を減らし、得た余裕を「輸出」に向けて稼いでもらうことしか、日本の国民皆保険制度を延命させる方法はないと考えている。その前提に立つと、歯科医は決して余っていない。広がる守備範囲をスムーズにカバーできるはずの若く柔軟な歯科医候補の芽が摘まれないよう、社会的な関心を高めないといけないと思った、

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